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ぷるりんと異世界旅行  作者: wawa
天を制する者~ガーランド竜王国
53/221

04 魔性の女、私。

 

 私はイケてる女。


 右手にはコンパクトなちっさいバッグ、これから数多の男を横目に夜会クラブへ出かけるのだ。


 見上げる。

 見回す。


 (やっぱり、バスケチームに変更しよう)


 ここの連中はでかい。


 私はこの異国で何カ所か福祉施設やぶらり下町見学、そして老舗のホテルを渡り歩いたのだが、共通点は皆、背が高いという事だった。


 (だけどここのチーム山岳は、今までの彼らよりも更に大きい気がする)


 まだエルビーは背が高いくらいで我が国にもいるいるだったのだが、フロウ・チャラソウ福祉施設、そして白狐面の医師の所属する廃屋テーマパークのスタッフは、平均二メートルくらいだったと思う。百六十二センチの私は横に並んで、彼らの胸筋付近に届くか届かない状態だった。


 まさに子供だ。

 小人だ。

 ほびッ……。


 本当はチャラソウ達と同じくらいなのかもしれないが、チーム山岳の皆さんは、引き締まった身体に女性隊員も男性隊員も皆さん腰まで編み込み三つ編みが沢山あるので、その所為で大きく見えるのかもしれない。


 ドレッド? コーンロウ? ブレイズ?

 その髪型だけで運動能力が高そう。

 そして。


 (強そう……)


 人命救助を生業とする隊員達だ、もちろん無頼の輩では無い。理不尽にオラつかれる心配もないので、安心して彼らの間を颯爽とすり抜けた。背の高いバスケチームのディフェンスを、軽やかに右、左と躱し目的地へ向かう。


 〈**、**********!〉


 背後から鋭い声。

 おや? 私に言ったのか? 

 周囲の視線が私を見下ろしている。


 声がした方を振り返る。そこにはイケてる救助隊員が私を呼び止めていた。


 (異人さんの表情は分かりにくい)


 彼らが我が国の民族の表情が読みにくい事と一緒だ。しかし民族は違えど、顔の美醜はさすがに分かる。


 クール・イケてる・山岳隊員の男性。


 私の粗相の被害に合わせたことは悪かったが、それを仲間内でヒソヒソした、彼とは正直もう関わり合いたくはない。救助してくれたことは感謝してもしきれないが、それと人間性は別なのだ。


 あのヒソヒソで、私の心は抉られた。


 「お手洗い、お手洗い」


 この異国の地では、もはやマストのサヨナラの言葉と共に、私はクールにこの場を立ち去ろうとする。しかし、トイレに行きたいのは本当なのだ。この右手の小さなバッグを解体し、早急にクリーニングしなければならない。


 これ以上、エルビーに負担を掛ける訳にはいかない。


 実は今、私はこの異国でお金の心配をする事が無い。これがいわゆる、何でもかんでもおごりオッケーな人の感覚なのだろうか。


 私はバイト先の月一のミーティングお食事会でさえ、奢ってもらえて恐縮です派だったのだ。他人に支払いをさせると、何だかそわそわ落ち着かない気持ちになる。


 これは幼少期に祖母から〔タダより高い物は無い〕と、念仏をすり込まれた成果である。フロウ・チャラソウ短期集中講座の方法ではなく、年月を重ね確実に基礎となり構築される教えだ。


 基礎は簡単に忘れる事は出来ないもののはずなのだが……。


 こうも毎回、お財布を気にせず、食う寝るおやつをただで繰り返していると、何だか感覚が麻痺してくるのも事実。


 初めは福祉施設、廃屋テーマパーク迷子防災センター、今は国境なきボランティアのエルビー個人にお世話になっている。


 これはもう、家族との外食。財布は親が当たり前。と、いったまさに保護されている子供。そう、私は今、無銭飲食常習者(無職)十九才の状態だ。


 ーーいけない。


 このままでは無銭飲食のニートのまま、異国での生活体験を無にしてしまう。


 たいして美人でもないのに、何故か男に寄生できる魔性の女。女にタカるヒモ男。それに私がなれるなんて、思ってもみなかった。きっと魔性の女の始まりは、本人も気付かないところで、この様にナチュラルに始まるのかもしれない。


