05 リアリズムとチラリズム
私は今、ぷるりんとくろちゃん、そしてアピーちゃんと最新式のドローンを見学している。
「ミギノ、こっちに来なさい、駄目だよ、」
『大丈夫大丈夫。でもなんか、見れば見るほど生っぽい……』
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洗濯終わりにエルビーと会ったのだが、彼とイグくんヤグくんは山岳救助隊と何か話しがあるそうだ。別室へ連れて行かれてまだ戻って来ない。
私に対しては簡単な登山遭難状況の質問だけだった。
イケメン眼鏡とガッシリ体型の厳ついおじさんに、名前と出身地、なんで滑落したかの理由を尋ねられただけだ。しかし詳細は語る術は無い。
スタートから異国語が怪しげな一問一答。むしろ私の拙い異国語の説明で、悪意の無かったエルビーの心証を悪くする事は避けたかった。なので余計な事は言わず、細心の注意を払う大人対応をしたつもりだ。
それは数分で終わったのだが、エルビー達はまだ終わらないようで、私達は待ちぼうけをくらっている。
放置された私達は、キャリアアップウーマンに中庭に連れて来られたのだが、そこでドローンを発見した。初めそれは建物の外壁に設置されていたのだが、私がドローンを発見し、よく出来た生っぽい形態を眺めていると、よじよじ壁を伝って降りてきたのだ。
最新式のドローンを見上げる。
(イグアナと鷹を足して割った様な感じ)
爬虫類や鳥類がイケる人ならば、これは悪くない顔立ちだと言うだろう。
とても凜々しくてカッコいい。
色は黒。いや、ところどころ灰色で、シャボン玉の様に虹色が覆っている。
(こいつ。高そう…)
「ミギノ、****、******駄目だよ!」
アピーちゃんに何かを怒られた。少し離れてそわそわしているアピーちゃんとくろちゃん。しきりに私を呼び戻そうと叱咤しているのだが、きっとドローンが怖いのだろう。
アピーちゃんは女の子らしい女の子。
怖いものにはキャンと鳴く。
私はおじさんの様にウォッと漏れ叫ぶ。
(しかし、恐れる事は無い。こいつは最新テクノロジーで制御されているのだ)
見た目は生っぽいが、恐竜テーマパークで首を振り回し、獅子舞のように人をあむあむと囓って驚かす、来客へのパフォーマンスが出来る仕様。あれと類は同じなのだ。
中身が機械か人。その違い。
お化け屋敷の様に、周りが囲われて狭い所から急激に飛び出して来なければ、作り物に対して私は冷静に対応出来る。この場には自分をか弱く演出し庇護欲をそそり、将来の結婚ロードまで持ち込みたい相手はいないのだから、恐怖に怯える演技力は必要ない。
そう考えると本当に、昨今の添加物まみれの世の中で、ナチュラルに作り物に恐怖出来るアピーちゃんは、自然派素材を好む男性にはおすすめの無添加女子である。
この子の成長過程において、これ以上添加物でコーティングされないように、添加物ブロックの出来る甲斐性ある男性、募集中である。
(しかし、デカいな)
このドローン、例えるなら大きさは象が近いかもしれない。羽部分を広げれば全長はもっともっと大きいが、動物園の象を柵無しに間近で見たのなら、きっとこれくらいの大きさだろう。
お鼻は長くは無い。くちばしの様な形状で鳥のように鼻穴があいている。
おや?
(スピスピしてないか? 良く出来てるな)
カメラ眼は榛色。
見つめ合う虚像と私。
くんくん。
虚像に匂いを嗅がれる私。
(これ、本当に生っぽいな。まさか作り物じゃないとか、ないよね? ないない。あるわけがない)
これが生の生物ならば、世界各国に既に配信済みのはずだ。湖面にゆらゆらと現れる、有名未確認生物よりも大きくニュースになるだろう。
……待てよ。
要はチラリズム感が大切ということか?
湖面にチラリ。監視カメラにチラリ。見えそうで見えないチラリズム感。見えそうで見えないパンツに憧れる、世の中のチラリ愛好家達と同じ心理か?
