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ぷるりんと異世界旅行  作者: wawa
天へ帰る歌~オーラ公国
182/221

記録から消された竜騎士 05

 

 第九師団が影でこそこそ動き回り、第一師団が表立って貴族院議会を丸め込み大聖堂院カ・ラビ・オールへ干渉してくる。エミー・オーラは万が一、騎士団が敷地内に踏み込んで来た場合の為に、禁じられた品々を隠す秘密の保管場所を王城内に用意していた。


 大聖堂院カ・ラビ・オールの第一区画から、王城へ唯一繋がる裏通路。そこは幼いアレウスに許可を申請させて作らせた連絡通路だが、隠し素材置き場へ続く通路でもある。


 アレウスとエミーの為だけの美しい中庭へ続く道。その通路の途中は王族の避難通路となっているのだが、そこに手を加えて素材置き場を作らせた。


 もちろんアレウスも他の貴族も知らない空間だ。これで騎士団が大聖堂院カ・ラビ・オールをどんなに調べても、責められる禁じられた品々は出て来る事はない。


 保管物の多くは珍しい獣人の毛皮や実験素材だが、その中に、騎士団には絶対に知られたくないあるものも運び込んでいた。初めは廃棄物ルデアをその部屋に置いて警戒管理させていたのだが、廃棄物ルデアはやはりルル狩りしか出来ないようで、すぐに使用期限が切れて死んでしまう。


 悩むエミーに息子のクレイオルがある提案を出したのは、およそ二ヶ月前の事であった。





**





 (このガキ、なんで俺の数字を知っているんだ?)


 よほどの自信があるのか、大きな音と共に侵入者は現れた。だがそれは男が想像した者とはかけ離れた小さな子供。


 命令通りに直ぐに殺そうと思ったが、柱の陰からこちらを覗き込む子供が自分の数字を知ることに手を止め、男は一先ず怪しい少女を見極める事にした。

 

 〈四十五エルヴィーを知っているのか?、しかも言葉が通じるなら、クレイオルの使いか?〉


 〈エルビー、知ってるぞ。私は知ってるぞ〉


 〈・・・クレイオルの使いな訳はないよな。こんな子供と関わるはずはない。なら、エルヴィーが連れて逃げた、落人オルか?〉


 〈落人オル、私は知ってるぞ〉


 〈・・・・おかしい。聞いた落人オルは、オルヴィアを傷付けた凶悪な者らしいが、・・・これが?〉


 巫女の上等な外出着を着込んだ黒髪の少女は、口を不満に引き結び、つり目の黒目を眇めて青年を睨んでいるがとても弱そうに見える。


 (凶悪・・・?)、

 〈ん?子供、生意気に、俺を睨んでいるのか?、そうだお前、なぜこの場所、俺の事を知っている?〉


 少し声を強めただけで腰の引けた子供だが、強がりまた自分を睨んだ姿に男は鼻で笑う。


 〈私は、知りません〉


 〈・・・まあ良い、どうせ刻はあるんだ。お前が骨になるまで、話を聞かせてもらおう〉


 〈私は、帰ります〉


 〈帰れない。ここを見た以上は、お前はここに居るんだ。俺と、ずっとな〉


 『・・・今、ずっと居るとか、帰れないとか、言わなかった?』


 〈・・・東側の言葉では無いな、それに北方でもない。・・・北方、よく見たら、お前、エスクランザの者か?〉


 〈エスクランザ、知ってるぞ〉、

 『痴漢皇子アリア、ここに来てますよ』


 〈・・・来い。座れ〉


 聞き慣れない言葉を話す少女が逃げないように手を掴むと、驚くほどに柔らかい。慣れないものに戸惑いながら、男は壊さない様に慎重に箱の上に少女を乗せる。顔を見下ろすと陽の光が射し込む中、大きな黒目は男の顔を見て驚き、口を開いたままだった。


 (なんだ?、この顔、)


 ようやく口を閉じた少女は、悲しみに顔を歪めると再び不満に口を引き結ぶ。異性からこんな顔をされた記憶は遠い昔にあったかもしれないが、今はエミーを始め女達はよく男の顔を褒めてくれていた。だが何故か目の前の少女は、初対面の男の顔を見て今にも泣き出しそうだ。


 (失礼なガキだな、人の顔が、恐いのか?)


