罪と罰 15
巫女が攫われた緊急事態に、一度ファルド帝国の王城に戻ってくれと第四師団の騎士団長に頼まれたが、皇子アリアは首を横に振っただけで箱車から降りては来なかった。
「なんだか、巫女殿の安否を確認せずにトライドへ急ぐとは、エスクランザの皇子も薄情ですね」
見送った箱車の背に呟いた部下に、ウェルフェリアは違うと否定する。怪訝に見返す優秀な部下は未だに首を傾げたままだが、ウェルフェリアはそれに答えず第九師団との合流点に踵を返した。
ーー[犯人がオーラの者ならば、トライド行きが救出の最短でしょう?]
出発の前に言った皇子の言葉に、周囲の騎士たちは意味が分からず困惑したが、ウェルフェリアはそれがオーラ侵攻がより早まったのだと理解出来た。
「こちらも急ぎ、残る魔法陣を破壊するぞ」
ファルド帝国に限らずどの国でも、誘拐事件での被害者の救出率が極めて低い事も、アリアがトライドへ移動した要因の一つだろう。少女の身を案じて、いつ戻るかも分からない者を無意味にファルド帝国で待つことは無駄だと去ったのだ。当たり前のそれを、ウェルフェリアは非情だとは微塵も思わなかった。
***
ーーーファルド帝国西門、貴人箱車車中。
手渡された青い精霊、そして未だ動きが緩慢なエルヴィーを見たアリアは、護衛の少年騎士テハに魔石を用意させる。茶褐色の石を青い精霊に、透き通る無色の魔石をエルヴィーに手渡したアリアは短い刻を数えて再び石を回収した。
「どうかな?楽になっていない?」
馬車の中、向かい合わせに座るエルヴィーは無表情に頷き、その隣に置いてあった青い球体はぷるりと震える。
「なんだろう、前はもっと長く痺れていたのに、それが減ったような、・・・でもむしろ、すごく身体が怠いな」
呟いたエルヴィーを、青い精霊は見上げるように斜めに傾げた。
「君たちの魔素を抑える魔石で剋したんだ。まあ、簡単に言うと数字持ちの君の木性を風で、精霊殿の水性を土で攻撃して体内の魔素を弱らせたって事だね」
「そうなんだ、今の、攻撃だったの?魔素が無くなると、健康に影響するのは知ってるよね。場合によっては気絶したり即死したりするそうだよね」
「そうみたいだね。魔素に依存する君たちは、弱点が多くて可哀想だね」
車窓の外の流れる景色には目を移さず、笑うアリアを無表情で眺めていたエルヴィーは、ふと言葉を話せない青い球体を見下ろした。
「・・・・」
(・・・・)
オルディオールと呼ばれる英霊の成れの果てを見下ろしたが、言葉を交わす手段は無い。そのエルヴィーを向かいの席から見つめていたアリアは、切れ長の青い瞳を嫌悪に眇めた。
「不様だね。かつての英雄と魔戦士と肩を並べる数字持ち、そしてうちの神官が居てもあんな小さなメイ様一人を守れないなんてね」
「・・・・」
(・・・・)
「本当は気絶するまで魔石を持たせるつもりだったけれど、それじゃあ僕の言葉が聞けなくなるから、手前で止めたんだよ」
嫌味な笑いを消したエスクランザの皇子は、ファルド国の者たちを侮蔑を極めて見据える。
「攫われた相手が悪かったね。犯人は前聖導士オルヴィア・オーラの手の者、大聖堂院の研究員だってね」
「・・・・」
「うちの者が、天上人だとメイ様を攫った理由とは大きく異なる。メイ様の扱いは落人や実験動物だと落とされるだろうな」
(・・・・)
「彼女の死が確認されたら、エスクランザは国を挙げてファルドを攻撃するからね」
攫ったオーラではなく、アリアは天上の巫女の死でファルド帝国を攻撃すると言った。涼しげな青い瞳は目の前に存在する二人の少女の守護者を射抜き、報復の言葉を告げる。
「もちろんここで手段は明かさないけれど、誓約よりも子々孫々と続く怨嗟を、ファルド国民に与える事を約束するよ」
「・・・・」
