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ぷるりんと異世界旅行  作者: wawa
魂の眠る森~グルディ・オーサ

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11 目的 11  

 

 

 (これは一体、どうなっているのだ…)


 メイは鏡に映った自分を凝視する。空から落ちて、剣を握って、自分の中に別の何かが居ることはわかっていた。しかし()()がすでに日常では無いため、自分に有益であれば放置しようと考えていた。


 彼女が得意とする脳の保護機能。問題が大きければ大きいほど、現実直視を先送りして、現状維持を図るのである。


 しかし、相手が話しかけてきた以上、もう先送りは通用しない。


 『全然、分からないよ』


 「残念ながら、俺にはお前の言葉は分からない」


 にやり。


 「待って待って、むりむり」


 今メイは、鏡の前ではっきりと独り言を言っている。


 『どうなってんの、これ、ヤバい』


 「だから、分からないと言ったんだ。お前は東大陸フラン公用語が多少でも分かるのだろう?」


 多少どころでは無い。メイには今、ぷるりんという異物の言葉が全て理解出来ていた。


 「わかります。私、全部わかります。だけど、しかし」、

 『ワタシ、この国の言葉スラスラとシャベラレナイよねー』


 オルディオールは、メイの後半の異国言葉に嘲りを感じ取り、身体の主導権を取り上げた。


 「まず状況説明を、簡潔に伝える」


 そして鏡に映る少女の瞳の中に、自分を探しながら口を開いた。


 「お前は監禁されている」


 メイは心の中で同意だと頷く。


 「おそらくあまり、良い状態では無い。お前の感想は後で聞く。とりあえず、今後の可能性を伝える」


 話は想定外になってきた。


 「あの破落戸の屋敷で、俺がお前の身体に入った。その俺と白髪とのやり取りを、見ていたエスクというガキの、評価がこれだ」

 

 (エスクというガキ?)


 オルディオールが黒豹エスクを、仔猫のように言い表した事にメイは過剰に反応したが、今はそれどころでは無い。


 「お前は軍に、間者疑惑を向けられていた。俺が表に出て、剣を握った事により、その可能性に拍車をかけた。俺が指揮者なら、間違いなくここよりも粗末な牢に、放り込む」


 (いつ、どこで、だれが? だれと? なにをした? って、全て初耳である)


 「そこでお前に、質問がある」


 (しまった。そこでの前がほにゃらら、いや、マジでよく聞いてなかった、)



 「お前は、何を目的とする?」



 オルディオールはメイを見つめた。鏡に映るのは自分の顔かたちなのに、一切妥協を許さない他人の表情かおがある。


 (目的…?)


 *


 重い。まるで、目的意識が違う、バイト面接を受けたようだ。売り手は時間内で時給内の気軽なアルバイトを探している。しかし、フリーターウェルカム、未経験歓迎を謳い文句に足を運べば、買い手の面接官は、我が社のマニュアル通りに、我が社での最終目的を質問してくる。


 重い。別にバイトの仕事に手を抜く気は無いが、我が社での最終目的は、当たり前だが金を稼ぐことのみだ。それ以外の最終目的のヒアリングアンケートは、賞与と福利厚生で愛社精神を繋ぎ、牛馬のごとく鞭打ち出来る社畜と呼ばれる正社員だけにして欲しい。


 お互い時間の無駄なので、過大過小広告求人は止めてもらいたい。


 ーーーーパン!!


 *


 (はっ、)


 鏡の中のメイは、目の前で手を合わせて眉間に皺が寄っている。


 (これは、まさか、自分が自分に猫だまし)


 プススッ!

 

 (ウケル。初めてのセルフ猫だまーーパン!!!