 〈大丈夫?〉、

 「大丈夫ですか?」、

 『えーとえーと』、

 [お腹空いてます]


 (ああ、腹が減ってるのか、)


 拙い単語はなんとなく理解でき、何故泣きそうなのかも分かった。だがここには腹を満たす物は無い。それは少女にとっては悲しい事だろうが、永く刻を過ごさなくてはいけない男にとって、奇妙な客は暇つぶしには丁度良かった。


 〈北方語だな?、俺、あんまり得意じゃなかったんだよな。でも今のは分かったぞ。腹は減らない。お前が減ってもここには食う物は無い〉


 〈無い〉、

 『イエス』、〈闇隊長ノーライド


 〈闇隊長?あー、そういや、隊長、どうなったのかな。まあ、いいか、で?、お前は名前なんて言うんだ?〉


 〈名前、私はカミナメイ・・・・ミギノ〉


 〈カミナメイ、お前の目的はこれだろう?〉


 エミーの使いではないのなら、ここに来る者の目的は一つしか無い。男の座る箱の下に眠る者、それを奪う者を消すために彼はここに居るのだ。無力なこの少女が、絶対に手に入れられない事を分かっているので宝を見せてやることにした。


 (四十五エルヴィーと逃げた落人オルが、なぜこれを狙うのかは分からないが、まあどうせ、奴の企みの一つかもな)


 布を外して中のものを見せてやると、少女は跳び上がり素早く箱から飛び降りた。そして今度は少し覗き見て、青ざめ座った場所をさっさっと払う。


 (・・・?)


 更に目を瞑る少女は、ぶつぶつと何かを呟き始めた。


 (呪文、にしては、こいつからは、嫌な魔素アルケウスを感じない。というか、全く何も感じない・・・しかも呪文じゃなくて、なんかの歌か?ナムナムナムナム?、何が目的だ?このガキ)


 おそらくこの行動は脅威にはならない。首を傾げてそれを見守り見下ろすと、少女はじりじりと後退し、明らかに逃げようと続き部屋を振り返る。それを逃がす訳はない男は、掴んだ柔らかい身体を捉えると再び木箱の上に座らせた。


 (落ち込んだ・・・?)


 『・・・・・・・・』


 ぐったりと俯き、哀しげに溜め息を吐く小さな子供。


 〈なんだよ、これを取りに来たんじゃねーのか?、って、四十五エルヴィーもなんか変だな。騎士団が子供を使う訳はないし、魔法士でもなさそうだし、クレイオルの知り合いでもない。・・・なんだろうな?まさか、迷子?まーまー、いいから、座れって〉


 背中越しにチラチラと中を見下ろし、少女は箱から降りようとする。そしてまた呪文を唱え始めて震え出す。それを見た男は、隣の家の幼なじみが夜に大きな獣が出ると、効果の無い獣退散呪い言葉を呟いて、震えながら納屋に隠れた事を思い出した。


 〈・・・はは、オモシロ、まさか、怖いの?箱の中身。・・・まあ、確かに、あまり良いもんじゃねーよな〉、

 (俺もこいつ、嫌い)


 掴まれた腕から逃げ出そうと、そわそわと木箱から腰を浮かす少女を見て、男は懐かしい何かを思い出し気持ちが高揚してきた。


 〈久しぶりだなー、話すんの。言葉通じるのって、クレイオルだけだったし。まあだから、ここに居ることになったんだけどな〉


 〈久しぶり、もう少し、ゆっくりお願いします〉


 〈ああお前、全部カタコトだもんな。なんだろうな?カタコトは諜報ハインになれねーしな〉


 〈はいんりひ、知りません〉


 〈分かってる。お前みたいな間抜けは諜報ハインには居ない。お前が四十五エルヴィーと逃げた落人オルだよな?〉

 

 押し黙った少女は、再び口を引き結び男を見上げている。何を考えているのかは分からないが、大きな瞳は哀しげに震えていた。


 (そうか、俺に殺されるの、このガキ、恐いよな)


 人として当たり前の感情。それを今さら思い出したと、男は不思議に少女を見つめる。


 〈玉狩ルデアりや皆が噂話してた、四十五エルヴィーが連れて逃げた落人オル。大抵の奴はエミーの事だけ愛してたけど、一部は逃げた四十五エルヴィー落人オルを気にしてたんだ。俺は言葉があんまり通じないから、なんとなく聞いてただけだけどな〉

 

 エミーから愛を貰えなかった四十五エルヴィー番が、六十六ロウロウ番を殺してまで逃げた事に、数字持ち達は驚愕していた。


 〈なんでエミーを捨てたのか、とか、もう四十五エルヴィーはエミーを愛していないのか、とか。俺はエミーからの愛を独占したいのに、四十五エルヴィーの事を聞くと、エミーを捨てた事にイラつく。どっちなんだろうな?、独占したいなら、四十五エルヴィーが居なくなったら喜んでいいのにな〉


