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【黒の装殻】シェルベイル  作者: メアリー=ドゥ
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第37節:王手


「……ッ!」

 コウらが車で西エリアにある私設飛行場へたどり着いた時。

 丁度、黒の一号が手の中の銃と胸元を切り裂かれ、銀色のアンティノラⅦの腕が吹き飛んだ所だった。

 少し離れた場所では、電撃を纏った装殻者がシープを体当たりで吹き飛ばしている。

出力解放アビリティオーダー―――!』

 姿勢を立て直したアンティノラⅦが黒の一号へ向かうのと同時に、全身から白煙を噴き出す黒の一号がさらに拳を灼熱させる。

「ハジメさん!」

「黒の一号!」

 車を降りて声を上げるコウとアイリだが、激突した二人は拳を押し付け合ったまま何かを話している。

ボン。それにコウくん」

 声を掛けられて振り向くと、車の方へ向けて歩いて来たのは老齢のくたびれたスーツ姿の男だった。

 口に煙草をくわえて、目は飛行場内で繰り広げられる四人の戦闘へと鋭く向けられている。

「おやっさん? アヤさんは?」

「今は留置している。こっちの件を解決するのが先だからな」

「手配はどうなりました?」

 花立の問いかけに、おやっさんは頷いた。

「司法局長の許可を貰って、司法局員は半径一キロを封鎖している。中心地であるこの場には俺たち以外に誰もいない。手はず通りにな」

 おやっさんは、唇の端を上げた。

「司法局長って……どうやって?」

 アイリの驚きの声に、本来なら一般職員でしかないおやっさんが繋ぎを取れる相手ではない事に、コウも気付いた。

 局長、というのは、司法局のトップだ。

「ハジメ絡みの件だしな。っつーか、坊よ。お前さんはこないだ会ってるじゃねぇか」

「え?」

「ジンとパーティー会場に潜入した時に居ただろ?」

 アイリは、目をまんまるにした。

「え? あの司法局員さん? 運転手の?」

「そうだよ。気付いてなかったのか?」

「だって、司法局長って黒髪じゃ」

 コウは、テレビで見た司法局長、空井カヤの姿を思い出した。

 日本美人で、凛とした立ち振る舞いのストレートの黒い髪の女性だった。

「茶髪はヅラだよ。事が事だけに、あいつも表立って動けねぇからな。大人しくしとけと言ってたんだが、まぁ、相手がハジメだからな」

「カヤは義理堅いですからね」

 おやっさんの言葉に、花立が頷く。

 自分のところのトップを、まるで自分たちよりも下のように話す二人に、コウは問いかけた。

「貴方たちは、一体何なんですか?」

「僕も同じような疑問を覚えてるよ」

 二人の言葉に、おやっさんと花立は目を見交わしてから、おやっさんが花立に言葉を譲った。

「カヤを含めた俺たちは、元『黒の兵士シェルアシスト』だ」

「それって……」

 『黒の兵士』は、後に『黒殻アンチボディ』の元となった組織の名前だ。

 宇宙生物【襲来体イミテイト】が来襲した時に、【黒の装殻シェルベイル】をサポートする為に組織され、人類防衛の最前線に立った有志部隊。

 おやっさんが、花立の言葉に自分の言葉を重ねながら、ニヤリと笑う。

「俺たちは、人類を守る為にかつてハジメと共に戦った。それが、今回の件で司法局に奴を捉えさせようとした『サイクロン』の、一番の誤算だ」

「最初から最後まで、俺は黒の一号を逃がす為に動いていた。おやっさんも、ジンも、カヤもだ」

 花立は淡々と告げ、決着を迎えようとしている飛行場の戦闘を、冷然と眺める。


「―――ミスター・サイクロンは、策を巡らせた時から、既に積んでいたんだ」