「特にオルディオール殿、僕は今回の貴方には失望したよ。まさか、あんな子供にあっさり負けるなんてね」
(・・・・)
言葉を話す事の出来ない、哀れな青い球体は動かない。それ以降アリアは口を閉ざし、静まり返った車内、彼らの乗る箱車は、当初の目的を変えずにトライドへ向かって走り続けた。
***
ーーーファルド帝国、下町エスティー基線、空き家通り。
馬犬の足跡を追ったアピーは、少し大きな四辻で臭いを見失い直ぐに引き返す事になった。
「ごめんね、トラーさん・・・」
「いや、結局はアピーに頼ってしまった私が悪い」
第二師団が引き継ぎ破壊された魔法陣を調査する中、地下道への入り口に置かれたままの箱車にはスアハが乗っている。呼吸器官を火傷した少年は軍医に手当てされていたが、アピーたちに気付いて車を走り降りてきた。
〈メイは・・・何処?〉
〈今追っている。お前は治療に専念しろ〉
〈スアハも、メイを、追いかける〉
〈駄目だ。お前は怪我をしたのだろう?〉
〈こんなの、奇麗な水に入れば、すぐ治るもん〉
「アピー、スアハと共にトライドへ向かえ」
「え?、やだよ。アピーもミギノを探すよ」
「お前は良くやってくれた。直ぐに発て」
「やだ!」
〈ヤダヤダ!!〉
[行け!!!]
「!!」
〈・・・・〉
初めてトラーに大きな声で恫喝された。北方の短い言葉の意味が分かった子供たち二人は沈黙したが、スアハの碧い瞳はどんどん紫色に染まる。人を嗜める事に声を荒げないトラーの怒声にしょんぼりと落ち込んだアピーだが、目の前に立つ銀髪の少年の唯ならぬ雰囲気に気付き驚き、後方に飛び下がりぶるぶると恐怖に震え始めた。
〈無人、スアハは、お前たちの敵だよ〉
[知っている]
〈メイ以外の無人は、スアハには、お肉と同じだよ〉
[知っている]
威嚇音を発しながら不気味に静かに話すスアハ。対峙するトラーの手は、素早く背の革腰帯に差し込まれた中刀に向かう。二人は睨み合い、周囲の空気は張り詰めた。
〈なら無人ーー「「フンドシのお兄さん!!」」
一触即発の中、徐々に離れて震えていたアピーの大声が、遠鳴きでスアハとトラーの耳に突き刺さるように鳴り響いた。突然の大声に眉を顰めてふらつく二人は、離れて震える少女を振り返り睨み付ける。
〈弱いやつ、邪魔す「無人じゃないよ!トラーさん、フンドシのお兄さんでしょう!!」
〈???、〉
耳はへたり込み、全身はぶるぶると逃げ腰に震えながらも顔を真っ赤に叫んだ少女を、きょとんと見つめた少年の瞳は碧色に戻っていた。
〈・・・あんた、やっぱり、見ても分からないなんて、バカ以上の、バカなんだね。フンドシのお兄さんは、どう見たって無人でしょう?〉
「フンドシのお兄さんは、トラーさん!!」
〈・・・だから、・・・ハァ、・・・なんか面倒くさ。もう、また、首が痛くなってきた〉
侮蔑に少女を見据えたスアハは、溜め息を吐いて喉のあたりを軽く撫でる。
[・・・スアハ、]
〈・・・・〉
〈私はここから単独で巫女様を追うが、お前は皇子と共に巫女様をお救いするために、トライドに向かえ〉
〈・・・性格の悪いお兄さんと?、何で?〉
〈皇子はこれから、ガーランドとオーラ領の殲滅作戦に参戦される。敵は巫女様を攫った者たちだ〉
〈メイは、そこに、連れて行かれたの?〉
〈私はその前に取り戻すつもりだが、オーラ領へ逃げられる可能性もある。お前が無人の敵だと言うのなら、オーラ領の無人から巫女様をお救いすればいい。おそらく、陸路で追うよりも飛竜ならば先にオーラ領に入るだろう〉
〈・・・・〉
「アピーも、トライドでアラフィア殿が待っている」
トラーの言葉に、少し離れて逃げ腰に二人を見ていたアピーの耳が、ピクリピクリと動いて反応する。箱車の御者にトライド行きを指示して歩き出したトラーの背中に、スアハは碧い瞳を向けた。
〈フンドシのお兄さん!〉
[?]