 少女は言葉に頷き、そして首を傾げる。その曖昧な姿に男は、少女の背後に苛立ちの元凶の廃棄物ルデアを感じた。


 〈なあ、四十五エルヴィーは近くに居るのか?〉


 〈エルビー?ここには居ません〉、

 『ていうか、大丈夫ですか?身体』、

 〈身体、大丈夫、水飲むか?〉


 (居ない・・・、奴はこの落人オルと逃げたのに、カミナメイを捨てたのか?、やっぱ四十五エルヴィー、狂ったって本当だったのかもな)


 四十五エルヴィーの行方を聞いて、居ないことに安堵したような、落胆したような、分からない気持ちが浮かんだが、自分を見上げる少女の顔に気付いた男は問われた疑問を思い出した。


 〈ああ、身体の事か?、俺にはエミーの愛がある。この赤い魔石と紫の魔石。紫の魔石は戦士デルドバルしか貰えない、エミーの愛なんだ。温かいこれを持っていれば、眠らなくても食べなくても、動いてエミーの役に立てるんだ〉


 ーー「頼りにしてるわね」

 

 エミーにそう言われた男は、彼女からの愛の証の紫色の石を少女に自慢して握り締める。赤い魔石も廃棄物ルデアが命がけで探し出す物を、戦士デルドバルならば苦労なく貰えるのだ。


 (マジ廃棄物ルデアじゃなくて良かった。痛みがあるなんて、エミーの役に立てない事が、存在意味ないしな)


 だが男は廃棄物ルデアではなかったが、言葉が他の者とは通じなかった。もちろんエミーとも通じない。なので言葉が分かる、エミーの息子のクレイオルと行動を共にしていた。新たに学ぶことも面倒で、エミーが自分に話す言葉だけを後で調べて記憶している。 


 〈俺もエミーと居たかったけど、ここを任せていた玉狩ルデアりが死んで、やはり使えない廃棄物ルデアりよりは、戦士デルドバルの方が頼りになるって、俺がここを護る事になった。それが、二ヶ月くらい前かな?〉


 暇つぶしの少女は幸い男の言葉が通じる。元来はよく喋り友人も多かった男は、久しぶりの会話に言葉は途切れる事はない。


 〈エミーの愛があれば、何があっても身体は動けるんだからな。・・・だから、それを得られない玉狩ルデアりだから、四十五エルヴィーは離れたのか?〉


 『エミー暗い?』

 〈エミーのクライ


 (四十五エルヴィーは、何故この子供を連れて逃げた?)


 〈お前が何か、したのか?、エミーに代わる愛を、お前が四十五エルヴィーに与えたのか?〉


 『死の断食ダイエット、美魔女教祖エミーは暗い・・・、困ったな、闇は深まる一方だよ。私の手には負えないよ、やっぱりあの人しか居ないよ、ドクター・ストップという、天の一声を』、

 「メアーさん、医療師団長ゼレイス・スクアード

 『あ、居ないか、あ!オカマ医師居ます』、

 〈水は飲め〉、

 『絶食後にいきなりの固形物は、体に良くないそうなので、私、お水を持って来ます』


 騒ぎ始めた少女を訝しみ見下ろす男は、初めて彼女が自分の痩せた身体を気にして、おかしな表情をしていたのだと思い当たる。


 〈なんだ?メアー・オーラ?と水?、まさか、カミナメイは、俺を心配してるのか?〉


 見知らぬ不穏な少女が自分へ向けた気遣いに、男は胸の内に何かを思い、苛立ちが募り始めていた。


 〈大丈夫だ。エミーの愛があれば、身体は動けるんだからな。俺は失敗作ルデア四十五エルヴィーとは違う〉


 『・・・・』


 〈お前は何故、四十五エルヴィーではなく、俺に気を、愛を向ける?誰でもいいのか?俺はエミーだけを愛している・・・〉


 肯定に真摯に頷く少女に、男は更に苛立ちを感じて拳を握る。その中には赤い魔石が発動前で止められており、チリチリと手の平で燻っていた。


 〈お前は、四十五エルヴィーに愛を与えていないのか?〉


 〈エルビー、クライ〉、

 『確かに、無言の時は無表情という威圧的表情により、他者を圧迫しすぎていますが、暗いかと言われれば、それは個性かと』


 〈何を言った?、今のは何語だ?まさかそれも北方語か?俺はガーランドではそれは得意ではなかったのだ。プライラの言葉の方がよっぽど分かる〉


 〈プライラ?〉


 〈そうだ。俺とプライラの飛行速度は国で一番だった。あいつの子が産まれてすぐに出撃が決まってな、プライラの子供は珍しい異種で、小さく産まれて色が黒色だったんだ。雌親とプライラは、子供が他竜に攻撃されないか、長く生きられるか心配してた。もちろん、俺もな〉


