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ぷるりんと異世界旅行  作者: wawa
誓約の地~エスクランザ天王国
98/221

08 愛という名は無敵?


 だだ座っていただけなのだが、厳粛な式典に緊張していた私。ズラズラと整列された人々の中を歩くのは、中学校の卒業式以来である。それ以降高校からは空気を読んだ学校側の配慮により、以下同文、代表者一名のみの短縮だった。もちろん私が代表者一名になったことなどない。


 (ふるえる、私、さらし者?)


 だが衆人環視は私ではなく、二人の男に向かっている。


 セーフ。セーフ。


 お雛様の最上段、そこで婚約者(仮)様と痴漢男のやり取りを見学し、痴漢が昨日の夜に言っていた、勝手に結婚宣言をこの場で言い出さないかハラハラしたが、それは無事に回避出来たようだ。


 神社から出ると偉そうな巨人婚約者(仮)様に手を引かれ、整列したマスク達の間を通り抜ける。巨人は珍しく大きな声で別れの挨拶を言ったのだが、マスクたちや神主さんたちがウンともスンとも返してくれなかったため不安定が高まった。


 (巨人、無視されたの?あんなにはっきり偉そうに言い捨てたのに、無視されたの?)


 そうこうハラハラしたのだが、参道途中の商店街にやって来た。そこでもう一つの異変に気がつく。いつもは商店街通りで、若い娘達にキャーキャー言われている痴漢男だが、今日は辺りが静かで不気味な感じがした。


 (おじさんたちは痴漢が苦手なのは前からだけど、女の子たちもノーリアクション?・・・巨人が一緒に居るからかな?)


 人の好みは様々なのだが、痴漢王子一択から選択肢にイケメン巨人が加われば、どちらに黄色い声を叫ぶか迷ってしまったのかもしれない。


 (乙女心は複雑だよね。そうだよね)



 大旅館に戻ると精進料理の朝ご飯が待っていた。


 お米のご飯ではないが、この雑穀米擬きをこれから先はしばらく食べられないかもしれない。我が国のソールフード、アイラブ・コメに似ているので、とても惜しいのである。


 (旅のお供ににぎりめしを所望したら、作ってくれるかな?いや、待てよ。お土産商店街通りで、弟か婚約者(仮)に焼おにぎりをねだってみたら、買ってくれるかな?)


 無銭飲食に磨きがかかる、今日この頃。


 働きたいのだが今の巫女というポジションは、実は未だに分からない。この国では朝や昼に神社に参拝したり、意味の分からない痴漢男との散歩が苦痛なだけだった。


 これといった仕事は全く無い。精神疲労はヒソヒソガールズにヒソヒソされたり意地悪されたりしたくらいだ。この曖昧な数日間が労働と認められるのか、一体時給がどのくらいなのかも分からないのが現状だ。


 攫われて来たこの身、私個人の時間は常に拘束されているが、労働と言うには余りにもお散歩感が出すぎである。


 (せめて社務所でおみくじを販売するくらいのアレがないと、巫女として労働した感は主張できない。でも犯罪被害者だからな、人質としての衣食住は犯人側が用意して当たり前のものなのかな?)


 ご飯が終わるとアピーちゃんは上の空で、ぷるりんはお散歩に何処かへ行くと身体を抜け出して行った。おそらく昨夜に話していた、ぷるりんの仲間達に会いに行くのだろう。話の雰囲気に、私は行かない方がいいと痴漢男が言っていた。


 ぷるりんのプライベートの邪魔をする気はサラサラない。むしろぷるりんは話しかけても無視するのだ。例えばこんな感じに。


 ーー「ぷるりん、今日は良いお天気ですね」


 ーー(・・・・)


 ーー(・・・・またムシされた)


 みたいな感じだ。再会後、常に私の身体に内在されて居る奴は、暗がりの廃材置き場では饒舌に痴漢男と話していたが、私がこの様に気軽に話しかけても無視するのである。


 (あの時はけっこう早いペースで入れ替わって、お話ししてたのに!)


 まあ適当に天気の話題を振った私も、捻りも用事も無いのだが。人は大して話題が無いときに天気の話をよくするらしい。それが老いるごとに病気の話へシフトチェンジ。例えばこれ。


 ーー「最近、肩がコルよね」


 ーー(・・・・)


 老いの坂道、登れば下る、ああ無常を嘆き悲しんだ人生の問いかけを、ぷるりん氏はいつも通り完全ムシ。


 そして語学勉強を兼ねて、係の女性達に些細な何かを尋ねても完全スルー。話しかけは、大切なコミュニケーションの一環だ。これを怠ることで、係の女性達の様にノーコミュニケーションになってしまう。今日はいつものノーめんガールズでは無く、別の係の女性達なのだがノーコミュニケーションは同じ事。先程メアーさんの事を尋ねたら、完全スルーされたのである。


 ぷるりんからもムシ。

 周囲からもスルー。

 ボッチとムシ、どっちがましか?