〈じゃあ、メイを、どちらが先に助け出せるか、競争だね!〉
先程まで本気で自分を殺そうとしていた少年の、子供染みた発言に呆れてトラーはスアハを肩越しに流し見た。だが思ったよりも真剣な表情の蛇魚の少年と目が合ったトラーは、軽く一つ頷いてそれを了承した。
******
口うるさいオルヴィアの居ない移動は快適だった。テリスタは街道沿いの小さな町で食事を済ますと荷台の幌を捲る。荷物を降ろして箱を開くと、テリスタから逃げるように身を引いた奴隷が生意気に見えて、躾のために再び頰を打った。
「水だぞ。飲め」
北方の奴隷のくせに、巫女だと役目を与えられた事に勘違いしたのか、この少女は貴族であるオルヴィアの頰を打ったのだ。その勘違いをオーラ領に着くまでに矯正しなければならない。なので食事を与えようとは思わないが、あと数日の旅路に死なれては困るので水は定期的に与えてやった。
水を与えると首に縄をかけ草むらで排泄させる。初めは嫌がっていた黒髪の少女だが、テリスタが頰を打つと大人しく従うようになっていった。
「でもお前は軟弱だなあ、数回叩いただけで、内出血するとは。あまり醜い顔では大聖導士様にお見せできなくなるな」
草むらで屈む少女を見てテリスタは、紫色に腫れ上がった頰、切れて直ぐに血が流れ出る小さな唇を不気味だと笑った。だが生気無く男から目を逸らす少女は恥ずかしがりも泣きもせず、それが苛立ちを余計に煽る。
「おい、ガキだからと生意気な態度をとるなよ。お前は珍しい落人の奴隷だと、その辺の商人に売り付けてもいいんだからな」
『・・・・』
脅してやったが反応は無い。本当に商人に奴隷として売ることはしないが、手持ちの金が寂しくなってきたので落人の少女に次の町で客を取らせようかと思いついた。荒くれ者の海賊上がりの者達が未だ住みつく極東は、昔は南方から獣人の奴隷を攫って見世物にしていた。凶暴では無い落人の少女は珍しい。それに落人で興味をひかなくてもファルドの騎士団長ヴァルヴォアールのように、小さな少女に興味のある偏執的な者がいれば直ぐに客になるだろう。
そう思い付いたが小さな箱に閉じ込めて四日目、ふらふらし始めた少女は熱が出たようで見るからに弱っていた。なので直ぐに客を取らせる事を見送る事になる。
(まあ、オーラ国までは急いでもあと一週間はかかる。大切な魔石を売る事は出来ないが、治らなければ無理矢理にでもエリドート辺りでひと稼ぎさせるか。第四のディルオートのように死体に興味のある変態も居るからな、多少意識が無くても買い手はあるだう)
しかし落人はますます体調を崩し、翌日も自力で立ち上がらず口にする水の量も減ってきた。状態を見下ろして箱の蓋を閉めたテリスタは、死体になった落人をオーラ国へ届けるかどうかを道中で思案し始めた。
(頑丈だと思っていた落人が、これほどひ弱だとは。こんなものを受け入れてくれるだろうか?、いや、大聖堂院でなら解剖でも役に立つはずだが・・・)
その日は宿屋が見つからず、森の外れで火を熾して携帯乾し肉を炙っていたのだが、野宿の為に寝酒を用意し少し口にしたところで背後から声を掛けられた。振り返って男の風体に驚いたテリスタは、反射的に姿勢を正して立ち上がる。
「その箱車、」
「ああ、俺のです。まさか、オーラの方ですか?」
黒い馬犬から降りて笑う男は、テリスタが仕えていたオルヴィアに雰囲気がよく似ている。肌の色髪の色、特殊な金朱の瞳までが同じだった。オーラ公家の親類かと正式に挨拶しようと思ったが、自分を見下ろす男の威圧感に萎縮して言葉を飲み込み数歩後退る。
