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ぷるりんと異世界旅行  作者: wawa
双頭の王~ファルド帝国
171/221

27 探求 27


 指揮官不在、その現状に第四師団の者達は、基地内のあらゆる書庫と資料室を探し回っていた。


 「おかしい。団長ゼレイスは必ず資料の間に居るはずだ。探せ!」


 副官の号令に館内を駆け回る者達は、隅々の暗闇に上官が居ないかと目を凝らす。


 「中央棟の資料室へは、医療師団長ゼレイス・スクアードの許可を貰ってからにしろ。あそこは管理が厳しいからな」

 「はい!ですが、その医療師団長ゼレイス・スクアードも姿が見当たりません!」

 「なに?確か、本日は医療棟にて診療中のはずではないか?」


 予定表の記載には、メアー・オーラは夕刻まで医療棟となっていた。それに首を横に振る部下を見て副官が首を傾げると、本命の居場所が判明した。



 「団長ゼレイスディルオートが、巫女ミスメアリ様と、散策?、あり得ない、墓も無いのに、陽の下へ出掛けただと・・・?」 


 「いえそれが、料理長の話によるとトライドの森へ行ったそうなのですが、今日は慰霊祭コゥ・ホーンが行われる予定であります」


 「・・・なるほど、慰霊祭コゥ・ホーンか」


 上官の趣味趣向、死者に関係する祭典に出掛けたのだと納得を頷いた副官だが、次なる騒ぎは正門前に待っていた。

 


**



 グルディ・オーサ基地の正門に、ドサリと投げ置かれた凶悪な獣の死骸。それを襲撃や嫌がらせと捉えた者達は犯人探しに敵国の兵士と睨み合った。だが、医務室から現れた大きな男、不機嫌な大獅子セブンの登場に、睨み合う者達は一斉に沈黙する。


 〈メイ、さっきまで、あそこで寝てただろ〉


 怪我をした黒髪の少女へ土産を持って帰って来た。その後、共に昼寝を考えていたヴェクトの機嫌は、目的の少女がいない事により最高潮に低下する。


 楽しい食事と昼寝を覆されたヴェクトは、不機嫌に牙を剥き出して不満を吐き捨てたが、ファルド医療師団の兵士達は、恐怖に獣人を見上げるだけで言葉を発っする事が出来ない。更に怒りを募らせたヴェクトは、正門前で自分の狩ってきた土産を取り合う無人ハグを発見すると、その者達をどう痛めつけようかと考えていた。だが、そこに誤解を受けた兵士達を救う者が現れた。


 〈ヴェクト殿、巫女ミスメアリは分隊長と森へ散策に出掛けたそうですよ〉


 ガーランド竜騎士の見回りの兵士の呼びかけに、耳をピクリと動かしたヴェクトは、更に上空から耳障りな笑い声を聞いて振り仰いだ。


 〈ヴェクト、俺に速さで負けたからって、無人ハグに八つ当たり?かっこ悪。しかも獲物、俺の方が食べる肉、多いし〉


 ドサリと地上へ落とされた、丸まると太った牙突毒兎ヴェーメルはまだ生きていた。飛びかかる手負いの獣に兵士達は悲鳴を上げて飛び下がる。見上げた空には、地上を見て笑いながら飛び回る鳥族の影、それを無視してヴェクトは聞き慣れない音を捉えると、耳を傾け遠くを眺めた。


 〈なんだ?〉


 〈ああ、鎮魂歌ウールゥシャトゥだな。天教院エル・シン・オールがトライドの森で慰霊祭コゥ・ホーンを行う。巫女ミスメアリもそれを見に行ったんじゃないか?〉


 竜騎士の言葉にピクリピクリと大きな耳が動き、言葉も無くヴェクトはトライドの森へ駆け出した。その上空には、飛竜より細かく動き飛び回る、フェオが後を追って行く。基地の正門前、獰猛な獣から逃げ回る兵士達、残された血みどろの野獣の死骸を見下ろした竜騎士は、上空で溜め息を吐いた。 