※※※


限界機動ブレイクアップ!」

 シープは、伍号が地面を蹴ると同時に超加速状態に突入した。

 使い捨ての限界機動装置を、まだ隠し持っていたのだろう。

 しかし。

反応機動アップライド

 伍号には、敵の限界機動に反応して自身も超加速状態に突入する反応機動の能力が備わっている。

 最初から、シープに勝ち目等ないのだ。

 掲げた両腕に先に超加速を行ったシープが放った銃弾が当たるが、雷撃の熱によって衝突前に溶け崩れて行く。

 シープは、銃弾が効かない事自体は予測していたのだろう、超加速した伍号の眼前に銃弾を追うように迫っていた彼は、伍号の顔へ向けて爪の刺突を放って来る。

 伍号は、腕の間を抜けて来る爪に対して、僅かに顔を伏せて強靭な角に覆われた額で爪の一撃を受けた。

 爪がしなり、次いで折れる。

「何!?」

出力解放アビリティオーダー!」

 爪を砕かれ、驚きの声を上げながら姿勢を崩すシープに対して、伍号はシープの腹を膝で空中へ蹴り上げてから、必殺の技を放つ宣言を行った。

命令実行(ゲットレディ)

 補助頭脳が応え、伍号は冷徹に宣言する。

「《黄の雷撃(サンダーボルテクス)》!」

 伍号が撃ち放つ全方位型の雷撃陣が、シープの肉体を撃つ。

「があああああああああああああッ!」

 電撃に焼かれる苦痛に叫びを上げながら、シープが地面に落ちた。

 凄まじい雷撃の威力に麻痺(スタン)し、焼けた外殻から薄く煙を上げながらも、シープはなおも起き上がろうともがく。

 そこで、お互いに限界機動が終わるが。

出力解放継続(オーダー・ストリーク)!」

命令実行(ゲットレディ)ーーー継続(ストリーク)

 伍号が空へ跳ねると、その右足にエネルギーを注ぎ込んだ。

 電撃を纏い、右足が金色に輝き始める。

「アっ、出力解放(アビリティオーダー)の、継続、励起……!?」

 痺れによって動けないシープが、うつ伏せのまま伍号の方を見上げているのを目にしながら。

「喰らいやがれ……! 限界機動(ブレイクアップ)!」

命令実行(ゲットレディ)限界機動ブレイクアップ

 赤い月を背に、再度超加速状態に突入して月面宙返り(ムーンサルト)した伍号は。


「〈黄の蹴撃(ライトニングドライバー)〉ァァアーーーッ!」


 その身に纏った雷電と共に、宙で螺旋を描きながら倒れたシープの体を蹴り抜いてーーー地面に、渦を描くクレーターを作り出した。

限界機動解除(ブレイクオーバー)

 蹴りで肉体を砕かれ、そのまま衝撃で弾け飛んだシープの心臓部から上の残骸が、派手な音を立てて転がり。

 ヘリを収納していた整備ドッグの壁に激突して、動かなくなる。

 超高温の電熱により溶けて固まった地面が湯気を上げる真ん中で、伍号は、ゆっくりと立ち上がった。

「勝手な事して爪弾きにされたあげくに死ぬ事を……自業自得っつーんだよ、馬鹿が」

 伍号は、シープの残骸へ向けて、横に伸ばした右手の親指を下に向けた。

 境遇は理解出来るが、伍号は同情しない。

 普通に生きる事を『鼠のような生き方だ』と否定したのは、他ならぬシープ自身。

 幸せを望むのと、好き勝手に振る舞う事の区別もつかない、愚か者に相応しい末路だとすら、思った。


 ……黒の一号に殺された友の事も、いずれそう思えるようになるだろうか。


 ふと考えた伍号は、すぐに頭を横に振って告げる。

「解殻」

出力制限(コンバットオーバー)

 補助頭脳の宣言と同時に伍号の全身を覆う装殻が解除され、彼は人間、茂見ジンの姿に戻ると、飛行場に到着したコウらの元へと歩き出した。

 

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