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ぷるりんと異世界旅行  作者: wawa
天へ帰る歌~オーラ公国
178/221

03 人を見た目で判断ミスる。


 

 「私のために、このファルド帝国を善き世へ導く為に、天へ祈ってくれるだろうか?」

 

 ーーコクリ。

 


 占いとは、自分が無い人ほどよく当たるのだと、占い好きの叔母さんは言っていた。


 彼女は普通に美人の部類だ。彼氏も定期的に見かけるが、何故かいつも結婚に至らない。それを悩み抜いた二十代後半の時、心の拠り所が占いだったそうだ。占い師には、頑張れば今年中に新しく出会った男性と来年結婚出来ると言われた叔母さんは、何かの頑張りが足りずに予言の年には結婚出来ず、私が我が国にいた頃は三十八歳だったが、未婚歴更新中の独身のままだった。


 悩む彼女はある日、友人に指摘されたのだそうだ。


 〔お前には、自分が足りない〕


 その浅くも深くも解釈可能な、まさに占い師のような友人の無料の言葉に、何故か彼女はピシャアン!と開眼したらしい。


 自分が足りない、イコール、言われるがままに占い師の言葉に導かれ、小さな事をこつこつと実行して占いが当たっていると喜んでいたのは、自分であったと。


 だがら良い方向へ導く占い師を探し出す。悪い言葉ばかり言う占い師の所へは行かないと、私に熱弁していた叔母さん三十八歳のお盆休み。


 (叔母さんはとても前向きで、とても素敵な人だったが、お盆休みの親戚集会の時も、結婚の話だけはチラついてはいなかった。むしろ年を重ねるごとに親戚は、叔母さんを腫れ物に触れないように見守っていた)


 そんな占い好きの叔母さんを、このボンボン社長を見ていて思いだしたのだ。


 「巫女メイは、どこの神樹ハハキの言葉を聞くのだ?やはり、このファルド帝国神殿の、石の神樹ハハキは力が強いのか?あの石には様々な精霊セーレが宿ると神官は言っていた。東の果ての島から採取した、とても貴重で高価な石なのだそうだ」


 (占いと併用された霊感商法。高価な天然石ブレスレットならぬ、石を既に買わされているようで、残念です)


 「私には精霊セーレや英霊は目に見えないが、やはり巫女ミスメアリメイには見えるのか?」


 「・・・見えます。オルデオール、皇帝陛下も見えます」

 「本当か!?、ああ、早く見てみたい、」


 あの青い玉が見えないほどの視力の持ち主ならば、日常生活に眼鏡が必須だろう。しかし視力が回復したところで今、奴はこの場にはいない。私の鼻や口からズルリと抜ける、あのパフォーマンスの披露は又の機会にご期待下さい。


 (というか、若社長、私に何をさせたいのだろう?、呼ばれたから来たけど、空気を読んで頷く事しか出来ないが、褒めて褒めて、持ち上げればいいのかな?、なんだか精霊の話とか神的な何かの話ばかりだけど・・・)

 

 「天上エ・ローハ巫女ミスメアリメイ、言ってくれ。私の決断は、間違えてはいないのだと」


 『・・・?』、

 「間違えてはいません」


 「お前は、あの二人の様に、私からは、決して離れてはならない」


 (二人?いやそれよりも、なんだか怪しげな内容になってきた。今こいつ、離れるなとか言わなかった?しかも命令系だった。言い方が)


 「・・・私は、帰ります」


 「・・・今、なんと言ったのだ?」


 真顔になった若社長。だがしかし、この一線だけは譲れない。


 (しかもこういう占い師依存系には、誤解させずにハッキリびしっと言っておいたほうが、後々のトラブルを回避出来そうな気がします)


 「私は、帰ります」


 「帰る?何処に帰るのだ?・・・まさか、愚かにも私の話を遮って、退席すると言ったのか?」


 帰る場所?それは何処かと聞かれれば?今の〔帰る〕は間違いなく我が国ではあるのだが、その説明には長い時を要するし、私の語学スキルではとても若社長に正確に通じるかどうか分からない。 


 (そして権力社長から、非権力小市民ワタシへの、強い圧力が発動されている。・・・はっ!そうか、こいつ本物の王様系だったんだ、やばい。痴漢と同じ種類の俗物だ。見た目が私の苦手なたれ目、女にだらしなく優しそうだとの先入観から、ただの甘やかされボンボン青年だと思っていた。気を付けなければ、)


 とりあえず退席の誤解は、即座にジェスチャーで否定回避!


 フルフル、フルフル。


 「ならば、この国から出ると、言ったのか?・・・まさかガーランド、いや、エスクランザとでも、言いたいのか?」


 フルフル、フルフル。


 (社長、目がマジだ。怖い。でも、異世界語での〔天〕や〔空〕、私が落ちてきたそこに帰るとかは、なんだが縁起が悪くて言葉に出したくない)


 ーー天に帰る。


 (それって、なんだが死・・・いやいやいやいや、今の無し!!無し!無し!、あ、そうだ、)


 ぷるりんが屋上の端っこでやっていた、空を指すポージング。あれがあったのだ!