 (……いや、故意に技を駆使して魔性スキルを手に入れる、猛者も中には存在する。それと同じと言っては、猛者に失礼)


 しかし、なんてことだ。


 ボランティアにタカル、職業無職の迷い人。


 ーーそうだ、やはり働こう。


 強そうな山岳女性隊員に、トイレの場所を案内してもらい、何とか洗濯できた。女性隊員はとても優しくて、私の洗濯を手伝ってくれたのだ。しかも、洗濯に石鹸まで用意してくれた。


 やはり出てきたのは液体でも粉粉でもない、ゴツゴツの固形石鹸だったが大変ありがたい。しかも身振り手振りで干してくれると言ってくれる。


 強そうで美人で優しい。

 最高の三拍子である。

 憧れの出来る女。

 

 (彼女の様になりたい。いやでも別に、山岳隊員にはなりたいわけでは無い)


 トイレを出るとエルビーがやって来た。彼は私が苦手なヒソヒソメンズを連れて来てしまったのだが、まあ、いい。


 彼とはここでお別れの、旅の恥はかき捨て、チーム山岳隊員なのだ。隊員は山から外には出られない運命。だって、山が管轄なのだから。


 そんなヒソヒソ隊員を横目に、とりあえずこの、揺るぎない決意だけは早めにエルビーに感謝込みで伝えておこう。



 エルビーに恩を返すために、私、働きます。


 

 見上げるとエルビーはやんわり優しく微笑んだ。私の大好きな彼の素敵な笑顔。この笑顔を持続させるために、ここで出来ることを頑張ろう。決してたまに訪れる、氷の無表情を回避したいための裏工作では無い。決して……。


 私もにっこり。いつもありがとう、エルビー。



 「お金、下さい、私」



 「なに買うの?」



 ーー終了……。

 


 言いたいことは、一つも伝わらなかった。そう『私、働いてお金を返します』この簡単なフレーズが、誤翻訳をしてしまった。


 結果。


 サカリ、タカリ、ビッチ度が増しただけ。


 まずはもう少し、言葉の勉強が必要だ。その横では、三拍子のデキル女性隊員を呼び止めたヒソヒソ隊員が、また私を見てヒソヒソしている。


 気持ちは分かるが、察して欲しい。


 これも粗相も、成長過程に起こり得る許容範囲なのだ。


 人の生理現象や成長過程の拙さを、笑って馬鹿に出来るのは自身も子供な小学生までにしてほしい。中学生に入学したら、それらを思いやり、温かい目で見つめる許容を学ぶ事も大切だと思うのだ。


 ヒソヒソ隊員は、イケてる大人メンズなのに、許容範囲が狭い気がする。何を言っているかは分からない。しかし、明らかに私を見てヒソヒソを繰り返す。


 私の中で、彼は小学生だと断定された。


 そう、まさにこれは、社会的問題となるオトナチルドレン・マジョリティ。大人なのに中身が子供の彼らには、初期装備としてスキル、ワガママが装備されている。そのスキルは溜まりに溜まって、ある日突然大爆発を起こすことがあるのだが、これがとても危険なのだ。


 『見た目はオトナ。中身はコドモ』


 ーープスッ。


 そういう私のレベルも小学生。いや、それよりも低いのである。最近の子供は、ネット教育で様々な知識を吸収していて大人よりも知識が多そうだ。


 「ミギノ? どうしたの? 何か欲しい?」


 いけない。恩人を困らせている。


 私はエルビーに仕事がしたいと得意の身振り手振り片言で伝えると、彼は困った顔をした。困らせるつもりはなかったが、これはマイナスな事ではないのだ。


 とりあえず、言葉の勉強を頑張ろう。

 


 

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