02 心情 02
「知らないわ!私が命じたから?あの女がそう言ったの?」
王族の親族が口を出し、国政を歪めることはよくある話なのだ。国民の血税は王家の財産であり、搾取することに慣れた者達は小さな物から大きな物まで手に入らない物は無い。搾取の欲求は底をつく事なく続く。それは行き過ぎると、国は傾き始めるのだ。
欲しいと口にするだけで、自分が何もしなくても、周囲の者が揃えて差し出す事が当たり前の王家。
「私は、和平交渉の邪魔をしろだなんて、陛下の意志に反する命令など、あのエミーへ出してなんかない!」
「ですが上皇妃様、獣人の毛皮を集める為に、国境線の山々が邪魔だと婦人会で発言されたと、皆が証言しております」
「知らないわ!そんな、お茶の席での戯れ言、約束でも命令でも、何でも名無い、」
王家の親族による内政干渉は内々で処理できるが、それが対外政策へ干渉した場合、ファルド帝国では法令が発動される。これもまた、国民の良心とされるエールダー公家が造り出した法案である。
「王室法令第五条、皇帝陛下、または皇帝陛下に継ぐ皇太子以外の王族が、貴族院議会、並びに統括騎士団長を通さず外交に干渉し、それが帝国に損害を与えた場合、身柄を王家の塔へ定められし期間、幽閉とする」
近寄る兵士を手で払う。指飾りや髪飾りは暴れるたびにバラバラと毛足の長い絨毯へ撒き散る。
「私は陛下の生母であるぞ!触れるな!」
「これは皇帝陛下の命令にございます」
「・・・あ、アレウス!あの、恩知らず!!!」
オゥストロからの攻撃で臓腑が傷付き肋骨を数本砕いたメルビウスは、完治せずとも僅か三日で第一師団副団長として驚異の復帰を果たした。黒では無い、真白い隊服を憎々しげに睨み付けた上皇妃は、次にエミー・オーラの名を叫ぶ。
「あの女を呼びなさい!!これだけ目をかけてやったのに、この私を、陥れるだなんて!、許さないわ!!」
「残念ながら、オーラ公家はもうファルド帝国に存在しません」
「そんなはずない、早く、あの女をここに「連れて行け!」
メルビウスの鋭い声に頷く屈強な男達は、年の割には華美に飾り立てられた女を拘束し王城の塔の一つへ連れ去った。
**
幼い頃からの教育係の一人であるグライムオール・ランダ・エールダーは、アレウスの元を去ってしまった。
(どうしたらいいのだ、どうしたら、)
豪奢に飾り立てられた王の居室、美しい部屋を幾つも通り抜けてアレウスは大輪の花々が咲き誇る中庭に辿り着いた。
(ここは、エミーが好きな場所か・・・、皇帝の私室には女らしさが際立つと、グライムオール先生は嫌っていた、)
だがそれは本当に女性的な華やかさが嫌いなのか、グライムオールがエミーを個人的に嫌いだからなのではと、アレウスは常に疑っていた。グライムオールだけでなく、多くの貴族の者達もエミー・オーラを煙たがっていたからだ。
だが影ではエミーと大聖堂院を否定するが、反対派は面と向かって意見をしない。エミーを目の前にすると人々の口は重くなる。彼女の美貌に言葉が出なくなるのだと、それをアレウスは情けなく思っていた。
誰しもが敬遠する大聖堂院。人々から拒絶される非人道的な魔石の実験は、良い結果が出れば国に献上している事実もあるのに強く非難される。
夜を灯す魔石、湯を温める魔石、水を浄化する魔石などの結果を便利だと、貴族達を始め新しい魔石が出来上がれば率先して生活に利用しているのに、その過程の実験を非人道的だと反対派は声高に言う。
使用はするが実験行為は認めない事が、とても理不尽だと考えていたアレウスは、大聖堂院に対して自分だけは優しく接しようと思ったのだ。それに優しさを示すたびに、エミーは優しさでアレウスに返してくれる。生まれてから式典以外で顔を見たことがない生母、今は上皇妃と呼ばれる彼女よりも、アレウスはエミーに親しみを覚えていた。そして美しいエミーにアレウスは、少年期から淡い恋心を抱くようになったのだ。