 (セルフ猫だまし、セカンド。そして鏡の中には、初めて自分を睨むオラツイタ自分)


 「俺は、気は長い方では無いんだ。だいぶ譲歩したんだがなぁー…。今、鼻から抜けた空気は、まさか、ふざけて笑ったのかぁあ? ああぁん?」


 吹きだされた少女の下品な鼻笑いに、オルディオールはメイの長考は無駄なものだと感づいた。


 「…ほぅ。なるほど…。おい。前々からガキだガキだとは思っていたが、お前、この俺が驚くほど、ガキ以上にガキだよなぁ? 落人オルって奴は、皆そんな感じなのか? 絶対、十九セルドライは嘘だろ。も一回聞くぞ。お前の、目的は、何だ?」


 オルディオールは怒っている。それはさすがにメイにも分かった。しかし、所詮は自分なので恐くない。


 (むしろ屁でもない)


 そう思ったメイは、取り戻した自身の主導権に、ため息を一つつくと『十九であってるよ。こちらがみんな老けすぎなんだよ』と呟いた。


 ぷちり。


 (自分なのに、何かが途切れた気がする)


 鏡の中の少女は、未だかつて無いほどに相手を見下した。童顔でも無いが、多少目尻はつり目気味である。しかし、この様な顔をすれば、人を蔑む表情が出来るんだと自分を感心する。


 「俺は馬鹿も嫌いだ。いいか? 俺の質問と、お前の答えの内容が、俺が理解できる言語を用いらなかった場合、」


 (場合?)


 「全裸で基地内を歩き回った後、変態野郎ヴァルヴォアール様にこの身を捧げる」


 (……)


 *


 変態野郎ヴァルヴォアール様に、意識を奪われている場合では無い。

 

 え……、


 (エマージェンシー!!!!!!)


 *


 『無理! あ、違、』、

 「むりむり、むりむり!むりむり!!」


 自分で自分に追い縋る。実際追ってはいないが。メイはオルディオールからの、理不尽な質問の答えを考える。


 (そもそも、そもそも、なんで私が私に脅迫されてるの!? いや、私じゃなくて、こいつは、)


 しかし、一歩間違えば、裸踊りが待っている。


 メイは慎重に言葉を選ぼうとしたが、選択肢はただ一つ。考える時間は無くて良い。初めから彼女にはこの思いしか無いのだから。



 「帰る」



 自分の中の、オルディオールという名のぷるりんに、それを伝えたメイは、指先から徐々に身体の主導権を取られてゆくことを感じる。


 オルディオールは、今度は怒ってはいなかった。この短い一言に、メイの全てが集約されている事を理解したように、神妙な顔でただ軽く頷く。


 「先ほどの話しを続ける。俺であれば子供であろうと、国に害のある者は、それに相応しい牢に入れるが、ヴァルヴォアールの野郎は牢では無く、この要人や監視保護対象用の部屋にお前を入れた」 


 メイは黙して次を待つ。話したくても、発言権は一切無い。


 「つまり、お前は十中八九、何かに利用されるだろう。二度とこのまま、一生、自分の足や意思を持って、外に出ることも出来ずにな」


 (私。多分。ヤバイことは理解できた…でも)


 メイは自分を助けてくれた親切な彼らと、オルディオールの話の内容が一致しないまま。


 「このままこのグルディ・オーサ領に監禁は意味が無い。落人オルと呼ばれるお前達が、どれほど価値があるかは分からない。落人それは俺の時代にはいなかったからな。だが、帝都で調べられるだろう。しかもお前は、少し他の落人オルとは違うみたいだからな」


 (オル…?)


 フロウやエルヴィーが、メイを交えずよくその単語を使用した。だがメイは、その単語を重要視してはいなかった。


 *

 

 ーーだって、誰も教えてくれなかったんだもん。


 なんて、仕事が出来ない言い訳理由、べすとスリー! にあげられる言い訳はしない。


 (何故なら私は、その単語を意図的に無視していたのだから…)


 〔落人オル〕が出てくると、皆の雰囲気が変わる。特にエルヴィーは、例の無表情に拍車がかかる。君子危うきに近寄らずなのである。


 *


 (私が君子。使い方は間違えていな「聞いてるよな? 二度は言わないからな。二度目があった場合は、奴との子供を産ませるからな。あんな娼館通いの素人女日照りは、孕ませんのなんて一発だから」


 (!!!)