***


ーーートライド王国、グルディ・オーサ中立区域、

   魂の眠る森の祭壇。



 荒野に設けられた祭壇は、簡易的な物ではあるが大きな天樹を中心に見事に飾り立てている。四方を天教院エル・シン・オールの白い聖布で覆い、辺りには北方セウスの高級な香木が焚きしめられた。


 戦場の穢れを祓うため香木で焚き、灰となるまで焼き、天へ送る。昨晩から燃やされ続けた大量の香木は既に炭や灰となり、途切れることなく天へ昇り続けていた。


 晴天の下で執り行われる鎮魂の儀式は、不自然に血を吸わされた大地を清める為のもの。そしてこの地で命を落とした兵士達の、魂を天へ帰す為の大切な儀式である。


 天へ昇る白い灰、弔いの鐘が荒野に響き渡ると、天教院エル・シン・オール神官と巫女達の祈りの歌が始まった。


 [・・・・]


 最高神官として天へ祈りを捧げるアリアは、東ファルドの神官達の聞き慣れない旋律と歌声に耳を傾けた。


 神官と巫女の美しい天への合唱旋律、だがそれは、アリアが始めて耳にする音階。その歌を聞きながら、遥か昔に北方セウスから奪われた書物の中に、祈りの楽譜があったことを思い出す。


 (エスクランザで失われた祈りの詩、昔々に東へ逃げた神官の白兎アルス・ニークルスが楽譜も持ち出して、東でこの歌を鎮魂歌ウールゥシャトゥとしたのかな?)


 初めて聞く鎮魂歌、それに違和感を持ちながらもアリアは慰霊の儀式を進める。


 [天への道は開かれる。全てのものは地へ還り、全てのものは天へ帰る。その道は、尊き香りに導かれ、空には天上への橋が架けられる。この世に在る、全ての精霊はその架け橋を・・・、?]


 鎮魂歌が終わりアリアの祈祷が続く中、古く立派な天樹を見上げると、上空の青空がぐにゃりと歪んだ様に見えた。


 天へ白い煙が立ち上る。舞い散る灰の中に立ち竦むアリアは目を凝らし、それが錯覚か確かめるために上空を見つめ続ける。遥か上空、天を見上げているのは大神官のアリアのみ。祈りの言葉が途切れた事に神官達は何事かとアリアを見上げるが、年若い最高神官は、上空を見上げたまま微動だにしなかった。


 [天上の架け橋、あれは、まさか、]


 アリアに続き、上空を見上げた者達は口を閉じることも出来ずにそれを見た。青空には異様な青く光る橋が架かり、それは空にポツリと浮かぶ黒い点へ伸びていく。両手で口を塞いだ年老いた神女は恐怖に顔を歪めて祈りの印を組み、神官は顔を蒼白に、アリアと少年騎士を振り返った。


 「最高神官様!落人オルです!!、逃げなければ!!」


 


 





******









 魂の眠る森に到着した。少し前までここは、ぷるりんの仲間達が危険物と見做され立ち入り禁止だったそうだ。まあ、あの見た目に疑問を持ち、安全性を確かめたくなる気持ちは分からなくは無い。おそらく、我が星で初めて海鼠を発見し、それを食そうと思った猛者と似て非なる思考だろう。その後、私がぷるりんを連れて福祉施設に登場した事により、ぷるりんの仲間達も害が無いものだと分かって森は解禁されたらしい。


 狭い馬車道、鬱蒼と茂る森、エルビーと出会ったこの場所は、初めて訪れた時は夜だったので、葉に覆われた黒い世界が恐怖だった。だが今は、全然怖くはない。


 (何故ならば、変質者と同伴のお散歩により、気が散って周囲の景色に集中出来ないからだ)


 暖かい新緑の瞳、美しく流れる金色の髪。彼を一言で例えるのならば、エルフ族。それが一番しっくり当て嵌まるだろう。


 (口を開かなければ。いや、開かなくても、終始猫背で俯かなければ、エルフ族)


