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ぷるりんと異世界旅行  作者: wawa
属国~トライド王国
35/221

06 新メンバー☆加入!

 

 呆然。


 私を叩いたはずの、色黒女の方が涙目で、被害者ぶっている。


  言ってあげましょうか? あのセリフ。


  パパにも殴られたこと無いのにっ!


  でもそれは心の中でだけ…。


  今は言える状況ではない。


 実際、私は生まれてこのかた、父親に叩かれたことは一度も無い。母親だって私が子供の時に、命に関わる悪戯をしようとして、本気で怒られゲンコツを頭にくらった事が一度きり。妹に関しては、私の目の前で叩かれたところを見たことは無い。


 クールな妹は、姉の失態を悉に観察し、自らの成功に変えているからだ。


 冗談はさておき、色黒女の馬鹿力に私は踏ん張り耐えて、よろめき転ぶことはなかった。


 『何なんですか?』


 大人に、冷静に対応しようとしたが、二発目のパンが逆頬に来た。


 (この女、ナニ?)


 さすがに私もブチ切れる。睨み返すと、女はヒステリックにまた人を指さして何かを叫んだ。


 私は突然、大男に引き倒される。手を縛っていた縄を解かれたと思ったが、そのまま男に腕を押さえつけられ、手を床に伏せて指を無理やり開かれた。


  やな予感。


 私、ピンチ。


 大男の膝が腕を踏んでいるみたいで、全く身体が動かせない。見上げると、色黒女は気色の悪い笑顔で大笑い、その後ろには、あの青いボールが転がっている。


 (あいつ、裏切りやがったな、)


 そもそも「カモン」が通じていたのかどうかも分からないが、私は今、絶体絶命の大ピンチだ。


 男の手に、ナイフが見えた。指を一本、掴まれた感触がする。


 (マズイ、マズイ、これは絶対にマズイ!)


 ヤメテ、ヤメテ!


 冗談じゃない!


 歯医者のキーンの音にさえ、被害妄想の痛みを感じる私なのに!



 絶対マズイ!!!



 目を閉じ、歯を食いしばった。その時。



「**、動くな」



 静かだが、力強い男の声がした。ほどなく私に乗り掛かっていた大男の、気持ち悪い体温が消える。


「***? …大丈夫か?」


 私を起こし、大ピンチから救ってくれたのは。



 (黒豹、またお前か)



 大変失礼な私である。


 何故吊り橋効果で、胸がきゅん、とならないのかが不思議である。別に生理的に嫌いとか、好みの問題以前の問題で、彼は一般的に格好いいのではないかと思われる。顔のホリは深め、肌は黒めだが、黒髪、黒目。わが国の見慣れた色合いは、とても心が落ち着くのだ。


 本当に感謝している。言葉にも出来ないくらい。実際上手く言い表せないが、本当に感謝している。しかし、彼の黒い姿を見て、感謝の前に脳裏に浮かんでしまったのは、『また?』などという失礼な思いが先だった。


「ありがとうございます。大丈夫。私」


 最大の感謝の思いだが、それしか伝えられない自分が情けない。黒豹は頷くと、私を見知らぬ兵隊さんに預けて去って行った。


 力が抜ける。


 人生で初めて、理不尽な暴力的行為を受けた。


 学校などで、男子が友達同士ふざけてやっていた暴行未遂。友達同士なのかもわからないが、若気の至りなのかもわからないが、これは絶対やめた方がいい。


 脅しでも、未遂でも関係ない。


 人に故意に危害を加えれば、これは立派な犯罪だと思う。


 いじめも、やったほうはすぐ忘れるというが、やられたほうは心に傷を負うのだ。


 そう。実際に手を下していなくとも、私は色黒女を許しはしない。イラつく相手の事が頭に入る時間は無駄だし、忘れたり許したりが自分への救いになることも、理解は出来るが仏様では無い。


 イジメ、ダメ、ゼッタイ。


 イジメ・ネガティブキャンペーン。始動。


 そもそも、イジメをするというその行為。


 金持ちでも貧乏でも〔本当〕の愛情を親もしくは親の代わりになる周囲から受ければ、イジメの善し悪しが分かるものではないのか?