 オルディオールの何気ない言葉に、メイは戦慄した。

 

 (何故、話を聞いていない事が分かったのだ! それよりも、宣言内容が重た過ぎて、逆に頭に入ってこなくなりそう)


 「お前の目的を、俺は手伝おうと思う。だからお前も俺に、全面協力することを、誓約グランデルーサしろ」


 (誓約グランふふーんサ?)

 

 「俺が必要だと判断した場合、いつ如何なる時も、その身体を明け渡す。また、ルルと呼ばれる俺を、排除しようとしない。誓えるか?」


 この恐ろしく理不尽な誓約の内容を、メイに理解出来るはずもないことは、オルディオールは知っている。身体をメイに明け渡すと、彼女は「いいよ」と簡単に頷いた。


 「ぷるりん、大丈夫」


 (マジで本当に馬鹿なんだな…。一体どんな所で育ったら、こんなに間抜けに育つんだ?)


 メイは今、ルルという正体不明の魔物に身体を乗っ取られているのだ。無条件に身体を明け渡せと、ルルであるオルディオールは言った。


 これは事実上、死の宣告だ。


 オルディオールが永久にメイから主導権を譲らなければ、彼女は自分の身体を二度と動かせない。今までの話に流されて、理解出来ていないだろう事を想定した上で言ってみたが、やはり何も考えていないようだ。


 誓約グランデルーサは破れない誓い。


 誓約時に自分が有利になる条件、出来る範囲の条件、交渉は常に当たり前なのに、少女はその術をやはり知らなかった。


 理不尽を悩み無く快諾した少女に、オルディオールは良心の呵責を棚上げし心配し始めたが、自分に有利な内容を変えるつもりは全く無い。メイの意思を確認し、再びオルディオールは口を開くと、両手を胸の前で交差し軽く目を伏せた。


 「たがった者にはエゥルが落ち、死で二人を引き離す」


 メイはやはり、誓約の内容よりもオルディオールの言葉に別の何かを連想し余計な事を考えていたが、背後の扉から鍵の開く音がした。


 振り返って扉を見たのはメイ。


 開く扉から入って来たのは、エルヴィーだった。


 「ミギノ!」


 鍵を開けたのはステル。彼はまだ戸口に居たが、人目も憚らず抱きつくエルヴィーに呆れて扉の外に出た。メイは為すがままに頭を撫でられ続ける。


 メイは、このエルヴィーの熱い抱擁を、大型犬の体当たりだと心で割り切った。


 **


 オルディオールは、メイの中でエルヴィーの行動を悉に観察していた。

 

 少女につきまとう、玉狩ルデアりと呼ばれるエルヴィー。大聖堂院から派遣され、騎士団とは敵対する派閥。これは、オルディオールの居た五十年前には存在しない組織だった。

 

 (大聖堂院カ・ラビ・オール、おそらく前身は、魔法院と呼ばれた研究所の事だろう)


 過去では、騎士団と対をなすほどの大きな組織では無く、戦闘として利用できるほど大きな魔法術も無かった。家庭用の魔法技術を、細々と研究していただけの研究所。


 生活に便利な魔石を生成していたが、魔法院の中心は、貴族院でも少し変わった家柄のオーラ公爵家だった。


 その魔法院は、衰退した魔法技術の研究所のはずだったが、いつの間にか奴隷を買い取り、人体実験をしていると噂になり始めた。


 奴隷開放運動を天教院と行っていたオルディオールにとって、魔法院の印象は相当に悪かった事を思い出す。


 (自分ルルにとって天敵の玉狩エルヴィーりが、よりによって、潰そうとしていた魔法院の手の者だというのも何かの縁か、ばれたら致命的だ)


 少女の中で内心笑うオルディオールだが、ふとあることに気がついた。 


 (それにしてもこいつ、なんでこんなにメイに依存してんだ?)