 漫画の表現に、ガーンと顔に哀しみの縦線描写があるが、このネガ・ティブ氏にはよく似合う。更に彼の背景にも、同じ種類の縦線を壁紙に貼り付けておこう。


 そしてこのティブ氏だが、福祉施設ではペラペラと、様々な妄想や人の不幸話をちと語っていたり、私の顔を見て、同属意識にハアハア気持ち悪い吐息を吐き出していたのだが、メガネの講師が同伴してから、全くその変質者ぶりを現さない。その要因として、少し上の位置からメガネが冷え冷えと見下ろす冷たい瞳に、畏縮と警戒を同時発動し、変質者行動を自制しているのだと考えられる。


 森の中に踏み込んだ。メガネはドローンから降りて、共に散策へと加わった。ドローン?、そう、メガネのドローン・パルーラはなんと、メガネの後ろを短い足でヨチヨチと歩き回りついて来るのである。


 (客観的に見ていると、キョロキョロ辺りを見回して、羽を浮かしながら小走りしているあの姿、とても可愛い) 


 「おい、お前、隊長の指輪はどうした?」


 パルーラを観察していた私だが、隣を歩くメガネの講師に見下ろされて、包帯で巻かれた手を指摘される。


 「指輪、オゥストロさんの指輪、ここです」

 

 包帯でぐるぐる巻きにされた手は、最新式ロボットよりもぎこちない。旧式の機械的に首筋の鎖を示すと、チェーンにリングを通してある事を察してくれたメガネの講師は頷いた。メガネは見た目にも神経質そうなので、おそらく上司が私に授けた指輪を、粗末にしているかのチェックをしたのだろう。


 世の中には、貰った指輪アクセサリーは即座に換金。プレゼントは、金になるブランド物でなければ満足出来ない者も居るのだ。


 だがここは異世界。我が星の、世知辛い行為が死へ直結しないとも限らない。我が星、我が国ルールでもし仮に、貰った貴金属を即座に換金したとして、それが無礼者だと切り捨て御免されないとも限らないのだ。


 (そのくらいの危機管理能力は、備えている)


 人からの貰いものは慎重に対応しなければならない。あの置物宣言トラーさんも、私の手作りマスクを家宝レフィアだと大袈裟に振る舞ってくれたのだ。ならばこの、巨人オゥストロから貰った高そうな指輪、それは何処まで奉り上げればよいのだろうか?


 天上域、まさに、未知の空間まで祭り上げなければ、彼の部下は納得しないだろう。換金?とんでもない。換金なんて、死罪である。


 (部下チェック、セーフだった。というか、これは私では無く、ぷるりんの気配りによるネックレスなのである)


 サバゲー男の現場に飛び出す前、いや、よーいドンをする前に、数本の剣の掴み心地を確かめていたぷるりんが、指輪が邪魔だとクレームをつけたのだ。すると気の利く警備員の一人が鎖を差し出し、指輪はネックレスへと簡易アイテム・チェンジを果たした。


 実際、巨人とチャラソウから挟まれた恐怖の現場。指輪を嵌めたままならば、粉々に砕け散っていた可能性が高い。アクセサリーを身に着ける時は、スポーツなどではご使用をお控え下さいなどの注意喚起も存在する我が国だが、この異世界は全て自己判断なのだ。しかし、我が国でも、遥か昔は身を守る存在として使用されたアクセサリーが、時を経てスポーツでの使用をお控え下さいとは、時代の移り変わりをしみじみと感じるのである。


 (そして残念ながら、痴漢から嵌められた外れない腕輪は、見事に挟まる現場を耐え抜いていた。圧力、衝撃に強い素材のようである。贈り主の怨念の集結なのである)


 ぶるり。


 前を歩くのは心霊写真のメインの様なエルフ・ティブ氏。私の腕には痴漢の怨念。斜め上からメガネの氷の視線を回避して、光零れる森の中を散策する。気を抜けば、幽霊の様にも見えるティブ氏は終始無言のままなのだが、しばらく歩くとあの岩場にたどり着いた。木々の間にポカンと抜けた空間、集う大きな岩場を登れば空が見えるはず。足下にはさらさらと小川が流れていた。


 (ここ、多分、私が、いや、ぷるりんが空から着地した岩場)


 〈良い場所だ〉

 