 ーー指しっ!


 「・・・上、ああ、そうか、天、」


 そこへ、帰ります。

 ご理解ご協力のほどを、お願い致します。


 (そうなのだ、痴漢とぷるりんとの会話の中に、この話が出ていたのだ)


 痴漢王子アリアは、天上人が何故この国で多発しているかの要因に、聖歌が関係しているのではと言っていた。


 過去に痴漢王子の国から、このファルドへ持ち運ばれた聖歌の中に、天上人を呼び寄せる歌があったのではとミーティングの後に私に教えてくれたのだ。


 (王子アリア・チカン、感謝致します。私の帰り道、なんだか見つかりそうな気がしてきました)


 先の見えないぷるりんとの誓約グランフフーンサ。それよりも確実な第一歩。周囲の私への嘲りの減少、アリアチカンからの帰り道の有力情報。なんだか、とても希望が見えてきた今日この頃。


 実はまた、私はぷるりんへの新しい不信感に気付いてしまったのだ。


 (戦争の最中、聞き流してしまったが、あの玉は、おかしな発言をしたのだ)


 確かぷるりん、〔俺は誓約グランフフーンサを、一度も破った事は無い〕って、言ってた。


 でも実際ぷるりんは、自分から破った事は無いが、誓約グランフフーンサ完了ならずの途中経過で、この世を一度リタイアしていた事になる。


 それって、つまり?


 (契約不履行。誓約グランフフーンサって、結局は何なの??)


 誓約グランフフーンサが重要なものだとは分かる。そしてアリアチカンの国の誓約グランフフーンサも、結婚などの大きな契約の事を言っていた。


 (電化製品などを魔法の小石で代用しているが、その便利生活品、科学に位置するものがこの異世界では魔法だと私は思っている。なら魔法では無い誓約グランフフーンサは?)


 ーーただの、口約束か?


 (いや、待て待て。きっと軽いものでは無い。ぷるりんも天が落ちたとかショック受けてたし、) 


 「ならば巫女ミスメアリメイ、私と誓約グランデルーサしよう」


 なんだって?今、何言った?社長?


 私は帰り道を示すのに、部屋の高い天井を指さした。ボンボン社長はそれに雲の上の天上世界を想像し、しばらく無言になっていたのでその間の手持ち無沙汰に私は誓約グランフフーンサの本質を考えていた。だが何故かその誓約グランフフーンサが、またもや突然私に突き付けられたのだ。


 (タイムリー?閲覧履歴を覗き見られたような気持ち悪さ。だがここは、やはりハッキリとお断りします)


 「誓約グランフフーンサ、しません」


 曖昧契約の申し込みは、今後一切お断りである。


 「また、私を拒絶か?」


 「私は落人オルです。誓約グランフフーンサ、できません」


 回避回避、絶対回避!というか、待って待って。なんか、地味に社長の圧力が強まってきている気がする。気のせい?



 「・・・・来い」



 『へ?』


 社長にガシッと掴まれた、そして王様事務室から引きずり出される。いいなり依存系の占い好きのボンボンの力は意外に強く、未だ包帯を巻かれている私の手を容赦なくぐいぐい引っ張る。


 (何処行くの?、そっち、入ってきたドアじゃないよね。なんか、やばい気がする)


 突然の呼び出しに付いてきてくれた、かっぱちゃんとマスク代表は今も廊下で待ってくれているはずだが、社長は違う扉から違う廊下へ出てしまった。


 (なんか、これ、何かの番組で見た、お城の緊急脱出の、裏通路に感じるけど気のせいだよね?)


 壁のように見える飾り扉を抜けると、これも扉だったのかと思えるただの壁が開く。すると暗闇の通路が出てきた。踏み入れると床の端だけが、映画館の足元のようにぼんやりと光り始める。前を歩き、力強く私を引っ張る若社長の顔はもちろん見えないのだが、見えたとしても、怖くて見たくない気がする。


 (マスク代表、かっぱちゃん、気付いてくれないかな、) 


 振り返っても、もちろん二人の姿は見えない。このピンチに駆けつけてくれそうなエルビーもぷるりんも、今日はとても忙しいのだ。


 早朝、エルビーを過去の戦死者だと話をしていたオカマ医師がやって来て、アリアチカンとぷるりんはエルビーを連れて皆で出掛けていった。人体実験の研究跡地、空ビニールの実験施設でぷるりん達は、ぷるりんの、オルデオールの身体を探すらしい。


 とりあえず、私は足手まといになるかもしれないから置いていけと、オカマ医師がぷるりんに言ったからの別行動。だから今日は、久しぶりに楽しいお出かけお買い物だったのだ。なのに、占い師依存系社長に捕まってしまった。


 (今日はオゥストロさんに、指輪のお返しを、自分で選んで買おうと思ってたのに、なんで社長、)


 社長は無害そうに、見えたのに!

 

 『痛い、離してよ・・・』


 緩むこと無い掴まれた右手、じわりじわりと痛みは増していく。だが先を歩くこの国の王様は、振り返ることなく暗闇を突き進んだ。

 



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