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ぷるりんと異世界旅行  作者: wawa
属国~トライド王国
45/221

13 願望 13

 

「俺は髪がいいな」

「そーだなぁー、」


 目は腐るのが早いだろう。持ち運びには向かない。


 *


 過去に一度、仲間に白猫が居たことがある。


 不運にも彼が死んでしまった日、アルドイドは動かなくなったことが悲しくて悲しくて、死後数日間大切に持ち歩いていた。


 腐り異臭を放つ猫に他の仲間達はいい顔をしなかったが、アルドイドはどうすればいいのか分からなかった。今まで仲間達は死ぬと、死体をそのまま道端に放置して逃げていたからだ。


「置いて行けよ。……もう皮になってんぞ。臭えし、」

「やだ。…やだやだ」


 テルイドにも何度も置いていけと言われたが、アルドイドはそれをこの白猫にしたくはなかった。単純に持ち運び出来る大きさだったこともある。まだ身体が小さかったアルドイドは、亡骸を何処へ行くにも両手でしっかりと抱えていた。


 仲間内からの非難が強くなった頃、ソーラウドが現れた。


 ソーラウドは猫を抱きしめるアルドイドを見て、面倒くさそうに言った。



「身体は土に埋めてやれ。そうしなきゃ、そいつエゥルに行った後、お前のところに帰って来れなくなるぞ」



 よくは分からなかったが、アルドイドはまた猫に会えるのだと素直に従った。ソーラウドに欺されたと気付くのはずっと後だが、死人を天に帰す技を持つという、天教院の話の何かを、ソーラウドなりの解釈で教えてくれた。


 * 


 トライドの南にある大きな屋敷の裏口。テルイドとアルドイドは、頭であるソーラウドと引き離された後、制裁なく普通に帰っていいと伝えられたのだが、どうしても彼の身体の一部が欲しいと食い下がったのだ。


「ガキの頃みたいに、エゥルから帰って来ることを信じてないけどさ、やっぱり欲しいよ」

「頭が言ってたやつか? …まあなー、そうだなー…」


 身体を土に埋めれば、ソーラウドは天へ行けるのだ。


 二人は処置が済めば渡すと言われ、屋敷の裏口にただしゃがみ込んで待っている。ソーラウドの組織は解散だと伝えられた、今もまだ。


「おう、お前ら。何でここにいんだよ。次行けって、言っただろ。しかも見えねーし。植木の下に座り込んでんじゃねぇよ」


「え、」

「!?」


 屋敷の裏庭、裏口では無い少し離れた植木の影から、いつもの乱暴な声がする。声の強さとは裏腹に、傷だらけの顔は嬉しそうに笑っていた。


「お、あ、生きてたんですか!!!」


「俺たち、髪の毛待ってたのに!」


  「はあ?」


 からかいと本音が出た。驚いた二人は、跳び上がってソーラウドの元へ走りだす。




 アルドイドは、何も持たずに貴族の屋敷を出た事を、生まれて初めて喜んだ。




 ******




 社会人としては当たり前のマナー。


 出会いと別れ、その際に生じる挨拶はとても重要だと思う。


 お客様がご来店されました。


 個人ノルマを個人目標という名のオブラートで包み隠し、お店全体で売り上げを取ろうとチームワークを鼓舞するが、その実情は個人の手柄の奪い合い。


 私が売ってます。そのお客様は初めに私が声をかけました。あ、あのお客様は何日か前に私が名刺をお渡ししました。私のお戻りのお客様です。


 チームワーク、崩壊。


 経営者側は結局、誰が売ろうと構わない。数字で表せない人間性より、見える数字を残した者を優秀者として評価する。たとえチームワークを崩壊させ、人間関係に軋轢を産むクラッシャーだとしても。


 クラッシャーは個人利益追求型に多い。

 言ってみれば、ただの空気読めない問題児。


 しかし空気は読まないが、上長の機嫌を読むことはカミッテル。上長は自分を担ぎ上げるカミッテルを可愛がる。


 結果、崩壊したチームワークによる内部抗争が発生。離職者による新たなる求人広告費用、採用時間、新人育成。


 これって、


  私が! 私が! 上長ヨイショヨイショアピールのカミッテルがたたき出した個人利益数字と、どちらがプラス? マイナス?


 経費削減は、人件費からと声高に言われる昨今。


 それは職種によるのだろうが、こんな事を経済アナリストに算出してもらう事すら金がかかるのだ。


 クラッシャー・カミッテルが存在する限り、新たなる内部抗争は目に見えている。


 そんなお店でお買い上げ。


 私が! 私が! スタッフは、お買い上げ決定と同時に次のターゲットに狙いを定める。


 その一瞬を、客は見逃さないのだ。


 別れ際、せめて向き合った相手に、心からありがとうさよならはしようぜ!


 (はい、話は長くなりました。私は経済評論家ではありません)


 この内容は、世知辛い販売業界に嫌気が差し、自らベーグル屋を開いてしまった一国一城の主、三十五歳、独身店長からの付け焼き刃です。


 そう。そもそも論じてもいない。


 これはただの、脳内の独り言だ。


 アイム・スピーキング・あい・あむ・ぼっち。


 だって、ここで何を論じても、私の流暢な母国語は異国では誰にも通用しない。


 (なので、私の取得した最高のお別れの言葉だけ、紳士に贈ろうと思います)


 私の異国での敬語は、黒豹お兄ちゃんの直伝。ゼレイス・フロウ・ヴァルヴォアールは偉そうチャラソウだったので、気を遣えとこっそり教えてくれていた、正しい敬語の使い方。


 お兄ちゃん、ありがとう。


 お兄ちゃんのお陰で、ミギノはお外に出ても、社会の荒波に揉まれても、恥をかかないですむよ。


 と、いうわけで、義理人情を欠けば、理不尽に何かを即時要求してきそうなマフィアのトップ。別名、紳士風様に最上級のお別れを披露した。



 (おや? …………なんだ?)