だがアレウスの教師であるグライムオールは、その恋心を強く否定した。
国民には最後の良心と謳われるエールダー公家は、良心を大聖堂院にだけは使わない。それは幼少期からの疑問と不満だったが、更に恋心まで否定されたアレウスは憤った。ならばエールダー公爵の代わりに、大聖堂院を護る良心となろう。そしてそれをグライムオールへの反発心から今まで続けていたのだが、今回の大きな国の決断で、エミーのある提案をアレウスはファルド帝国皇帝として断った。
恋心や私的な憤りに囚われず、教師の顔色も見ずに自らの意志により決断したのだ。
(グライムオール先生の目の前で、先生の示す善意と良心、そして道徳に従って、皇帝として権威を示した。それにエミーも納得して議場を後にしたのだ。なのに、何故、こんな事に、)
お互いを嫌い牽制し合っていた二人は手を取り合い、アレウスを捨てて出て行った。
(何故、二人は私の前から去ってしまったのだ、)
「陛下、天上の巫女殿が、次の軍会議の開始のため、陛下をお連れするようにとの事でございます」
同じ悩みに囚われ続け、ぼんやりと生気無く庭を眺めていたアレウスは従者の言葉に振り向いた。
「天上の巫女、そうだ、全ては巫女、そして、英霊オルディオール・ランダ・エールダーによる、天の指示だったのだ」
「陛下?」
「そうだ、巫女は何度も私を褒めてくれた。これは全て、天啓。私は間違えてはいない!」
***
ーーーファルド帝国王城、天空議場。
彫像の様に身動きしない。円卓から少し離れた場所でオゥストロを見つめていた黒竜は、全ての動くもの、周囲に殺気を放っていた。
調印式を目前に破壊行為は行われ、未だファルド帝国とガーランド竜王国の正式な和平条約は書面に残されていない。だが先送りした調印式とは別に、ファルド帝国内に四カ国の代表が招集された。そこで急遽開かれた会議は、ファルド帝国より逃亡したオーラ公家を大陸破壊活動組織と見做し、それを共通の敵と考える四カ国で鎮圧を目的とする連合軍の結成だった。
犯罪組織オーラ公家を全面的に支持したのは、ファルド帝国貴族界を二分する力を持つエールダー公家。力あるエールダー公家を筆頭に、それに追従する貴族も現れた。その中には、反旗を掲げたがトライド王国へは亡命せずに、ファルド帝国内に燻っていた者達も多くいる。
オーラ公家が独立国家として勢力を拡大する前に、その源を断ち切らなければならない。ファルド帝国騎士団長のヴァルヴォアールが主導で破壊活動組織殲滅の計画を立てたのだが、四カ国連合国の象徴となる者は、皮肉なことに嘗てのファルド帝国英霊オルディオール・ランダ・エールダーを身に宿す、黒髪の小さな少女であった。
*
落人の巫女の言葉に頷き退出したアレウスを、円卓を離れて見守る者達は不安げな瞳で見つめていた。
若き皇帝アレウスは信じ切っているが、老齢な大臣や長く帝国に仕える兵士達は、北方の顔立ちの小さな少女を未だ不審に思っている。だが今回、出自も知れない怪しげな少女が、ガーランド竜王国の黒竜騎士とエスクランザ王国の皇子の二人を、この地へ呼び寄せた事実もある。一概には騙りの巫女だとは主張出来ず、英霊という怪しげな存在にも強く非難を口には出せないままでいた。
そしてこの連合会議の場を見守る衛兵達の懸念は他にもあるのだ。今や昔語りとされてはいるが、嘗て東大陸を蹂躙した赤い蛇、その恐怖を彷彿とさせる黒く大きな飛竜が異様な殺気を放っている。大臣達の嘆願により護るべき若き皇帝は早めに議場を退出したが、続く軍会議に天空議場の空気は張り詰めていた。
全ての兵士は、恐ろしく危険な黒竜に対応すべく、常に気を張りその場に待機していた。だが、その恐怖の存在に小さな少女が突然走り寄り、議場を護る者達は全員身構える事になる。
**
[ねえ、あれ、大丈夫なの?]
