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【黒の装殻】シェルベイル  作者: メアリー=ドゥ
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第25節:理由


「んー……」

 病室のベッドで、眠れないアイリはマタギの伝言について考えていた。

「ビトウって、一体何なんだろうね?」

『ネットで調べたら出てきたな。ミイラと関係がありそうなのはこれだ。『アヌビス兄弟物語』という神話だ』

「アヌビス……?」

 その単語に、アイリは聞き覚えがあった。

 確か、ウォーヘッドと戦っている時にマタギが黒の一号に対して言っていたような気がする。

「アヌビスって、何なの?」

『神話では、死者の神だと言われているな』

 黒い犬のような頭をした女神の画像を、マサトはアイリの視界に映した。

「犬の神様なの?」

『正確にはジャッカルだな』

「そ動物の名前も、何か聞いたよーな気がするんだけど……」

『検索でヒットするのは、北野シュリの装殻だよ。ジャッカルF型と呼ばれる装殻を使用していた』

「じゃあ、アヌビスっていうのは、北野シュリのコードネームかな」

 マタギも、黒の一号にベアーと呼ばれていた。

 『サイクロン』は、装殻名をコードネームにしていたのかも知れない。

『ビトウ、というのは、その兄弟物語に登場するアヌビスの弟の名前だ』

 マサトが言い、アイリは眉をしかめた。

「マサト。もしかして、もう答え分かってる?」

『そこまで複雑な話じゃないからな。提示する情報は整理した方が分かりやすいだろ?』

「マサトって、僕の事を馬鹿にしてる?」

『それに関しては、黙秘する』

 笑みを含むマサトが花立室長の口調を真似するのに、アイリは頬を膨らませた。

「やっぱり馬鹿にしてるじゃん。つまり、北野コウがミイラと一緒にいる、って話なんでしょ。でも、ミイラって何なのさ? 北野シュリのお墓にでもコウがいる、って事? でも、そんなずっといる訳じゃないでしょう?」

『そこまでは何とも言えないな。何に関するヒントなのかもよく分からないしな』

 アイリはそこからミイラの資料を調べ始めたが、よく分からない。

 次にアヌビス兄弟物語と言うものも見てみたが、ヒントになりそうな事は書いていなかった。

 時計は夜中の零時を回っている。

 流石に疲れが限界に達したアイリは、寝ようかな、と思ったが、ふと思いついて、ジャッカルの頭を持つという女神……兄弟物語ではない方のアヌビスを調べてみる。

 そして、一つの文章に目を止めた。

「これ……え、だったら」

『何か分かったのか?』

 戸惑ったようなアイリの声に、マサトが反応した。

 眠気が吹き飛んでいた。


「『ミイラはビトウと共に在る』……マタギが残したのは、黒の一号の居場所だ」


『ミイラが、黒の一号の事だと?』

「そうだよ」

 アイリは、自分が見つけた一文を指差した。

 網膜に表示されているものだが、マサトには見えている。

「アヌビスの体が黒い理由は、ミイラを作る時にタールを塗り込めた遺体が黒くなる、ってところから来てるんだって」

『黒……』

「黒の一号は、艶のない黒の外殻を持ってる。……ミイラは、黒の一号を指しているんだ」

『最初から怪しかったが、確定だろうな。やっぱり北野コウは何かを隠していた。それは恐らく、北野シュリの死に関する何か、だ。何か事情がなければ、奴が北野シュリを殺した黒の一号を匿う理由が無い』

 彼は被害者の親族だ。

 黒の一号と関わりはあったが、今は憎む対象でしかないはずだった。

 その彼が、あまり黒の一号に対して悪意を持っていなさそうな事を、アイリは最初に出会った時に感じていた。

「北野シュリの死には、まだ、僕たちが知らない事情があるんだね」

『聞きに行こう。だが、眠ってからだ』

「何で?」

『おやっさんからメッセージが入ってる。明日、北野アヤに会いに行く、と。任意同行の正式な令状が出たらしい。朝9時にならないと令状は執行出来ない。どうせ行くなら、付いて行く方が楽だろ』

「もたもたしてたら、黒の一号に逃げられない?」

『逃げたなら逃げたで、良いんじゃないのか?』

「え?」

 マサトの言葉に、アイリは虚を突かれた。

『俺は、アイリを助けてくれた黒の一号に感謝している。逃げるなら逃げてもいい、と思っている。アイリは違うのか?』

「……それは」

 アイリは、言い返せなかった。

『何故、アイリは黒の一号を追う? 彼が殺した北野シュリは、寄生殻だったかも知れない。なら俺達が彼を追う理由は、彼が指名手配犯である事だけだ。アイリはもし仮に、追えと言われなくても黒の一号を追うのか?』

 黒の一号は、アイリの恩人だ。

 マサトの言葉は全てが的を射ていて。

「僕は……」

 でも、アイリは何処か納得出来ない自分が居るのを感じていた。

「それでも、黒の一号を追いたい」

『何故?』

「多分、知りたいんだと思う……司法局の捜査員としてじゃなく、正戸アイリとして」

 アイリは、自分が真実を知りたいのだ、と、そこでようやく自覚した。

「そう、事実じゃないんだ。僕が知りたいのは。起こった事の事実関係とかじゃなくて、僕は、黒の一号が、何を思って北野シュリを殺したのか。それが知りたい」

 マサトが、少し黙ってから笑った気がした。

『でも、やっぱり寝よう。黒の一号は、逃げるならとっくに逃げてるんじゃないかと、俺は思うよ。まだ逃げてないって事は、決着がついていないからだ』

 未だ、司法局には全容が掴めていない犯罪組織『サイクロン』。

 マタギは、そのトップではない。

 つまり、この街にはまだ黒の一号の敵がいる、という事だ。

『黒の一号が敵と戦うなら、その時は必ず兆候がある。居合わせる為には、きちんと体を休めて動けるようになっておかないとな』

「誰のせいだと思ってるのさ」

 しばらくは痛みが取れないだろう。

 それでも確かに、眠れば少しはマシになる。

 大人しく従うのが癪で、恨み言を口にしたアイリに、マサトは平然と言った。


『マタギにやられて、気絶したアイリのせいじゃないかな』

 

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