 (そんなの、どっちも悲しい・・・。メアーさんとまた会えた時は、盆と正月気分だったのに・・・メアーさん、)


 手打ち宴会後、メアーさんを見ていない。彼はほとんど年増色白アジア風とばかり話し込んでいたので、大して交流出来なかった。福祉施設の皆さんは、お元気ですか?黒豹は色黒バカ女のコスプレ会場で遭遇したけど、悪漢や食堂のおじさんはお元気ですか?


 (・・・?、待てよ?あれ?私、そういえば、後半ぷるりんとあの施設から逃げ出したんじゃなかったっけ?)


 初めてぷるりんが身体に入った時、監禁だの物騒な内容だったような。


 (・・・・まあ、でも、それってきっと、フロウ・チャラソウが仕組んだ事で、メアーさんには関係無いよね)

 

 彼は国境なき医師団。だから海を渡ってここに居るのだ。そんな崇高な意識の彼に、また会いたい。お話したい。


 そうでなければ、ボッチとスルーが手を繋ぎノーめんで私に向かって来てしまう。まあ、実際この状況、私が原因を作っている事も知っているのだ。 


 ぷるりんへの語りかけは、セルフ・マイ・セルフ。全て周囲からは独り言に見えるだろう。通常に独り言を宙に語りかける、そんな危険人物を警戒し、距離を置いて見守る事は当たり前の自己防衛かもしれない。


 そう、私はセルフ・マイ・セルフの危険人物なのだ。


 (納得した・・・確かに、ノーコミュニケーション達が、ノーめんで自己防衛するのも無理はない)  


 

 目から鱗の結論に達したところで、タイムリーに係の女性がやって来た。そしてお着替えタイムである。何度も袖を通したが、やはり着物擬きの着方は分からない。脱いだ時に、試しに一人で着付けてみたがガタガタのヨレヨレだった。

 

 [天上巫女様ミスメアリ、エオト*巫女シスト*、******]


 『エオト・シストって、確か、』


 ドローンの国へ出発する前に着替える準備をしていたら、あの女が現れた。ヒソヒソガールズの筆頭、背中ドン女である。


 [*****、*************]


 『・・・こんにちは、何か用ですが?』

 

 結構な強さでドンされた私は、この失礼な女が痴漢男にメロメロだということを知っている。私の嫌いな恋は盲目女、恋の免罪符で他人を切り捨て御免な自己チューは、こちらが御免被りたいのである。


 (あんまり、関わり合いたくない・・・。しかもここには痴漢男が居ない。最後の最後に何をドンされるか分からない、)


 私、今日、ドローンの国へ旅立ちます。もう、そっとしておいて欲しい。


 [****、*********]


 彼女は何かを係の女性に渡すと、部屋の中には入って来ずに去って行った。ほっと一安心である。


 係の女性の手には袱紗に包まれた奇麗な紐が数本。身振り手振りで、それが着物の帯の形を整える物だと教えてくれた。


 [**********、美しい****]


 (美しい紐、仲直りプレゼント?背中ドンの謝罪?)


 ところどころ、ラメが入っているのかキラキラしている紐。可愛い。着替えの前ということもあり、係の女性はその紐で帯を結んでくれた。


 この国の帯は、我が国の帯よりも柔らかい素材で出来ている。ぐるぐると腰に巻き付けて、数本の紐で留めて形を作るのだ。完成された帯は、蝶々の中心に花びらがあるお花の様だった。素敵。


 いつもはノーコミュニケーション係の若い女の子、だけど着付け時は私の笑顔につられてにっこり笑いあった。このぐるぐるの帯のお花は彼女の力作なのである。


 (ぐるぐるの帯?)


 不意にまた余計な事を思ったのだが、昔何かのコントで見た、帯をくるくると回して、チョンマゲ悪代官が若い女性を襲うコント。あれ、現実的にとても難しいのではないのだろうか?


 異世界でも我が国でも、着物の帯の形を作るのには何本も帯の内側を紐で固定するのだ。くるくるっと回した後に、さらに待ち構える紐に紐。


 回される方にも、それを速やかに外し、更に踏まずに転ばないという連係プレーが求められる、まさに職人技である。それをスタッっとやり熟し、それからウフンアハンに持ち込む演出ネタで笑いに誘う、まさに神業、カミッテルのである。


 (カミッテル・・・これも使用法が違う気がする・・・。でも、ニュアンス的にはあっている気がする・・・)


 そんな帯コントカミッテル使用妄想の中、私をボッチにしたぷるりん氏が戻って来た。マスク代表の肩にインコちゃんの様に乗っている。その滑稽な姿に癒やされたので、私をムシしボッチにした事は忘れてやろう。