確かに、短いスカートの後ろ裾から『パンツ見えてますよ』という現状よりも、短すぎるスカートの正面から堂々とパンツが見えてしまえば、チラリズムどころかギョッとする。
『見えてますよ』と、冷静に注意を促す前にギョッとして、ハッとした時には既に対象は颯爽と移動してしまう。それを追いかけて注意を促す前に、対象とすれ違う人々からは同じ心理が繰り返されるのだ。
話は逸れたが、これは堂々としているか、していないかという事である。
このトカゲ鳥ドローンは、実は生ものでした。
世界各国に配信済みですが、堂々と配信された事により、チラリズム感が足りないせいで、大衆には飽きられました。
(……そんなバカな事は無いよね)
チラリズム政党の勢いが、まさかリアル未確認生物登場に勝てる事は無いだろう。世の中は非情な現実社会。未確認生物は映像だけで金になる。それを凌駕するほど、夢のチラリズムを求めてはいないはずだ。
振り返るとさっきまで、後ろで騒いでいたアピーちゃんとくろちゃんも居なくなっている。
まあ、いい。彼らは大きい物が怖いのだ。無理にこの場に付き合う必要は無い。
私は平気なのだ。
恐竜の虚像アトラクションテーマパークや、水の中から飛び出てくる鮫の虚像アトラクションなどは大好きだった。水の中を今か今かとのぞき込み、水しぶきをはしゃぐタイプ。それが私。
……あ、魔法学校が併設されてから、あの西のテーマパークへはまだ行けていない事を思い出した。早く行きた【あむっ】……。
あむ?
今、あむって状況になったのか?
私の頭が。
囓られてはいない。チクチクッとはするが、ブスリとはいっていない。生温かいものに頭頂部をベロリとされている。
(……大丈夫かな、これ。なんかベタベタする)
何かの認知機能か? 私を何かに承認するために、探りを入れているのか?
(にしても、フンフン鼻息、生っぽい。最新テクノロジーでこの鼻息は、一体何の用途に取り入れたのだ?)
〈フエル! ***! ******、**!〉
通路の奥から、中身が子供が慌てて走って来るのが見える。見た目に囓られている私。相当に慌てているが、別に舐められているだけだ。
(まさか、機械の誤作動とかじゃないよね?)
解放された私は、思ったよりも辺りにバスケチームが集結していてその事に驚いた。キャリアアップウーマン、さっき私に滑落状況を尋ねてきた、メガネとガッシリおじさんも発見。
(あ、アピーちゃんとくろちゃん)
彼らは私同様に小人族なのだ。バスケチームの波に揉まれて見失いそうである。だが荒波を渡りきり、無事に再会を果たした。
その後、私達はウーマンと中身が子供の家にお呼ばれする事になったのだが、なんと、彼らは姉弟だったのだ。
(似ていると言われれば似ているけど、ウーマンの方が男らしい……)
**
エルビーとイグヤグ君達は、山越え申請の手続きでまだ遅くなるらしい。その間、私はウーマンの家でドローンの分泌液を洗浄する事になった。彼らはドローンの所有者で、メンテナンスに不具合が生じたらしい。まあ、身体に害はなさそうなので良しとしよう。
暗くなってきたが、エルビー達はなかなか帰って来ない。
私が足を滑らせた事に要因が無ければいいのだが、なんだか不安になってきた。ウーマンにエルビー達の事を質問しても、やはり滑落のきっかけとなった〔ぴょんだよ! ぴょん!〕を上手く説明する事は困難なのだ。
(まさか私の滑落が原因で、拗れているとか、やめて……)
不安は募る。中身は子供から、エルビー達の帰って来ない理由は、何やら山の話ではない事を伝えられ、大人しくただ待つ事にする。その後彼らの家に一泊させてもらうことになったのだが、そこで中身は子供が意外と良い奴だったと気付かされた。
彼らのクールな長い三つ編みと、やり方を教えてもらってご満悦。
幼少期、この髪型に憧れて、猫毛の私はゴワゴワ感を出すために逆毛に失敗した。ただの貧相な子供になった私を、クールな妹は指をさして大笑いしたのだ。そんなトラウマがある。
翌朝、肩より少し長いだけの私のこしの無い髪を、弟がクールにステキに編み編みしてくれたのだ!
憧れの本場の編み編み。良い。
(エルビーに見てもらおう)
彼らはまだ帰って来ない。
私達はエルビー達を待つために、山岳隊員の施設から少し離れた姉弟の家でしばらく滞在する事になった。