 清々しい森の空気に呟いたメガネの講師は、流れる小川で水を飲む。お昼が過ぎていたようで、ジャムサンドの様なパンを皆で分け合いここで昼食となった。


 〈?、甘いな、・・・〉

 〈甘いな、甘いな〉、

 『確かに、見た目がしょっぱいパンなのに、何故か野菜にジャムペースト、斬新です』


 「・・・・」


 不思議な味のサンドイッチ、メガネはクールに口数が少なく完食したが、私は甘さに耐えきれず小川で飲み下した。ここの小川は既に飲料済みで、胃腸デリケート国民の、私のお腹に優しい事は知っている。安心だ。


 ティブ氏は時間をかけてサンドイッチをもぐもぐしていたが、むろん言葉を発する事はなく、心霊写真の様に大自然の空気に溶け込んでしまう。


 (メガネの神経質と、ナチュラル心霊写真の組み合わせ、共に口数は少なく、お互い目を合わせる事も無い)

 

 そんなテンションの低い二人と同行者の私は、この場を唯一盛り上げる役目キャラだと心得ている。昼食後の私は沈黙しがちな現場を盛り上げる為、ドローンと積極的に動き回った。


 初めて自分が降り立った岩場へ、汗だくで時間はかかったが登り切る。達成感とマイナスイオンの深呼吸、平な岩の上から風景を確かめて、この場をステージにプレゼンテーションの開始だ。内容としては、空から人が落ちるとどうなるか、それを次へどう活かせるかが要点となる。


 そんなプレゼンは、必要無い?ノンノン。


 通常は空から人が落ちる事を想定しないが、ネガティブ妄想家のティブ氏、そしてドローンに乗り込むメガネ氏には空から人が落ちる提案は、聞き流せない内容だろう。


 結局は岩をステージに、私が空から落ちてきた経緯を、二人に説明してあげただけである。意見や考えでは無くの実体験。ただの感想、ソラカラ、オチテ、コワカッタ、の披露となってカミナメイ・自己主張プレゼンテーションは幕を閉じた。


 「落人オルの聖地か」

 

 その私の一人舞台だが、テンションの低いこの現場では、意外とお役に立ったようだ。落下の説明に食いついた心霊写真ティブ氏は、空を見上げて落人オルについて考えている。彼は落人オルと未知なる生物に興味があるようで、妄想仲間としては情報協力に貢献できて何よりです。


 鬱蒼とした薄暗い森の中、マイナスイオンで心の清浄化が出来なければ、逆に恐怖に背筋がヒヤリとする、肌寒い自然界。ネガティブ・マイナス空気清浄化を果たした私は、次に自分の目的を果たすべく、我が国帰り道探しにぐるりと辺りを観察だ。だが、そう簡単には何も見つからない。


 しばらく周囲を見渡したが、諦め半分に岩場を降りようと思った時、遠くから何かが聞こえ始めた。


  

 「何か聞こえます。何ですか?」



 鬱蒼とした木々の中から微かに旋律が聞こえる。私と同じ方向をメガネのドローン・パルーラが注目しているので、これは空耳ではないようだ。


 「聖歌のようだな」


 「鎮魂歌ウールゥシャトゥだ。天教院エル・シン・オールが今日、慰霊祭コゥ・ホーンを行う」


 空耳かと思った旋律、口数の少ないメガネとティブ氏の会話の中に、また、我が星の空耳ことばを聞いた。


 「もう一度、お願いします、今の言葉をもう一度、」


 「そうか、これは教えていなかったな。慰霊祭コゥ・ホーンは死者を慰める鎮魂歌ウールゥシャトゥの儀式、式典を祭司が行う。東側でもガーランドでも、北方セウスでも通じる。これは天教院エル・シン・オールの言葉だからな」


 (・・・・)


 帰り道の手掛かり、それを探しに来たこの場所で、まさかその言葉を聞くとは思わなかった。


 (空耳だったけどね、でも、死者の儀式って、誰の?)