〈初めの宿屋で、貴族が未だに奴隷を飼って、連れ歩いていると噂になっていた〉
「へ、え?」
〈次の飯屋で、貴族の男が犬に水をやると言って、店の者が捨てようとした客の飲み残しの水を箱車に運んでいたそうだ〉
「?、貴方は、いや、あんた、誰だ?、オーラ公家の者じゃないな、」
〈その次では宿屋の子供が、男が奴隷の少女の首に縄をかけて、草むらで用足しさせていたことに驚いて、子供が大人の男を怖がるようになったと困っていた〉
「何なんだ!何語だ?、誰なんだ!?・・・そうか、わかったぞ、俺から落人を横取りしようと、」
荷台へ走り出した男は、何かが強く足にぶつかり横倒しになる。不審な男から逃げようと立ち上がろうとしたが、腰が抜けたのか両足に力が入らなかった。必死で腕に力を込めて起き上がろうとするテリスタの横を、不審な男は革長靴の長い足ですたすたと通り過ぎる。
「やめろ!それは、俺のだ!!」
荷台の幌に手を掛けた男に怒鳴りつけ、何故か動かない足を振り返ったテリスタの、両腿から下には何も無かった。
「あ、あ、あ、あ、なんだ、これ、!、?」
愕然と切り落とされたものを見て、自分が踏み切った場所に転がる二本の足を目に留める。蒼白になり呆然と切り離された足を眺めていると、切り口から血が噴き出してテリスタはようやく甲高い悲鳴を上げた。
**
〈止血は自分でしてくれよ。放っておくと直ぐ傷が腐るぞ。今日はなんだか蒸し暑いからな〉
転げ回る男を無視して、硬く結ばれた幌の紐を剣で断ち切る。夜だというのにまだ蒸し暑い中、風の通らない荷台は熱が籠もっていた。荷物は小さな箱と大きな鞄が二つのみ。箱に乗せられるように寄りかかる鞄の中身は口が開いていて魔石が詰まっているのが見える。それを押し退け木箱を開けると、男の探していたものが中で丸まっていた。
〈お前、小さすぎ、見つかんねーわ・・・・〉
『・・・・、』
微かに動いた事を確認して、生きていた事に安堵する。小さな黒髪の少女が身を丸めなければ入れないほど、木箱はとても小さかった。抱え上げた身体はぐにゃりと力が無く熱い。箱に空いた隙間は狭く、息をするのがやっとだった事が見て分かった。
男は荷台から降りて、抱え込んだ少女に携帯していた飲み水を飲ませる。痛々しく青紫に変色した頰に触れないように水筒を飲ませるが、少し開いた小さな唇から全てこぼれ落ちてしまった。
〈辛いか?でも少しでも飲めよ〉
変色の無い皮膚は異様に白く血の気が無い。少女の浅い呼吸に目を眇めた男は、蜜飴を口に含んで噛み砕いた。そして溶かした蜜飴に、更に水を一口含むと真白い少女の唇に重ねて流し込む。
『甘い・・・』
〈アマイ?〉
薄く開いていた少女の黒目が閉じると、目の端から透明の涙がこぼれ落ちる。二度三度繰り返し水を飲ませた男は少女を抱えて立ち上がると、少し離れた所に転がり呻き続ける血塗れのものを見下ろした。
〈こいつの治療代として、そこの魔石はもらってやるからな。お前は自分でなんとかしろよ〉
人では無い叫び声が聞こえたが、男は荷台から魔石の入った大きな鞄を取り出すと、片手に少女を抱きかかえたまま黒い馬犬に跨がった。
**
『くれいおる・・・』
助けた少女から漏れ出た言葉を聞いて十九は窓の外を見下ろした。
〈んん?クレイオル?来たのか?俺が居ない間に?〉