 ある学者のように、むりむり、人はイジメルものだから、仕方ないよと簡単には割り切れない。


 別のある学者は、人の脳は、相手が喜ぶことを見て自分の脳も喜ぶと言っていた。


 プレゼント・フォー・ユゥー。


 だがしかし、イジメを楽しむ事を見て、自分も喜ぶって、……異常じゃね?


 これって、ビョウ・イン・レベルじゃね?


 動物的に周囲から全てを学習している幼児幼少期ではなく、ある程度の成長が出来ていれば、その〔本当〕の経験がストッパーになって、イジメを嫌悪したり罪悪したりするものではないのだろうか。参加してしまっても、次は無い、と悔いむ。


 しかし一部、一定数、毅然とイジメを正当化し、公然と標的をイジメて笑う、異常な行為は止まらない。


 それって、イジメは本能仕方ない説を唱える人達みたいに、自分にも経験があって、やったにせよやられたにせよ本能だから仕方ないよって、イイワケ?


 みんなヤルヤルー!経験だよ、やっちまいなよ!


 水疱瘡的なアレ?


 それとも大人になってからヤリハジメルト、コジレルカラ若いうちにやっちまいなよ的なアレ?


 ーーでもその限度って、自分で学べるのかな?


 やっぱりイジメル側って〔自分は本当の()()を知らないよ〕って、公表しているみたいで逆に哀れで格好悪くはないのだろうか。


 皆、内心、哀れんで、笑って見ているのだ。


 被害者ではなく、加害者を。

 加害者が将来失うものを想像して、笑う。

 恒例エンターテイメント、イ・ジ・メ。


 集団になると、イジメの行為は相乗効果するらしい。皆でやれば怖くない。ふんふん。しかし、いずれ的は誰かに絞り込まれ、魔女狩りのように加害者は一人に限定される。


 そうしなければ、幕引き出来ないからだ。


 集団というものは見せかけ。実際は顔バレ。顔認証システムは、がっちりマークしているものだ。ただし〔人の目〕という顔認証システムは、自分が助かるために冤罪を作り出す機能も装備している。


 大変危険だ。


 草食動物が群れを成し、肉食動物から逃げるために弱者を犠牲にして、その他大勢が逃げるあれと似ている……実際、人の場合は犠牲者ではなく、加害者である。


 集団とは守られているようで、非情なもの。


 常に村八分にならないように怯え、社会を形成していくもの…ご静聴ありがとう御座いました…。


 イジメからなる人間ネガティブキャンペーンを絶賛開催してみたが、辺りを見回すと、コスプレ大会は強制終了されていた。


 空気の読めない色黒女。わが国の古の都で「お茶漬けを御用意いたしましょうか?」イコール、帰れコールという、驚きのおもてなしを受けるがいい。


 その意味をマスター出来なければ、入国した後の出国は許可出来ない。我が国固有の正しい文化を学んでいただく。


 おや? どうやら色黒女は、黒豹と共に何処かへ行ったようだ。


 ……ほっ。


 しかし。


 (本当に怖かった……)


 今更ながら、身体が震える。


 兵隊さん達に連れられて会場を出る前に、気づけばぷるりんが肩に登って来た。


 私は青いスライムを睨みつける。


 『この、裏切り者…』


 呟いたが、ゼリーはかわいくぷるりと震えるだけ。中身はあれだが、見た目はかわゆい。


 それに、ゼリーの魔物に今さら人のなんたるかを語ろうと、話がコジレテ長くなるだけだ。


 ご静聴に耐え忍んだ方々に、これ以上の長く無駄な校長の話は、貧血を助長させるだけの悪循環。私は空気の読める大人の女である。


 とりあえず、こいつが生きていて安心した。


 私はこの場所で、初めて出会ったぷるりんは、中身が横柄な魔物でも見れば安心してしまうのだ。



 だって、こいつ、

 初めての旅の仲間なのだから・・・。



 フロウ福祉施設の皆さんと出会え、緊張が解けたのか一気に疲れた。



 その時だった。



 ーーーーーー『ここだよ、』



 『……え?』


 今、なんか聞こえた。


 慎重に辺りに耳を澄ます。遠くでは、何か騒いでいる音がするが、もう一度。もう一度。



 『ここだよ』



 聞こえた!