 なんか、おかしな空気が漂ってないか?


 ぷるりんが退場した私には、今や言語チートは使えない。こそこそと頭上で話す、奴らの会話は全てカタコトだ。


 固まる紳士風。

 珍しく狼狽える白狐面の医師と助手達。

 無表情のケモミミ様達。


 …………。


 エルビー、エルビーは?


 振り返るとエルビーは、にっこり笑って私の頭をぽんぽんしてくれた。よかった。褒められた。異国での社会人のマナーに、粗相をしたかと焦ったじゃないか。


 (自信を持とう)


 だって、黒豹が教えてくれたのだ。間違いない。悪漢はやんちゃな次男坊だが、黒豹は長男として、私が見る限りとてもしっかりしていた。


 あのフロウチャラソウの下に付いているのだ。


 おそらく彼も、新人の頃には何かを繰り返し召喚させられていたに違いない。だが黒豹はそれでいいかもしれないが、チャラソウのリピート召喚教育に、私は賛同しない。


「なーん」


 救世主現る。


 足元に黒猫ちゃんが現れた。

 私は迷わずゲットする。

 首元にすりすりニャンコ、温かい。

 この子のテリトリーは範囲が広そうだ。

 ほら、見て、やっぱり猫って可愛いよね。


 厳つい野郎どもも、周りの目も温かい。


 ーー今は、保護者エルビーが居るので逃げる準備は必要ない。黒猫抱っこ抱っこ作戦の決行は見送った。


 私は非情なる軍師である。

 猛省はしたが、背に腹はかえられないのである。


 (その時が来たらよろしくね、黒猫ちゃん)


 温かい目で見送られ、私達はようやくマフィアの巣から脱出した。




 ***


 ーーートライド南、とある町外れの酒場。



 民家のような小さな酒場に、奇妙な客達が来た。子供を数人伴っているが、親子の雰囲気は感じない。一様に外套を目深に被っていることも怪しい。


 常連客が数人訪れるだけの酒場は、怪しい数人の来客によって手狭に感じる。料金は値切らず言い値で支払ったが、見慣れない怪しい客達に、人の良い店主は警邏が在中する隣の町へ知らせを走らせた。



「見て見て、テルイド、あれ」


 アルドイドが騒いで指さした先には、黒髪の少女が獣人の少女の耳を触っているところだった。人前で外套を脱がない獣人達の外套の中、帽子の中におそるおそる手を差し込んで、ミギノはふんにゃりと目を細める。見れば獣人の少女も同じような顔をしていた。


黒仔猫オウピノル茶仔犬アステノと遊んでる……」


 この中で最年少のアルドイドは、それを羨ましそうに呟く。聞けば獣人の少女アピーも、アルドイドと同じ十二だそうだ。


「お前、惚れたの?」


 にやりと、気持ちの悪い笑顔で坊主頭のテルイドは笑う。


 アピーは栗色の毛並み、同じ色の肩までの髪は落ちつきなく跳ねている。大きな目の色は不思議な緑色。色白で人懐っこい可愛い顔をしていた。


「違うよ! いいだろ、可愛いんだ!」


「それを惚れたって言うんだよ」


 テルイドはにやにや笑い続ける。


「ここで一旦、別れよう」


 子供達の淡い恋の話は余所に、ソーラウドはミギノへ話しかけた。少女は相変わらず、きょとんと惚けているが、了承を頷いている。


 シファルとソーラウドの誓約グランデルーサの刻に、この道筋の話をした。ソーラウドは、帝国の裏側の掌握の為にファルドへ戻る。シオル商会の頭であるシファルから、権利は貰ったものの使いこなす者はソーラウドなのだ。


 昨日今日、出てきたばかりの新参者に、権利の委譲だけで即纏められる業界では無い。帝国の地均しに、ソーラウドはファルドへ向かう。そしてソーラウドの愛する少女は西を目指す事になった。


「ガーランドは遠い。こっちに戻ったら、真っ先に連絡をくれ。直ぐに迎えに行く」


 ソーラウドの真剣な顔に、黒髪の少女は何度も頷いた。小さな額に口づけると、生意気な少女は赤くなるどころか、片方の眉を軽く上げ顔をしかめてしまう。


 それを見たソーラウドは軽く笑って立ち上がり、テルイドとアルドイドを伴って、小さな酒場を後にした。


「…………」


 一部始終を無表情に見ていたエルヴィーは、そのまま少女を見下ろす。メイは額に手を当てて、それから手の平を確認するとまた片方の眉を上げた。


 『何かついた? 白狐面、デコにぶつかってきた』


「じゃ、僕達もそろそろ行こうか」

「そうだね、まだ離れているけど大勢の足音が聞こえるよ」


 エルヴィーの出発の促しに、イグが店の入り口を見た。


「通報されたようだね。店主がこちらをさっきから見ている」


「行こう」


 怯える店主を横目に、エルヴィーとメイは獣人達と古びた酒場から外に出た。



 

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