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ぷるりんと異世界旅行  作者: wawa
誓約の地~エスクランザ天王国
85/221

02 そのものの名は混沌


 社殿の中は円上の室内に神像ぐうぞうが数体。我が祖国でもお馴染み、そう、アジア大陸全域に浸透し人々を見守るお方。天上天下唯我独尊を詠い戒める、あのお方のお顔立ちにそこはかとなく似ている。そのお隣の神像ぐうぞうは翼を背負い、赤子を抱きしめて優しく微笑む女神様。こちらも欧州や米州を股にかけ、大陸全土、我が祖国でもお馴染みの救世主のお母様を彷彿とさせる。


 その他にも、我が星ではお馴染みの神々の神像ぐうぞうが、中心の大きな木を取り囲む様に壁面に並んでいるのだが、これでは宗教戦争は起こるまい。


 (皆、仲良さそう・・・)


 様々な神々が居並ぶことは壮観だが、衣装や雰囲気の違いは仕方が無い。だがこの社殿に並ぶ神像ぐうぞうは、全て白い石で造られているのだ。なので統一感はある。


 (この異文化交流、まさに八百万。八百万の神々。神仏混交、いや、混沌・・・)


 そんな思いを馳せながら神々を見上げる私に、色白アジア風が声をかけてきた。そして彼が会話の途中に突然顔を上げたので、つられてそちらを見る。


 (なにあれ)


 [*******!*************!?]


 入り口には女の子ハーレムを引き連れて、笑顔で現れた青年が私を見下ろしていた。


 (あれ?この人も色白?)


 二人目の色白アジア風登場。一人目と同じくキレイ系。こちらは少し若そうだ。髪の色は黒色、ボブではなく短め。前下がりの長い前髪はアシンメトリー風。彼も私にうやうやと挨拶をしてくれる。この地でも、私の拝まれるだけ巫女職は健在なのだ。


 会話を交わす二人の色白アジア風。

 しかし、なんだこの雰囲気。


 (後ろに立ってる女子達からは、お友達になれそうな雰囲気を感じない。むしろ睨まれてる?)


 中でも特に青年の横隣に立っている人が怖い。彼女達は私みたいな着物を着ているのだが、一番こちらを睨んでいるあの子の着物の色はブラウン系。他はみんなホワイト系。


 じろじろ、ぎらぎら、じろじろ。


 この視線には覚えがある。


 きっと隣の男に近寄るなと、警告を発しているのだ。


 望むところだ。こんなに女を侍らせて、神聖な社殿をデート活用でチャラチャラと乗り込んで来る様な軽薄には、いくら顔が良かろうが興味は無い。


 (女とチャラチャラしているが、お前にはチャラソウ称号は授けない)


 見た目に、こいつはフロウ・チャラソウより貫禄が足りない。これではただのチャラチャラだ。あだ名チャラソウを授けるには、大人の魅力を兼ね備えた、フロウ講師を超える事が必須条件。


 [[・・・・]]


 そうこう脳内思案を展開していると、いつの間にか二人の色白アジア風に見下ろされていた。そしてチャラリと手を差し出される。


 (お手?お手をプリーズ・ミーしているのか?こいつ)


 アピーちゃんであれば絵になるが、私?もう直ぐ二十ルスロー歳の、大人の女性にお手プリーズ?


 (ナメテンノカ?)


 私はクールに目を細める。若造ナンパ野郎の差し出した手を取らず、一歩下がると年増の色白アジア風を見上げた。


 (お兄さん、なんとか言ってやって。この年下に、年功序列ハラスメント、ガツンと落としてやって。私が応援するから)


 言葉は通じないのだが、あの手を取れば私は屈辱にもチャラチャラハーレムの末尾に参列しなければならない気がした。そんな空気を察した私。


 そんなことはゴメンだ。

 拒否の姿勢で年増を見上げ続ける。

 けしてナンパ野郎とは目を合わせない。


 『お断りの通訳をお願いします』


 [?]


 「無理無理、むりむり。私は帰ります」


 [??]


 『・・・あれ?』


 なんてことだ。ドローンの国でも通用した、異国の魔法の共通言葉が使えない。


 『えーと、えーと』、

 〈行くぞ、迷子になるなよ〉


 アラフィア姉さんと弟が使用していた方言、レッツ・ゴーを披露。すみやかにこの場から移動希望・移動切望。


 [[・・・・]]


 これも駄目か。


 共通語も方言も通用しない。全くの未開の異郷へ来てしまったのか?私を見下ろす年増色白アジア風の表情が、怪訝なものへと変わっていく。そして彼は遠くを見つめ出した。


 (・・・ここで私を見捨てるの?)