 年齢は二十一、メイの主張する十九だという年の差から恋愛感情も考えられなくはないが、オルディオールはこの男がメイに向ける執着は、別の何かのように感じていた。


 (まあ、他人の色恋なんざ、どうでもいいんだが…)


 他人の恋愛に干渉する事ほど、野暮で時間の無駄なものは無い。エルヴィーへの干渉を放棄しようと思ったが、目の前でメイを見つめるその顔を、以前も何処かで見たような気がした。


 (どこでだったか、薄い金髪…薄い灰色の目、…いや、男では無い。俺が知っているのは、女性だ)


 オルディオールが過去の残影を追うと、抱擁に満足したのか腕の力をゆるめたエルヴィーは言った。


 「フロウが君を帝都へ連れて行こうとしている。僕は反対なんだ。君は絶対に、帝都へ行っては駄目だ」


 当たった。そう、メイは思った。


 先ほどオルディオールが語った内容に、近い話が出てしまった。メイにとっては、この施設内の彼らは異国人の迷子を助けてくれた、ただの恩人達だ。


 (正直、悪意を感じずに別れたかったな、)


 「でもこの基地の中では、僕はフロウの指示に従わなくてはならないんだ。だからフロウにバレないように、この部屋から出る方法を考える。ミギノは僕を信じて待っていて」


 メイは複雑な心境で頷いた。フロウ達に直接聞いた訳ではないが、エルヴィーのこの話で、オルディオールの話に信ぴょう性が増していく。


 (そろそろ自立しなければと考えてはいた。お礼やお別れを言えないのは礼儀知らずかもしれないけど)


 「おい、早くしろ! 今日は特に忙しいんだよ!」


 扉が少し開き、隙間からステルの怒鳴り声がする。エルヴィーはミギノに頷き、彼女もそれに頷き返したがざわめく不穏な音に、ステルが怪訝に廊下の奥を見上げた。


 「…何?落人オルが出た!?」


 扉隙間から漏れた声にエルヴィーは反応し、嫌なことを聞いたと顔をしかめる。


 (そういえば、それって私? 落人《 オル》って、さっきぷるりんが私のこと、そう言ってたよね?)


 メイは気づいて、ステルを振り返ったエルヴィーの袖を引いた。


 「私? 落人オル?」


 思った事が口に出て、いつものように気軽にエルヴィーに尋ねただけだった。


 『っう、!!?』


 無表情、無感情、そのエルヴィーが突然メイの口を片手で強く覆う。男の突然の行動に少女は息を詰めた。それはほんの一瞬で、ステルが次に部屋の中を確認すると、既にメイは開放されていた。


 「エルヴィー、団長ゼレイスが呼んでいる」


 エルヴィーは無表情のまま少女に軽く頷く。その間、メイは全く動けなかった。


 「今行くよ。執務室かな、隣に居るの?」


 立ち去るエルヴィーに、硬直したままのメイ。しかしそのエルヴィーの猫背の背中に、再び少女の高い声がかかった。これも思っただけのことを口にした質問を。


 「ラルドハートを知ってるか?」


 オルディオールはエルヴィーの顔に、自分の婚約者であったミルリー・プラームの侍女で友人、ハーメイラ・ラルドハートを思い出したのだ。


 (あれから五十年。ここはトライド。もしかすると、エルヴィーは侍女の血族かもしれない。そこから、ミルリーの現在を探し出せる可能性がある。…女々しい未練だが、)


 もう、嘗ての婚約者なんて、忘れているかもしれない。


 オルディオールは、僅かな可能性でもミルリーの無事を確かめたかった。しかしエルヴィーは質問には答えず、少女を見つめたまま硬直し、目は焦点が合わず全身で震え出す。


 「う、あ、…が、ァアアアアア!」


 「何? どうした?」

 「なんだ?」


 ステルはエルヴィーの変化に驚き、少女が駆け寄ろうとするのを素早く片手を上げて制した。


 「ガアアアアアアアア!!!!!!」


 叫んだエルヴィーは伸ばされたステルの腕をなぎ払い、そのまま彼に殴りかかる。


 ーーバキッ。


 鈍い音は、ステルでは無く、エルヴィーの腕が扉を叩き壊した音だった。




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