 疑問に思いそれを尋ねると、遠く森を眺めるティブ氏ではなくメガネの講師が答えてくれた。


 「今回の戦争で、この地で命を落とした者達だ。我が軍もファルドも、犠牲者は少なくない」


 『!!』


 魔人の背に乗って、流れる景色を創作の映像の様に流し見ていた。小競り合い倒れる人、ネットニュースの映像の様な暴動光景。自分には関係ないと流し見た、倒れる彼らの誰かは亡くなっていたのだ。そのお葬式の為に、アリア皇子はグルディオーサに来たという。


 自分の想像とは違う戦争。長続きせず終わった事は、ぷるりんがオゥストロさんとフロウチャラソウの間に挟まり、新聞はそれを賞賛していた。少なからず私も身体を貸すことで、ぷるりんの言っていたこの世界での私達の存在意義、何かしらの貢献を示せたのではないかと考えてしまっていた。


 (戦争って、そうだよね、必ず、犠牲者が出るものなんだよね・・・。家族は、親しい人は、突然お別れさせられるんだ)

 

 空襲により爆弾が落とされたり、世界各国が有耶無耶と手放さない、我が国が唯一被爆した、あの悲しい爆弾が使用された訳でも無い。だけど衝突してしまうと、犠牲者が出るのが戦争なのだ。


 サバゲーアウトドア、そんな事を口に出来る環境では無かった。あの場所で、家に帰ることも出来ずに、沢山亡くなっていたのだ。


 「埋葬し、身体は大地へ還る。この歌で、魂は天へ帰る事が出来る」

 

 メガネの講師の表情も、心なしか寂しそうに空を見上げた。失われた人々は、戦争が無ければ死ぬことは無かったのだ。天へ帰る彼らを悼み、そして安らかに眠れる事を祈り、歌は流れる。その歌が静かに響き渡る中、私はメガネの講師の言葉の空耳を思い起こして、余計に切なくなった。


 ーー家に帰れず、天へ帰る人々。


 (鎮魂歌ウールゥシャトゥ慰霊祭コゥ・ホーン



 ーーふるさと、ゴー・ホームって、聞こえたよ。



 森の中から微かに響き渡る歌声は、思い込みから聞き覚えのある旋律に聞こえる。鎮魂歌ウールゥシャトゥを聞きながら大きな岩の上、戦争の犠牲者と故郷への感傷に浸り空を見上げた私だが、気のせいか、空がじわりと滲んだ気がした。涙で滲んだ目を擦り、再び空を凝視する。


 『・・・なんだ、あれ、』


 涙で滲んだと思った青い空、雲一つ無い青の中に、一つの点が見えるのだ。


 『メガネ、ティブさん、あれ、えーと』、

 「先生、団長ゼレイス、あれは見て下さい!」


 岩の上から騒ぐ私に、メガネと変質者だけでなく、賢いドローンも包帯の先に目を向ける。そして同じ岩場に一足で飛び乗って来た彼らは、目を凝らした空に私の指摘したものを直ぐに発見してくれた。



 『あれ、人に見えない?、絶対、人に見える!』





 〈なんだ、あんな上空から?人に見えるぞ、飛竜も何も居ないのに?〉

 「空から人?、まさか、あれが落人オル?」


 ウェルフェリアの呟きにメイがくるりと振り返る。その刻、周囲の森からザワリと空気が蠢いた。


 〈なんだ!?〉


 センディオラと相棒のパウーラは身構え、周囲を警戒して剣を構える。同様に辺りを見回したウェルフェリアは、昼間でも闇のように見える茂みの中から、蠢く青い塊を捉えた。



 『ぷるりんだ!』



 少女の叫びと共に、無数に集う青の物体は重なり合う様に上空へ飛び立つ。古く大きな樹の上空、力無く落下する人影に群がる様に飛び立つ青の物体は、足場の無い空に異様な橋を作り出した。


 橋の先端にぶつかる様に見えた人影は、突かれ飛ばされる様に弾かれて森へ落下する。それを見て走り出した少女は岩場を飛び降りるが、肩からの激痛に身を丸くして縮こまった。