 たたでさえ、女豹達が目を輝かせて獲物の私の粗相を粗探しで見ているのに。


 敵の陣地で一人きりなのに。

 静まり返る社殿。

 いたたまれない空気。

 私は敵前逃亡を図ることにした。


 逃げ生き延びることは、最善の策。

 結果に関わらず、生き延びる事こそが全ての勝利。


 私、無益な争いは好みません。


 どうせああいう人達は、何をしてもあーだこーだと難癖つける、難癖職人なのだ。そんな者達とは取り引きはしない。


 良質な難癖クレームは後の改善に繋がるが、悪質な難癖は付ける方のストレス発散なのだ。


 悪質難癖という意見を披露したいのならば、自分でゲットした心温かい友人に、友人が居ないのならば、金を払ってカウンセラーに披露すればいいのだ。


 お金を払えば悪質難癖にも笑顔でフォロー。世の中の酸いも甘いも語り合い、新境地を切り開けるかもしれない。


 お手プリーズ交渉は決裂した。

 年増色白アジア風も弱腰外交で私を放置。

 ならば自分でこの場を去るのみである。  


 ぺこり。


 くるり。


 颯爽と社殿を後にする私。

 あっさりと敵前逃亡成功。

 そして、この国を脱出。


 ーーとはいかなかった。


 何故だろう。気付けば私の後ろには、ぞろぞろと決裂した交渉相手が付いてくる。隣には自然にチャラリトが並び出した。


 (なにこの不自然、年増、年増はどこ?・・・居ない・・・?)


 本格的に見捨てられた。

 私をこの神社擬きに連れて来た年増色白に。


 所詮はその程度の付き合いだったのだ。やむを得ない。これは大人の付き合いなのだ。利益が無ければ付き合いは切られる。そんな世知辛い世の中なのだ。


 隣に並ぶチャラリトを見上げる私。

 胡散臭い笑顔でこちらを見下ろすチャラリト。


 『・・・・』

 [******、**]


 ナチュラルに脱走の機会を逸した上にいつの間にか奴に誘導され、私は軟禁部屋に連れ戻された。そして夜は皿数の多い精進料理の数々をご馳走になり、至れり尽くせりで風呂まで用意される。


 そう、風呂だ。お風呂なのだ!


 白い石造りの広い大浴場、湯船!


 お湯だ!


 (あせらない、あせらない)


 焦る気持ちを抑え、冷静に身体を洗う私。


 (あわてない、あわてない)


 これは夢かもしれない。


 この世界に落とされて数カ月、お湯に浸かったことは無い。チャラソウ本殿も巨人本殿も世界遺産的お城にも、あったのは湯気蒸したサウナに近いものばかり。


 溜められたお湯に、どぼんなんて、夢の又夢。


 (くんくん。湯気。本物。森林の香り)


 そっと足を入れる。

 徐々に浸水。


 どぼん。


 『くっ、』


 染みる・・・。心に、身体に。全体に。


 『ふぉあー・・・・・・』


 お湯。良い。


 『善い・・・』


 全てのケガレがハラワレル事も無理はない。


 ・・・いい・・・。


 じんわりと染み入る私の最上に、突然人影が現れた。


 ホワイ?


 湯気の影から現れたのは、チャラリト。


 何故だ?何故お前がここに?


 (混浴か?)


 私と目が合ったチャラリトは、薄い襦袢を着ている。お風呂でそれはルール違反だろう?タオルだって駄目なのだ!


 『!?』


 しかも奴、そのままお湯にどぼんしやがった。

 身体も洗わずに。

 信じられない。絶句。

 せめて洗う姿勢だけでも見せて欲しい。


 (なんなのだ、こいつ、)


 私はクールに平静を装うが、笑顔でにじり寄ってきたチャラリトに、にじりと一歩下がる。当たり前だ。私は真っ裸。すっぽんぽんなのだ。しかし奴はデリカシーゼロでにじりにじりと寄ってくる。浴槽の縁に追いつめられた私。ヘラヘラと近づいて来た軽薄を睨みつけるが、なんと、伸びてきた手が私の巨乳しーかっぷをぎゅってした。


 ぎゅっ、てした?


 (何、こいつ、)


 好きでも無い。やる気もムードも無いのに、突然ぎゅってされて、即座にアハンウフンとなるものか?