 〈プライラの子?黒色?知ってるぞ〉


 〈あ?、何言ってんだ?〉


 〈黒いの、今は闇隊長ノーライドオゥストロさんと飛ぶ〉、

 『ボス的存在の黒ドローンです』



 ーー〈!!〉ーー



 少女の言葉に硬直した男は、心を縛る何かが外れた事を感じた。


 (プライラ、そうだ、俺の相棒はプライラ。俺は隊長の隣から、グルディ・オーサの敵地を攻め降りた。そしたら、赤い色が辺りを覆って、空落ちした・・・?、プライラは?)


 言葉にはスラスラとプライラの名を出していたが、心には何も響かずエミーの事だけが占めていた。だが今は、エミーよりも相棒の飛竜が心に突き刺さる。


 (プライラどうなったんだ?子供の黒いのが、闇隊長と飛ぶと、このガキが言ったが、)


 闇は余計だと思ったが、自信に溢れた少女の顔付きと言葉には、その隊長の強さを感じる。


 (オゥストロとは聞いたことの無い名だが、プライラの子供が、隊長格と飛んだと言ったのか?・・・なら、良いが。・・・そうなら、良いな)


 自然とこぼれ落ちた笑みは、エミーの事を考えた訳では無かった。そしてそれを見上げた黒髪の少女は、何故か困った顔に動揺し始める。

 

 〈水は飲め〉、

 『本当に、持ってきますよ。大丈夫です。あなたを見たら、社長から逃げ出して、白骨化を簡単に想像した自分が情けなく微妙です』、

 「お水飲みたいですね?あなたは」


 (また水か、しつこいガキ・・・。だけどこんなに、エミーは俺の事を見た事が無い)


 『ギブミー・ウォーター?あ、間違えた。いろいろ間違えた。えーと、姉さんと弟の、朝の会話を思い出して私。確か食べ物とかあったような』、

 〈お前また、残すなよ、全部食え・・・?〉、

 『合ってますか?通じましたか?意味、』


 〈お前、これを取りに来たんじゃないのか?〉


 これはエミーの大切な素材だから、これを取りに来た者は全て殺せとクレイオルに言われている。軍隊には上からの命令は付きものなので、およそ二ヶ月、飲まず食わずで骨になっても敵を殺す事が、エミーへの愛になるのだと信じていた。


 『・・・・』


 指をさした箱を見て、小さな少女は否定に首を横に振る。何故かこれにも安堵の溜め息が漏れた男は、改めて少女を見定めた。


 (魔素アルケウスを感じない。エミー以外はクレイオルやオルヴィアにも魔素アルケウスを感じて苛つくのに、このガキにはそれを全く感じない)


 〈不思議だな。カミナメイは敵だと思えないんだ。だからエルヴィーは、お前なら、エミーに代わる愛をくれると思ったのかもな。だが駄目だ〉


 (プライラの事は気になるが、エミーが大切な事には変わりは無い。そうだこのガキも、逃げる為に、水を取りに行くふりをしているはずだ)


 『・・・・』 


 限られた光量の隠し部屋、本来窓など必要無いが、外観の不自然を隠すため外からの空気が入り込む造りになっている。無音に近い室内に二ヶ月ほど一人で居た男は、何処かから微かに新たな物音を耳にした。  

 

 (複数、軍靴の音か?これを取りに来たにしては、声まで上げて騒がしく慌ただしい・・・。城で何かあったのか?)


 更に音に耳をすませて、それが何故か遠離って行ったことが分かった。


 (王族が、何処かに移動したのか?)


 不審に少女を見下ろすと、大きな黒目は真摯に男を見上げ自分の首回りを探り始める。


 (王族を逃がす、王族が逃げた?誰かを探すような声掛けに聞こえたが、まさか、このガキは大聖堂院カ・ラビ・オールではなく、王族側の入り口から入ったのか?)