 〈何をしてる!?〉


 抱え上げたセンディオラに首を振るメイは、空から落ちてきたものを追うように、なお痛みを堪えて進みだす。


 〈動き回るな、メイ!〉

 『むりむり、あれ、絶対、私と同じ人、行かなきゃ、会わなきゃ、』

 〈駄目だ、動くな!〉


 「貴公、飛竜で運んでやれ!落人オルの元へ、巫女シストは行きたがっているのだ」


 ウェルフェリアの強い声に眉をひそめたが、見たことの無い少女の真剣な表情と、敵国の上官である男に渋々と頷いたセンディオラはパウーラにメイを乗せて岩場から飛び立った。





**





 「最高神官様!お逃げ下さい!!」


 祭壇を覆う白い聖布、それを引き裂く勢いで神官や巫女達は走り逃げる。供物も引き倒され、複数の果物が転がる騒然とした中、青い橋に押される様に森へ落ちた人影を、アリアは呆然と見つめていた。


 [見たか、テハ]

 [はい、あれは、経典カオンにある、天上人エ・ローハの降臨です!] 


 逃げ惑う者達は我先に箱車へ乗り込み、ファルドの大神官達はアリアへ逃げる様に促す。


 [天が歪み、そこから降臨された]

 [青く架かる橋、あれは何だったのでしょう?]


 散々の声掛けにも逃げずに留まる最高神官に、しびれを切らした者達はその場から逃げようと馬犬ドーラに箱車を引かせ走らせる。それに逆らう様に上空から、一騎の竜騎士が祭壇に舞い降りた。


 [神官殿、テハ、何事だ!?]

 [センディオラ殿!、え?、巫女様!!]


 突然現れた竜騎士と黒髪の巫女の姿に驚いたテハだが、その言葉に上空を見つめていたアリアも我に返った。



 「落人オル、ここで見ましたか!?」



 未だ拙い東言葉の巫女を見下ろしたアリアは、敬意と共に素直に頷き上空から少し離れた先の森を指さす。その先を見たメイは、遅いながらも全速力で森へ駆けだした。だが白い幕を潜る前に、素早く竜騎士の腕に捕らえられる。


 『メガネさん、すいません、今は急いでいるので、離して下さい!』


 もがく少女は肩の痛みに眉をしかめるが、目線はアリアの指し示した森へ向かう。


 「止めろ、あの高さで人が落ちれば、飛竜無しには助からない」

 『分かってる分かってる。あれは落人オルだって、危ないって分かってる。でも、行かなきゃ、私、行かなきゃ!』


 珍しく頑強に駄々をこねるメイに、センディオラは強く叱るが効果は無い。いつもは全てを冷やかしに、他者を蔑むアリアも再び呆然と空を眺めていた。


 じたばたと動き回るメイを、センディオラは掴み上げて無理やり飛竜の背に乗せようと鞍に手を掛けた。だが一頭の馬犬ドーラが祭壇前に乗り込んで、続いて音も立てずに大きな大獅子セブン鷹豹トーライドが乱入し、ヴェクトは未だ燻されている香木を蹴散らし幕の外へ放り投げる。


 [ディルオート殿!?、ヴェクト殿?、フェオ殿!!?]


 次々に現れる慰霊祭には無関係な者達。それに驚いた少年騎士は目を白黒に、とりあえず不審なディルオートとアリアの間に立ちはだかった。


 〈おいコラ、何、メイにベタベタしてんだよ〉


 大獅子セブンの唸り声の恫喝だが、眼鏡を押し上げたセンディオラは無視をする。怒りと共に走り寄り、小さな少女を取り合う竜騎士と獣人ゴウドを余所に、ディルオートは荒らされた祭壇を無言でぼんやりと眺めていた。その異様な光景を恐れるのは少年テハ、乱れた祭壇を興味津々と探るのはフェオである。アリアは未だ、何も無い空を眺めたままでいた。


 『離して離して!あの人、あの人に会いに行ってみるだけだから!』


 メイは身を捩り、掴まれる肩の痛みに堪えて大声で叫んだ。少女の悲鳴の様な声に手を離した二人の男だが、小さな体がドサリと地面に投げ出されると轟音と共に大地が揺れた。

 


 ーードォオン!!!!ズズゥン・・・・。



 〈何だ!?〉

 〈爆発音だ、〉


 西の空、鳥達が一斉に空に舞い踊ったかに見える。それは徐々に空を覆い尽くす様に増えていく。


 〈そんな・・・、〉


 愕然と呟くセンディオラを見上げたメイは、鳥かと思った黒い群れが、この位置では大きすぎる事に気が付いた。


 『あれ、ドローン?』


 悲鳴と咆哮と共に空に舞い上がる者達。西の空を覆うものは、逃げ惑う小さな鳥達と大きな飛竜。 


 [また国境線が?急襲されたのですか?]