 それは演出された画像の幻想。

 現実的には『は?』で、ある。


 突然襲われた身体には、自分を護るために保護機能が備わっていてそれの反応は人それぞれだとは思うが、私的には『は?』である。奴は何だかコメントしているが『は?』である。


 『・・・・・・・・』


 ザバリと波立たせ、無言で立ち上がり目の前の男を睥睨する私。間抜けにも口をぽかんと開けて見上げる男。


 公然と痴漢を強要したこいつには、もはや愛称あだなは要らない。ただの軽蔑しか生まれない。


 行動は白面の医師の方が記憶を消したい内容だが、奴には私を市場に出品する商品として、見定めている様子があった。それはそれで許し難いが、そこには感情や変態行為の強要は見られなかったと思う。


 だが。


 (こいつは違う)


 日頃チャラチャラ女をはべらかし、神社でイチャイチャしたい奴なのだ。自分はモテモテで、ちょっと声をかければ女は皆コロリとイチコロだとでも思っている。


 (これは人として、あまり使いたくないけど仕方ない)


 絶対的拒絶、存在の否定。

 精神的攻撃最強奥義発動。


 ーーー本気の無視!


 ザバシャ。

 シタ、シタ、シタ。


 (成功。)


 恥じらいもせずすっぽんぽんを隠さずに、毅然と風呂場を後にした私。カラリと扉を開けると、脱衣所に続く通路にはなんと、制服の覗き魔たちが整列していた。そして、覗いているくせに根性無しの奴らは、全裸の私に目を伏せ頭を下げたのだ。


 『どいて下さい』


 今更の動揺は無い。


 私の心は冷えに冷え切って、更に怒り心頭なのだ。邪魔くさい彼らは下を向き続け、私はシタシタと濡れたまま着替えの置いてある脱衣所に移動。


 ここは温泉大浴場。しかも混浴だと割り切れば、温泉を目的とした彼らにはなんとも思わないのだが、奴らは痴漢と覗き魔なのだ。


 (カメラ機能を装備していないだけ、まし?)


 だが怒り心頭。せっかくのお湯で癒された一瞬は消え去った。


 攫われた身で、自由気ままに温泉とは度が過ぎたのか?しかし、痴漢と覗き、この犯罪を寛容に受け入れるほど大人ではない。


 (まだ十九セルドライ。私、まだ子供)


 都合良く子供の十代と、セーフティー未成年を使い分ける。これは曖昧なグレーゾーンに挟まれた十九セルドライだから使える特権である。

 

 着替えて出ると、覗き魔達は消え去っていた。だが私にはこの理不尽を司法に訴える機会が無い。だって、誘拐を容認する犯罪の巣に居るのだから。 


 (せっかくの未成年とっけんが使えない・・・)



 冗談も混乱もさておき、先ほどの痴漢変態のお風呂場での行為についてだが、私はある嫌な想定を思い出した。まずはこれまでの経緯を整理しよう。


 その一、異世界で見知らぬ国に攫われて来たこと。


 その二、着物はかまミックス巫女衣装の素材感が高級で、簡易的安そうではないために、コスプレ性風俗への派遣はないだろう想定。


 その三、拝まれるだけ巫女職継続、攫われた派遣先では神社仏閣巡りツアーガイド付き。高級旅館にて豪華絢爛精進料理を堪能からの、久しぶりのお風呂にて痴漢変態に巨乳を握られたという現実。



 (訂正箇所はその二、)


 まさかの、ここにきてからの、コスプレ性風俗派遣浮上なのである。



 (甘かった。衣装が高級そうだとはいえ、世の中には高級志向の痴漢変態も存在するのだ)


 時間と金と労力を、変態行為のためには惜しまない。まさに真の痴漢変態だ。


 (その三も、よくよく考えなくてもおかしいじゃないか。拝まれるだけ巫女職なんていう、サービス業としても曖昧な仕事で豪華絢爛ツアーガイド付きだなんて、ブラックビジネスの典型的な身売り商法)


 だがここで冷静になれたことで、分かった事が多々あった。


 私の巫女職ミス・メアリさんというポジションは、痴漢と覗き以外の理不尽を受けてはいない。そして今のも判断基準となった。

 

 私はさっきの痴漢男を拒絶出来るのだ。

 しかも覗き魔達も手を出しては来なかった。


 ルールはよく分からないが、これは軟禁脱出への参考とさせてもらおう。


 『よし、行こう』

 [*****]


 クールに怒り心頭のまま気合を入れて引き戸を開くと、無表情な係の女性達に捕まった。そしてまた、私はあの畳擬きの間へ連行されたのだった。




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