 オーラ公家の者以外、知り得るものは現在の皇帝しか知らないと言っていた裏通路。なのでそれ以外は必ず箱を狙う者だから殺せと言われている。


 (だがこのガキは箱の中身を知らない。それは顔を見て分かった。この裏側に軍靴を踏み鳴らし歩き回る愚鈍な隊士達は、何かを声を上げて探している。このガキが本当に王族に関わる者ならば迷い込んだ可能性も・・・)


 ぐるぐると大袈裟に巻かれた包帯の手を不器用に動かし、上等な巫女服の襟元から引き出された物は長く細い鎖。それを首から潜る様に外すと、何かを包帯の両手で包み込んだ。そして決意した表情で少女は男へそれを差し出す。

 

 〈誓約グランフフーンサ違います。指輪は、私のとてもとても大切な物。あなたに持たせる。水は飲め、ここに。水はあなたに持たせる〉


 (誓約グランデルーサと言ったのか?)


 〈私は帰ります、ここに。あなたは指輪は、私に持たせる〉、

 『通じたかな?オケー?』、

 〈了解ダーラ?〉


 〈!!〉


 少女の話す懐かしい言葉は、ちくりちくりと男の心を刺してくる。拙い言葉で大切な物だと差し出した鎖付の指輪を見て、それと交換に自分の痩せた身体を本当に気遣っているのだと感じた。そして彼の上官の様に確認を求めた生意気な少女に、それを敬礼という形で返す。


 〈了解ダーラ


 きょとんと目を見開き、片方の眉毛を上げて訝しむ少女を見て笑う。


 〈お前の愛を、試してやるよ〉


 差し出された少女の大切な指輪の代わりに、男は大切な紫石の首飾りを少女に握らせる。


 〈四十五エルヴィーがお前を試した様に、お前が俺に、愛を与えられるか確かめる。・・・待ってるぞ〉


 強く肯定に頷き、小さな少女は走り出した。それを見送った男は、痩せ細った指先に乗る美しい小さな指輪を挟んで光に翳す。


 〈奇麗だな。高そうだ〉


 繊細な総彫りの貴石の指輪は男の故郷のガーランドの細工である。それを首にかけると、少女が立ち去った続き間からやって来た、新たな侵入者へ目を向けた。殺気を放ち、剣を振りかざした二人の騎士は逆光の男を威嚇する。


 「ここは王族しか立ち入れない禁域である。国賊、大聖堂院カ・ラビ・オールの者、所属と名を名乗れ」


 (金の髪、怜悧な青い瞳の美丈夫は、この国の騎士団の象徴である者。その隣には黒髪褐色の肌の、煩わしい第一師団のカル


 目を眇めた男の姿、その全貌を見た二人の侵入者は、驚愕に息を飲んだ。頬は痩け目玉は大きく見え、全ての骨が浮き出るまで痩せ細り、立って歩いていることが不思議な状態だ。だが痩せた男はふらつくこと無く足を踏み締め、首を傾げて腕を組む。


 〈お前達の怪しげな行動により、あのガキは生き残る事が出来た。やっぱり、ただの奇跡の迷子かよ。笑えるな。それとも、騎士団はガキを囮に使うほど、落ちぶれたのか?〉


 「団長ゼレイス、彼は魔戦士デルドバルです。お下がりください」


 対峙する男達により、緊張感は高まっていく。そして少女とは違い、二人の侵入者が現れた刻から、痩せた男の苛立ちは耐えがたいほどに強くなっていった。


 〈エミーの愛を、あのガキに渡したからかな、なんか、すごい腹が減ってきたな。そして、すげえ、苛つく、お前達、〉



 チリチリと鳴り続ける赤い石、その手の平を男は侵入者達へ開いた。 






**

 




 

 軽い足音を耳にして、暗闇の中から二組の瞳は振り向いた。そして足音無く走り近寄ると、目的のものは無防備に下を向き、何かを探してぐるぐると動き回っていた。



 『マイパンツ、フリルどこ?・・・まさか、ネズミか?』


 自分達に気付かず、ちょろちょろと落ち着き無く動き回る事が面白くて観察していると、不意に少女は顔を上げた。


 『っひっ・・・・!!』



 〈メイーーーーー!!〉



 『うぎゃあぁあっ!!』


 飛び掛かり捕まえてじゃれ合う。目的の獲物を見つけた興奮に騒ぐスアハを、ここまで導いたアピーは止めることが出来なかった。むしろ自分もそれに加わり騒ぎたいが、大人の女として我慢する。


 〈スアハ!いい加減にしろ!〉


 先駆けた少年達に遅れを取ったトラーだが、小さな巫女の少女の無事の姿に安堵した。だが未だ纏わり付く少年を引き剥がそうと肩に手を掛けた瞬間、巨大な爆発音と震動と共に砂煙が舞い上がった。


 


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