 [トラヴィス山が攻撃されたのか!?]


 テハの問い掛けに呆けていたアリアも西の空の異常事態に目を見開き、和平条約を結んだばかりの戦場跡地でファルド帝国騎士とガーランド竜騎士の双方を見回した。


 「このグルディ・オーサの指揮官は私だ。攻撃するのならば、ここにはいない」

 [・・・そうだよね、いくらファルドも、この刻に攻撃なんて、そんな分かりやすい馬鹿な真似はしないよね。お互いに利益が無いもの、]

 〈では!何だ、あれは!!〉


 珍しく取り乱したセンディオラは、ウェルフェリアとアリアの言葉も取り合わず、同じく西の山脈を見つめたままの飛竜パウーラを振り返る。直ぐに西へ飛び立とうとするセンディオラを、何故かパウーラは騎乗を拒否して後ろに下がった。


 〈パウーラ、どうした?、早く、砦へ向かわないと〉


 飛竜パウーラは、ただ焦る相棒のセンディオラを見つめている。近寄るたびに一歩飛び下がるパウーラに、それを遊びだと捉えたセンディオラは焦れて巫山戯るなと声を荒げるが、それを止めたのは意外にもヴェクトだった。


 〈原因を、犯人を追求しろ。飛竜へ何故こうなったか説明しろ〉


 〈そうだね。これはこの前の、無人ハグのじゃれ合いには終わらないよ。無人ハグの長の審議会で調査して、何故あの山を攻撃したのか飛竜へ報告しないとね。ね、パウーラさん〉


 〈グググ、グググ〉


 人へ距離を置き、低い唸り声は飛竜の怒りの言葉。それを聞いたセンディオラは焦る気持ちを抑えて、戸惑いながらパウーラを宥めた。

 

 〈そんな呑気な事、言ってる場合なの?、それよりも、メイ様の言うとおり、天上人エ・ローハを探さないと〉


 優先順位はこちらが先だと、獣人へも分かるように釘を刺したアリアへ光の無い黒の瞳でフェオは振り返る。


 〈絶対的にこちらが先だよ。あの山を、何故攻撃したのか、飛竜を納得させてよ〉


 飄々とした態度でも、人を小馬鹿にする仕草も何も無い。アリアとフェオは真剣な表情で互いの主張を譲らない。そのアリアの横には小さなメイも回り込み、睨み合う男達に加わってフェオを見上げていた。


 「落人オルは神官殿にお任せする。私はトラヴィス山脈へ向かう」


 この場には存在しなかった凛とした声が響き、その声の主は意外にも幽鬼の様な風体をしている。不釣り合いなはっきりとした言葉に違和感を持って見たテハだが、彼から差し出された手をメイは断ってアリアの後ろへと下がった。


 「・・・ならば巫女シストを頼むぞ、神官騎士殿。落人オルは、人を殺すことに理由は無い。遠目から確認だけだ、近寄らせるな」


 馬犬ドーラに跨がり、颯爽と駆け出したウェルフェリアの後を、何故かヴェクトとフェオが追うように走り出す。 


 〈パウーラ、頼む!、乗せてくれ!〉


 相棒の飛竜に頼み込む竜騎士を横目に通り過ぎたウェルフェリアは、未だ続く地響きに嫌な予感を感じていた。


 (これはおそらく、トラヴィス山脈への大量魔石〔黒〕による攻撃。犯人など、分かりきった事だが、これを命じた者が誰なのか、もし陛下ならば、私へ報せない訳は無い。ならば、やはり) 



 ーーーー大聖堂院カ・ラビ・オール




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