第33節:妨害
飛行場に辿り着き、ミスター・サイクロンとシープは協力者の手助けを借りて、秘密裏に用意していたヘリに向かっていた。
「む?」
「おや」
停められたヘリを目指して飛行場を横切るように早足に歩いていた二人は、彼らの行く手に立ち塞がる相手を見て足を止めた。
ヘリを準備していたと思しき飛行場職員の制服姿をした人物が、ヘリから少し離れた場所に拘束されて横たえられている。
「誰だ?」
「情報屋だよ。名前は、ジン。……茂見ジンだ」
薄く笑みを浮かべた、粗野な雰囲気を持つその男は、風に纏めた後ろ髪を靡かせながら、ポケットに手を突っ込んで立っていた。
「散々苦労させてくれたお前等の顔が、ようやく見れて嬉しいぜ」
「……黒の一号の協力者か」
ジンは軽い仕草で首を傾げると、ポケットから手を抜き出して、右手を耳元に持って行った。
「ま、足止めってヤツさ。時間稼ぎとも言うけどな。散々、お前等の時間稼ぎに付き合ったんだ。こっちにもちょっとは付き合って貰わないとな」
「解せないな」
ミスター・サイクロンは、警戒しながらも胸元に拳を持って行く。
「どうやってこの場に我々が現れる事を知った」
「マタギさ。お前らの策にハメられた事を根に持ってたぜ」
ベアーの本名に、ミスター・サイクロンは不快な感情を抱いた。
「どいつもこいつも、下らん事だ。捨て駒として大人しく散れば良かったものを、余計な事をする」
「奴を侮辱する事は許ねぇ。ベアーは、誇り高く死んだ」
ジンが表情を消して怒りに瞳を染める。
だが、ミスター・サイクロンは意に介さなかった。
代わりに、シープが口を開く。
「こちらの動きを捉えていたなら、何故今の今まで沈黙していたのです?」
「ハジメさんを、司法局に持っていかれる訳にゃいかないんでね」
ジンは左手で背後のヘリを指差した。
「アレは俺達が使わせて貰う。その準備に、泳がせたんだ。ヘリの予約は満員だ。お前等を乗せる座席はねぇ」
ジンの言葉に、今度はシープが冷たく目を細めた。
「ベアーの動きは、不可解だとは思っていました。彼が黒の一号の動きを把握していたのは、貴方が仲介していたからですか」
「ああ。ハジメさんをハメただけあって、頭はよく回るようだな」
ジンが小さな呟きと共にピアス型の装具に触れると、彼の体を外殻が包み込む。
現れたのは、白くのっぺりとした装殻だ。
だが、焼け焦げて破損していた。
その様子を見て、ミスター・サイクロンは微かに眉を潜める。
「ベアーが爆発した現場に居たか。巻き込まれて生きていたのは賞賛に値するが……その壊れかけの装殻で、人体改造型二体を相手に勝てると思っているのか?」
「さてね。試してみればいいだろ?」
ジンの言葉と同時に、ミスター・サイクロンとシープもアンティノラに変じる。
シープは本来のアンティノラの色である黒色。
しかしミスター・サイクロンは。
「聞いてたのと外見が違うな」
ジンの呟きを肯定するように、ミスター・サイクロンは頷いた。
今の彼は、光沢のある銀色の外殻に緑の双眼を持つ外殻となっていた。
再改造の証として、外見を変化させたのだ。
「アンティノラⅦ改。黒の一号に元のボディを壊されたからな」
「情報屋。死ぬ前に、言い残す事はありますか?」
アサルトライフルを形成しながら問うシープに、ジンは肩を竦めた。
「一つだけ教えて欲しいんだけどな。人体改造型は、他の装殻を扱えない。だがミスター・サイクロン。あんたは、最初出てきた時にカメレオンタイプの装殻を纏っていたと聞いた。どういうカラクリだ?」
「その事か」
目の前の雑魚など瞬殺出来る。
そう判断したミスター・サイクロンは、自身の銀の大鎌を形成しながら少しだけ付き合ってやる事にした。
「北野アヤによる設計図から、我々はEgとは逆の作用があるクスリも試作していた。装殻適合率を一時的に下げる薬物だ」
「Dg、とかいう奴だな」
「そうだ。纏身すると適合率は元に戻るが、そもそも人体改造型が他の装殻を拒絶するのは人間態であってもコアが稼働しているからだ。適合率を下げる事で、コアは生命維持に必要なエネルギー供給のみを行う休眠状態に入る」
身体能力も人間並みになるが代わりに他の装殻を纏える、という副作用を発見したのは、ミスター・サイクロン達にとっても偶然だった。
「なるほど。……まぁ、考える事は皆一緒か」
ジンが不可解な事を呟くが、ミスター・サイクロンは反応せずに大鎌を構えた。
「無駄話は終わりだ。そろそろくたばれ」
ミスター・サイクロンは踏み込み、ジンに襲い掛かった。