 これは、絶対に私の国の言葉。辺りを見回す。が、該当者は見当たらない。


 (どこだよ! 私は、)



 『ここだよ! ここです! 何処ですか!!!』



 (あなたは何処ですか!?)



 突然大声を出した私に驚いて、兵隊さん達が驚き身構えた。あ、すいません。でも、それどころじゃないんで。広い通路を振り返り、声の主を探す。


 (何処、何処ですか……)


 兵隊達が邪魔でよく見えない。もしかすると、兵隊か?


 『私はここ、あなたは、』


 皆まで言えず、突然腕を引っ張られた。そのまま人形のように抱えられ、窓の外に飛び出す私。


 『フギャアーー!!!』


 浮遊感に胃の腑が浮いた。オエッ。


 着地。


 あれよあれよと走り去る、私を抱えた黒い人。横にも同じような黒い人。


 気になる声の主、屋敷は遠ざかってゆく。


 兵隊達が後を追って後ろに居たが、健脚な黒い人達は、人の家やら店やらをくぐり抜け、誰かのシュミーズを私の顔から取り去った後には、兵隊達の姿は無かった。


 (……誰、こいつ)


  全てが台無し…。


 顔を半分覆うフード付黒マント。長距離走に息を切らし、何処かの店裏で黒マントを脱ぎ捨てた。中から現れたのは白狐。


 (……何故、こいつ)


 嫌な奴にほどよく会う説、再び。


 白狐、いや、違う。白狐面の医師。そして入れ墨スキンヘッドと痩せた少年。


 この状況、私に逆らう余地は無い。


 不機嫌に、何かをブツクサ語る三人に、私は連れられ光の射さない裏道をとぼとぼ進む。


 うつむく私。


 がっかり。


 さっき、絶対居たのだ。あの会場の何処かに。


 (鈴木医師だ。絶対)


 落ち込む私は下ばかり見て歩く。少年が何かを言っているが、今はそっとしておいてほしい。


 裏路地を抜けると、そこには陽だまりに猫の集会を発見する。我々の存在に気づいて、集会は飛び散った。


 おや? 一匹残っている。


 『黒猫だ…』


 こんなに落ち込んでいるのに…黒猫。


 黒猫が、私だけを見ている…。凝視だ。


 黒猫に罪は無い。むしろかわいい。しかし、今のネガティブな気分的には、


 『横切らないで、横切らないで』


 そう。そんなのは迷信だって、わかっている。でも、幼い頃より魂に刻み込まれた迷信に、何故か脳が『横切らないで!』と訴えてしまうのだ。


 ごめんなさい。黒猫さん。


 私のネガティブは、けしてあなたのせいでは無い。


 今日はキャンペーンを頑張りすぎて、その反動で疲労している。主に精神が。ダメージ…………大。


 黒猫は「ナーン」と、かわいく鳴くと足下にすり寄って来た。


 かわいい。

 温かい。


 そして両手を差し出した。子供のように、抱っこ! 抱っこ! してやるよぅっ!


 様々なネガティブに傷ついた私を、まさか貴方が癒してくれるとは。


「オウルピノル! 見て! *!」


 入れ墨スキンヘッドが黒猫を抱き上げた私を見て笑う。その笑顔には、嫌みを感じなかったので許してやろう。そして、ネガティブな奴らにも、幸せを少し分けてあげよう。


 黒猫を抱かせてあげようとしたが、三人には何故か丁重にお断りされる。遠慮しなくてイイのに。その後、この黒猫は私に懐き離れなくなったので、連れ歩くことにした。



 (新しい旅の仲間)


  「ナァン!」



 

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