〈クレイオル、来ないぞ〉
久しぶりのガーランド語、少し腫れが引いた少女の頰は、薬が塗られて紫色に黄色の色が混ざり始める。
〈薬が効いて良かったな。後は食えば治る〉
子供用の食器で少しずつ麦水を食べる少女は、十九の問い掛けに片言のガーランド語を返してくる。だが片言には上士官のような命令言葉が交じり、それが出ると十九は少女の頼りない姿との違和感に思わず吹き出してしまう。そんな姿を見て、小さな少女も痛みのある頰を引きつらせながらも嬉しそうに笑い始めた。
〈子供は笑顔が一番だな、カミナメイ〉
〈私はだぞ、二十、だぞ〉
〈あ?、今度は二十か?、二十がここに来たと言ったのか?カミナメイ。・・・違うよな。あいつら今、それどころじゃないだろうし〉
『またか。微妙に言葉が噛み合わない。そして久しぶりのフルネーム、連呼されると、違和感が積もります』
〈お前、それ落人語だよな?いや、天の言葉か?なんか、童謡みてーな音だな。お、飯ぜんふ食ったか?なら薬飲め。これには天の木の痛み止めが入ってるって医者が言ってたぞ〉
千年の大木、薬効のある天樹の木を年に一度少し削って、それを乾かして粉にする。採取する量が少ないのでとても高価な薬だ。
〈帝都じゃ貴族に独占されて、絶対に手に入らない貴重な薬だってよ〉
〈薬だってよ?〉、
『とても苦くて後味の悪いアレですね?オブラート・ヘルプミー』
眉間に皺を寄せながら大人でも顔を顰める苦い粉薬を、上手に零さす飲み干した。感心だと頷いた十九は、ファルドの露店で大量に貰った蜜飴を小さな口に入れてやる。
『甘い・・・』
〈アマイ、そうか、それがお前の言葉で甘いだな。やっぱりガキは蜜飴が好きだよな。俺も好きだけど。まだあるぞ〉
寝台の上に、袋から出した色とりどりの甘味を並べる。
『この味、助けてくれた時の水にも入ってた。見た目はクールな威圧感ある男の人が・・・なんか、関西圏のおばちゃんみたいに飴ちゃん常備、プフッ』
また笑った少女に気をよくして、更に別の袋から自作の干し果実を取り出した。
〈ペアの実、知ってるか?俺、これが一番好きだな。東側ではよく生ってるから、見つけると集めてんだ。ガーランドではこれ、育たないんだよ〉
並べた赤と青の美しい実。干しても色が変わらないペアの実は、乾かして日が経てば甘味も増して旨くなる。だが十九のとっておきの青い実を見た少女の顔は、明らかに哀しげに歪んだ。
『・・・・・・・・・ぷるりんだ』
〈プルリンダ?お前、何その顔、まさかペアが嫌いなのか?・・・・あー、分かったぞ。青いやつ、ルルに見えるんだろ?ルルなんて怖くねーし。むしろちょっと面白かったし〉
『ルル・・・・、・・・・ぷるりん』
〈だからそれ、ルルじゃねえから。プルリンダしなくても大丈夫だぞ。・・・でもそうだな、ルルか・・・。今日でファルドを出て七日目か。まだ落ちたって噂、聞こえてこないな〉
窓の外、北に連なる山を金朱の瞳は見つめた。美しいエミー・オーラを思い出し溜め息を吐いた十九は、未だ青いペアの実を見つめたままの少女に話し始める。
〈お前が攫われていた期間は五日、この宿で二泊〉
天上の巫女がオーラ領へ攫われたとファルド軍が宣言した翌日に、ガーランド国を先陣にトライド領から連合軍がオーラ領へ総攻撃を仕掛けた。それは過去の歴史に見ない激戦となり、双方に多数の犠牲者を出しているが未だに決着を見せる事はないという。
〈この七日間で、歴史は大きく変わった〉