トラヴィス山脈の攻撃から、飛竜は人を威嚇する事が多くなった。以前は必要以上に近寄らなければ友好的だった飛竜だが、あの爆撃以降は人を避け、直後は乗り手の騎士も意思伝達に戸惑い苦労したという。
[あの黒の飛竜は君のだから、他のよりは冷静そうだけど、さっきから、すごく殺気は出してるよね?]
〈突然の山への攻撃に、人へ不信感を抱いたのは全ての飛竜だ。ドーライアも、例外なく俺にも距離を置いている〉
[・・・メイ様が、食べられる事は無いよね?]
〈・・・・メイとの再会に喜びはしていたが、攻撃範囲に立たれれば、何をするかはドーライア次第だ〉
[え?、君次第だよね?主なんだよね?]
〈飛竜と竜騎士に上下の交流は無い。あくまで関係は同等だ〉
[・・・でも、強制的に止めることは出来るよね?]
〈強いる関係は、同等では無い〉
[話にならないよ、オゥストロ。それは止める事が出来ないって、言った事と同じだよ?]
憤るアリアと、それを聞いて息を飲むアールワールは、黒竜を操るはずの騎士を見た。少女を見つめるオゥストロは微動だに動かない。それをフロウは涼しい青い瞳で見つめていたが、黒竜に最も近い衛兵に目を向けた。
〈止めろ。お前達が少しでもドーライアへ敵意を向ければ、全てはメイへ向かう〉
誰しもが一目見て危険だと判断し、決して近寄ることは無い。不気味な黒い巨体に小走りに近寄り、黒髪の少女は飛竜の攻撃範囲に進み出た。
*
「さあメイ、こいつと遊んでいいぞ。大丈夫だぞ。オゥストロが後ろにいるからな。囓ることは、まず無いだろ」
『・・・・遊ぶ?』
〈・・・グルルル〉
オルディオールと入れ替わった少女の眉毛は不満を示し、未だ片方が上がったまま黒竜を睨み上げている。一方の黒竜ドーライアも、小さな少女を睨み付け不穏に威嚇音が鳴り続けていた。
(これって、オゥストロの奴、噛まない様に言ってあるよな?大丈夫だよな?)
会議中に気付いた顔の違和感に、オルディオールはメイのささやかな主張を感じた。オゥストロの顔を見るたびに、片方の眉毛が上がるのだ。少女に何か不満があるのだと感じたオルディオールは、子供の不満を解消するには動物だと、初めに約束していたドーライアとの戯れを前倒しにした。
(俺は何も飼った事はないが、犬を数匹飼ってた奴が、反復訓練で命令を覚えさせると言っていた。この黒竜は、オゥストロからメイへ手を出さないような合図でもしてあるだろうし、飼い主が傍で見てるから、まあ大丈夫だろう。そういや、獣人とか白狐とかも、この黒長鼠に興味持ってたな。・・・動物同士、通じ合えるものがあるのか?)
〈グルルル、グルルル、グルルル、〉
(これって、威嚇音に聞こえるが、馬犬も甘えると喉を鳴らすしな・・・。どっちだ?)