 私は大人の女なのだ。



**



 我が国の懐かしい破片が散らばるこの国を、出発する時間がやって来た。



 結局のところ、空から私の様に落ちて来た人に巫女や神官として別枠職業を与え、彼らがこの異世界に建築物や神々の像を作っているのは分かったのだが、それまでなのだ。


 南国アジア風が私の心を抉った、空から落ちて来た犠牲者みこ達はこの異世界で亡くなったという事実だけを、毎朝の参拝の中で考えさせられた。


 だって毎朝の神社仏閣巡り参拝ツアー、その一カ所は明らかに歴代の空から落ちて来た犠牲者のお墓参りだったのだ。


 社殿の裏手、広葉樹林に囲まれてぽかりと広い泉はある。その泉をぐるりと取り囲むのは、全て我が星の映像で見た事のある、様々な形のお墓だった。もちろんその中には我が国のメジャーな形の墓石もあった。



 それを毎朝見る度に思っていた。



 私はここには眠らない。



 我が星の手掛かりの多いこの国には、またいずれ行動制限の掛からない、巫女から他の職業にジョブチェンジしてから探索しに来ようと思う。



 小さな箱に詰められて港へ運ばれる私は、今は心強いぷるりんを再び装備している。ゆらゆら揺られ、港町へたどり着くと既に婚約者(仮)様と弟達が待っていた。


 港ではアピーちゃんが弟のドローンを嫌がり船で帰りたいと言い出したり、マスク代表と元気な少年がドローンの国へ一緒に相乗り希望の騒ぎはあったが、なんとか無事に話は収まったようだ。


 アピーちゃんは可愛い頬を膨らませ不満げに弟と相乗り、事前予約無し、突然相乗り希望の迷惑な客であるマスク代表と元気な少年もそれぞれドローンに乗り込んだ。


 痴漢男は男前な顔つきの巨人のドローン、私はもちろん婚約者(仮)様と相乗りである。黒い特別仕様ドローン・ドーライア、足場は不安だが今や安定の乗り心地、シートベルトは婚約者(仮)様の長い腕。


 (あれ?これって、すごく憧れシチュ?)


 背後から男性に、ぎゅ。


 見上げる私。奇麗な婚約者(仮)様の高いお鼻の穴からは、不思議と鼻毛は見えないものだ。巨人イケメンは鼻毛にも隙が無い。鼻毛探求中に、見下ろした彼と目が合った。


 (彼・・・?)


 きゃ!


 慣れない表現、慣れない状況に猛烈に意識してしまった私。照れ隠しに周りを見ると、年増色白アジア風が笑顔で手を振っていた。その周囲にはノーコミュニケーション女性代表に、彼女の隣には着物着付けで親密度を上げたノーコミュニケーションその二女性。更に後ろにはヒソヒソガールズが無言で待機中。あれ?これって、してやったり?逆ハーキャッキャうふふではないが、これって見せつけた事になる?ミッション・コンプリート?


 だが実際こうなると、ふふん、いいでしょ?、見て見て、ではない。ただ照れるのだ。ヒソヒソさん達の先頭は、奇麗な帯紐で仲良しアピールの背中ドンさんである。彼女は今も、痴漢男を切ない顔で見つめていた。


 (・・・まあ、恋は盲目は賛成しないけど、貰った紐の分、痴漢男に彼女の健気さを伝えてあげよう・・・)


 痴漢男を見つめた後、私に微笑んだ儚げな表情を見て思った。恋って何だか難しい。相手への思いやりが優るのが愛なのか、自分の思いの強さを強調したいのか、時と場合によるだろうが、今の私には理解不能だ。


 そんな事を考えながら、巨人から背後ハグを味わう贅沢三昧の私は空に舞い上がる。


 地上で手を振る大勢の人々、どんどん地面が遠くなる。ここは港町なのだが神社のある内陸で、まだまだ海は先なのだ。ドローンは先に進まずに上へ上へと上昇中。


 (遠くに大きなお船、あれに乗りたいってアピーちゃんがごねてたのか)


 可愛いアピーちゃんは、やはりドローンが怖いのだろう。今は大人しく弟のお腹に目を瞑ってしがみついている。清々しい風がだんだんと冷たくなり、耳がキーンとしてきた。見下ろした人々は豆粒よりも小さくなった。


 (また来るね。ぷるりんと相談して、今度は攫われずに、旅行プランを立てて、この国で帰る手がかりを探すよ)


 ぷるりんは私と帰り道探求のグランふふーんしているが、ドローンの国へ帰る事を優先した。今はそれに従うのだ。私にはプランも手だてもお金も無い。今はぷるりんに従う事が、帰り道の近道だと思っている。

 

 

 そう決意を新たに名残惜しい国を見下ろした時、私は強い力で空中に投げ飛ばされた。




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