姉弟の受難 **
出演
35歳男性 ガーランド入国管理局 入国者認定室長
25歳男性 ガーランド入国管理局 入国管理情報室長
28歳女性 ガーランド入国管理局 局長補佐官
19歳女性 専門学校学生 食料品アルバイト
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「ーーでは、次に出身国と住んでいた場所はどこか、」
『・・・・』
「ん?どうした?」
『キャンニュースピーク・ニングリッシュ?』
〈・・・・なんだ?〉
「・・・、それは何処の国の言葉かな? 今のが出身国か?」
『おかしいな。ここでも魔法の万国共通言語が威力を発揮していない。発音か? ネイティブ意識しすぎた?あ、えーと、なんだっけ、』、
「ごめんなさい。ごめんなさい」
〈〈・・・・〉〉
「出身国は?」
『あれ、なんだったっけ、目上の人に媚びを売る、チャラ媚びポーズ・・・、たしか伝説の芸人みたいに下顎を出して手を、ヤバイ。おじさん睨んでる。マジ怖い。メガネ、絶対零度、ヤバイ』
ビシッ!
「ヤメテェ、ヤメティ。やぁーだよぅ、」
〈おい、なんなんだ、今のはまさか、ファルド軍の敬礼か?〉
〈止めさせろ!〉
ガタッ。ガタッ、ガタタッ・・・。
「ごめんなさい、ヤメテェ、ヤメテェ」
「分かった。何もしていないだろう、座りなさい。それを止めろ。止めなさい」
『・・・・』
カタン。
〈〈・・・・〉〉
「出身国は?」
『ニホン。大使館、それとも領事館、知ってますか?』
「長いな。国名はニホンタイシカン?」
『ニホン』
「では地名がタイシカン・ソレトモリョウジカン」
『・・・・やっぱり駄目か。そもそも大使館や領事館の、万国共通言語が分かりません』
こくり。
「次に、入国目的についてだが、・・・分かるか? ここに、来た理由は?」
『・・・』
「入国、目的」
『コーヒーについての質問ですか?』
〈・・・・〉
〈なんだ、いまの、〉
『甲乙付けがたいですが、私は甘味氷愛好家。そしてコーヒーは無糖派です』
〈〈・・・・〉〉
『コーヒー・プリーズ・ミー・・・やばい。思い出した。本当にコーヒー飲みたい。涙でる』
〈・・・何語だ? おい、お前、南方や北方の辺境語に詳しかったな? 東側の辺境語か?〉
〈さっぱり分からんな、発音も言語も聞いた事は無い。・・・が、・・・この、たまに出るとんでもなく下品な言葉を、子供とはいえ、女性から聞くとは思わなかったぞ〉
〈・・・確かに。正気とは思えない。見た目が北方の王族に見えるだけに、ある意味衝撃だな・・・〉
『コーヒー、カフェオレ、何処かに売ってませんか?』
〈・・・・〉
〈泣きたい気分とは、このことか。おい。止めてくれ〉
〈お嬢さん、同じくらいの年頃でしたよね。そちらは大丈夫ですか?〉
〈・・・・無い。うちの子は、大丈夫だ〉
〈若い連中は、とんでもない言葉を流行らせたりしますからね。私の世代にもありましたが、・・・今はこういうものが流行っているのでは?〉
〈やめろ。尋問中だ。お前のその話し方もやめろ〉
「お願い、ヤメテェ」、
『コーヒー・プリーズ。ギブミー・カフェイン下さい。匂いだけでもカフェイン・プリーズ・ギブミー』
〈・・・・、〉
〈・・・今度は何の卑猥な歴史について語る気だ・・・〉
〈・・・続けるか? これ以上、有益な何かを引き出せるとは思えない。故意に少女にこれを語らせようとしている者が居るのならば、そいつの性的趣向を掘り下げるだけだ。我々は翻弄されたことになる。相手の思う壷だ〉
〈東の指揮官のことか、・・・正気とは思えんが、ただの冗談だと思いたい。だが、・・・そういえば、諜報も懸念を示していたな。何をふざけているのかと思ったが、これの事だったのか?〉
〈報告書に上げるほどだぞ。見ていて分かる内容だったということだ〉
『・・・・』
〈情報を引き出すのは、正しい言語習得をさせなければ、いろいろ先に進まない〉
〈了解〉
(ダーラ、よく聞くワード。おそらく話しを区切る時に使用する。ダーラ。ダーラ。覚えた)
「・・・とりあえず今日はいい。終わりにしよう」
ガタ。
「出ていいぞ。終わりだ。さようなら、分かるか?」
『・・・・ダーラ・・・』
〈〈!?〉〉
ヘラリ。にこにこ。もじもじ。
ガタ。
タタタ、くるり。
「さみしいなあ、さみしいなぁー、もう少し、そばに居てぇー」
〈〈!!〉〉
ビシッ!
「食・べ・ちゃ・う・・・?」、
『これ、あってんのかな、イントネーション間違えた? 不安です』
てれてれ、もじもじ、ぺこり。
〈・・・・・・・・。〉
〈・・・・〉
スタスタ、ガチャ。
〈アラフィア、居るか?〉
〈終わりましたか?〉
〈〈・・・・〉〉
『・・・・』
パタン。
〈・・・・ヴァルヴォアール・・・〉
〈・・・お嬢さん、大丈夫ですかね〉
〈言うな。〉
この後、ガーランド第三の砦広報局から近隣住民の幼い子供の居る家庭に、正しい言葉の使い方パンフレットが発布された。