『遊ぶって?どうやって?ドローンにあげる、おやつとか無いのに?』
〈・・・・〉
少女に取り憑いたオルディオールは、黒竜に遊んでもらえとメイに言った。オゥストロはそれに笑って返したのだが、もちろんそれはガーランド流の冗談だ。だが真に受け行動した精霊と少女に、平静を装うが内心では気が気ではない。アリアから言われずともドーライアを止めるつもりのオゥストロは、黒竜と少女の微妙な間を見極めて、素早く少女へ近寄る為に立ち上がった。だが既に、少女はペチリと腿肉へ手を掛けてしまった。これに誰しもが息を飲み、ひやりと天空議場の空気が揺れる。
『いだっ!、やっぱ、ペチッてやると、まだ痛かった、手の平。でもこの見事な足もも肉は、見るとペチッてやりたくなるよね』
〈!!〉
[なんでよりによって、精霊殿ではなく、メイ様なの?]
『メアーさんの軟膏はね、すごく良く効くの。もう両手はほとんど治りがけ』
ぽんぽん。
『・・・大変だったね、黒つるりん。山の住処が、壊されたって聞いたよ』
(・・・止めろ、メイ、それ以上ドーライアを刺激するな)
ぽんぽん。
『仲間達、大丈夫だった?、メガネのパルーラも挙動不審だったし、メガネもすごく落ち込んでたね』
〈・・・・グルルルルルルルルルルル〉
ぽん、なでなで。
〈ドーライア、パルーラ、大丈夫〉、
『・・・メアーさんはね、きっと、こんな事、やりたくてやる人じゃないと思うんだ。なんでこんな事になったのか、皆は悪い話しかしないけど、メアーさんに会ったら、なんでこんな事したか、聞いてみるね。まずは私が先払いで代弁します』、
〈ルルルル・・・・・・・・〉
「ごめんなさいごめんなさい、ゆるしてぇー」、
[もうしわけございません、私は]、
〈ごめんなさい〉
〈・・・・・〉
『どれか通じた?、やっぱりドローン語は、巨人語と共通かな?』
ニコリッ!
少女が何かを語りかけ、黒竜は募る殺気を霧散させた。そして興味深げに小さな黒頭へ鼻を寄せて頭を押し付ける。その光景に周囲は静かに身動いだ。
(・・・ドーライア、)
親竜が子竜にする仕草、それを目にしたオゥストロは瞠目し、そして安堵に微笑する。
[メイ様は何かしたの?]
動けずにそれを見ていた者達は、獰猛な黒竜の口元へ頭を寄せる命知らずの少女を見つめたままだ。
「危険動物を凌駕する飛竜と聞いていましたが、意外と大人しいのですね、」
「・・・・飼い主が、命令しているのでしょう」
アールワールに返したフロウの言葉に、振り返ったオゥストロの微笑みは嘲るように歪んでいた。
「そうだな。黒竜の機嫌を操ることは乗り手の俺でも至難だが、我が婚約者の事は初めから気に入っているのだ。ドーライアに乗れる女は、後にも先にもメイだけだろう」
「婚約者、・・・そのミギノの婚約の件についてですが、様々な誤解が各国で生じているようです。これは日を改めて、本人の意思確認を元に話し合いましょう」
「そうだね。それには僕もヴァルヴォアール公の意見に賛成だよ。この場にいない婚約者候補もいるしね。精霊殿ではなくメイ様本人に、その件はいい加減はっきりしてもらわないとね」
未だ黒竜と戯れる少女は、不自然に作り笑う男達の不穏な空気に気付いて振り返る。常日頃何を考えているのか分からない天上人の少女は、皇子や各国の大貴族の将軍を見て、つり目の黒目を侮蔑に眇めた。破落戸の末端の構成員、軍隊に所属した新兵、王族へ仕える者ではない無知な庶民の子供でさえ、彼等の機嫌を損ねる様に睨む存在などない。力無き者の権力者への反抗は、死へ直結する事が多いのだから。
「やっぱり、面白いよね。天上人という彼等は、皆こうなのかな?」
「面白いといえば、ファルド皇帝陛下に向かって巫女様が、娼館を勧めたと噂で聞きました」
「娼館?、・・・ああ、民草が後宮の真似事をして造った場所だね?性技を商品に対価で交換するという・・・?、だけど、この国だって皇帝殿は、自分の後宮くらいあるだろう?」
「下々の経験を、巫女様がお勧めしたのでは?あの巫女様は、トライドではとても風変わりで有名です」
笑う北方の皇子と嘗ての破落戸の頭領に、フロウは貴族の笑顔で眉を顰める。
「それは全て誤解です。ミギノは言葉が拙い故に、間違えた発音をしてしまうのです。彼女に初めて言葉を教えたのは私です。巫女の品位を傷付けた責任は、私が全て取りましょう」
「・・・ああ、なる程。そういえば、東ファルドの将軍が、小さな少女へおかしな言葉を習わせていたと、ガーランドでも我が信者の間でも噂となっていたが、まさかメイ様とヴァルヴォアール公の事?」
「・・・・・・・・」
穏やかな笑顔を湛えたまま、品の無い険呑とした会話をする三人。それには加わらず、オゥストロはドーライアとメイの微笑ましい姿を見ていたが、いつの間にか刻が経ち、次の軍会議の為の将校達が現れた。
〈隊長、これは、〉
ドーライアがメイへ寄り添う行動に、一番驚愕したエスフォロスは息を飲む。天空議場へ入室した者達も、黒髪の少女が大きな黒い飛竜と戯れる姿に驚愕し足を止めてそれを見た。
この日、この場に居合わせた騎士達により、天上の巫女メイの黒竜に立ち向かう強さと、竜に認められる心の清らかさは口伝えに広められ、後世まで言い伝えられる事になる。
ーーベロリ!
『ぁ、こいつ、舐めやがった。ちょ、髪の毛乱れるから、味見は止めて、』
******
もぐもぐ、ふんふん、もぐもぐ。
(今日のパンは、バターが多めで良い香り。ペアの実は紫色で、ブルーベリージャムの錯覚を起こす。・・・そしてなんだか昨日から、私を見る周りの目が大きく変化した)
今まで落人やら子供だと、私を馬鹿にしていた係りの人達が、私に丁寧な扱いや挨拶をしてくるのである。別にヒソヒソされたり、ツンツンした小さな無視は煩わしかったけど、逆にへらへら愛想笑いされるのも、何だか気持ち悪いのである。
『でも突然、・・・なんで?』
はっ!まさか、巨人オゥストロ様が、私を落人って馬鹿にするなと、係りの人達に・・・。
『まさかね。そんな訳はないね』
〈ねー、メイ、今日のお休みはオルディオールと一緒じゃ無くて、スアハとずーっと一緒って、本当?〉
「スアハくん、一緒ですね。アピーちゃんも一緒ですね。お買い物、お土産買いにお店に行きましょうね」
〈あのねぇあのねぇ、あのこは一緒じゃなくても良いんだって。ね?、弱い奴。行かないよね?ヴヴヴ・・・〉
「・・・何?、睨まないで。また悪口言ったでしょう?」
睨み合う子供達の仲裁に、私は彼らにペアの実を分け与える。既に朝食を終えた彼らだが、やはり甘い物は別腹のようで青い干からびたぷるりんをペロリと平らげた。
「オルディオールはお出かけします。私はスアハくんとアピーちゃん、トラーさんとお買い物と、くろちゃんをお迎えに行きます」
〈えーーー・・・、フンドシのお兄さんも一緒なの?スアハと二人きりじゃないの?〉
いつもの様にブーをタレルかっぱの事はさておき、食後の紅茶を楽しんでいると、ワンランク上の係りの人がやって来た。なぜワンランク上と分かったか?それは衣服の刺繍の多さでランクを決めているからだ。もちろんこれは、私独自の判断基準である。
「皇帝陛下が、巫女様をお呼びでございます」
ワンランク上は的中したのだが、困った問題が発生した。
「プルリ、精霊、いません。今は」
ぷるりんは朝一でお出かけしている。なので若社長への太鼓持ち上げ会談は無理である。
「いえ、陛下はメイ・ミギノ・カミナ様をお呼びでございます」
ん?、今、なんて?
今、私をご指名しなかった?




