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ぷるりんと異世界旅行  作者: wawa
双頭の王~ファルド帝国
169/221

戦場に舞い落ちたもの 25


 〈やだやだ!スアハも!スアハも行く!〉


 〈無理。お前、スゲー重たいし。さっきまた、スゲー水飲んでたの、見てたから。そして二人無理。しかも俺、次は絶対にヴェクトに勝つから〉

 〈お水、メイに分けてあげたから、少し軽くなってるの!〉

 〈無、理。〉


 腰にしがみついた銀色の髪の少年を振り落としたフェオは、スアハを本気で遠ざけ、尚も掴み掛かる少年から逃げるためアラフィアを背負ったまま上空へ一気に舞い上がる。


 〈フェオ、意地悪ーーー!空長フォートに、言い付けてやるーー・・・〉

 〈いいよー!でも変異したお前、もう、子供じゃねーからなー!、空長フォート海長エレートも、庇ってくれないからなー!〉


 〈うぎゃーーーーっ!!!!〉


 遠ざかる地上から甲高い癇癪の悲鳴を上げたスアハを、ブーブーと馬鹿にして笑う鳥男は、普通の無人ハグよりも怪我で体温の高い背中のアラフィアに笑いかけた。


 〈『姉さん』、大丈夫なの?俺、落っこちても、拾いに戻らないよ〉


 〈問題ない。行ってくれ〉


 切れ長の黒の瞳を細めて笑う鷹豹トーライドは、地上でスアハに絡まれるヴェクトを見下ろす。黒髪の小さな少女の持ち具合を確かめていた大獅子セブンは、背中に飛び付いた少女に落ち着くと上空を見上げる。そして鷹豹トーライドの黒の瞳とぶつかると、一直線の軍道をグルディ・オーサへ向けて駆けだした。


 〈待ってー・・・やだやだー・・・メイ-・・〉






***


ーーートライド王国、グルディ・オーサ戦闘区域。



 

 刃鳴りの音と共に、金属の激しくぶつかり合う音が響く。連撃に切り結ぶ銀色の剣と黒く鋭い大きな槍は、一撃一撃が重たく衝撃となり両騎士の肩に負担を掛けるが、お互い一歩も譲らずに致命傷は未だ無い。


 〈あれがファルドのヴァルヴォアールか、隊長とやり合えるとは、東の総大将というのは本当のようだ〉

 

 停戦を掲げ大将戦を遮った者が何故か入れ替わり、戦いは終わることなく続いている。それを上空から見下ろすガーランド竜騎士センディオラは、ファルド帝国騎士団長の姿を嫌悪に見下ろした。


 〈奴の言ったミギノって、うちの巫女ミスメアリ様の事ですよね?〉

 〈朝練の巫女様あのこの事ですよね?〉


 竜騎士達は、鍛え抜かれた体を常日頃の事務作業から解放され伸び伸びと身体を動かし空に浮かんでいる。その中の数人は、自国の巫女を穢す噂を流した敵国の騎士へ、それぞれが嫌悪と興味を持って見下ろしていた。


 ガーランド人から見れば、敵国大将は金髪碧眼の線の細い優男。多少鍛えられた体格はしているが、飛竜の羽ばたき一つで飛ばされる風体をしている。だがその優男が、黒竜騎士オゥストロの激しい連続攻撃に耐え更に反撃を繰り出すごとに、腕を組み上空から見下ろす竜騎士達の冷やかしは減っていった。


 (目が良い、)


 力だけに頼らない攻撃、急所を的確に狙い、自分の力だけでなく、オゥストロの攻撃の反動を利用して斬り返す。柔軟性のあるフロウの受け流しを見て、ある対戦相手を思い出した。


 精霊憑きのメイの剣捌き、それにファルド騎士のヴァルヴォアールの剣の受け流しは、よく似ている。


 (気に入らない)


 オルディオールは元々ファルド帝国騎士を名乗っている。同じ国の騎士団長の立場の者ならば、ファルド式として剣の型に癖が出ることは理解出来る。だが、オゥストロはその何もかもが気に入らなかった。


 「ベルハール赤蛇デウスローダをご存知ですか?」


 〈!?〉

 

 オゥストロの繰り出す槍を躱し続けるフロウは、飄々と涼しい顔で微笑む。


 「大昔、我がファルド帝国に血の雨を振らし、国土を炎で焼いた凶悪な空賊です。その凶事により、ファルドは結束した」 


 ーーギィン!!!


 〈・・・・〉


 「赤い空賊は単騎でこの東の大地を飛び回り、泣き叫ぶ者達を嘲笑い、人々に死と絶望をもたらした。その怒りと悲しみを二度と繰り返さない為に、初代ファルド皇帝は小国諸国を統一し、赤蛇デウスローダが再びこの地を訪れれば団結し、それを撃退しようと東大陸強化を目指した」


 血空ベルハール赤蛇デウスローダー、ガーランド竜騎士英雄を空賊と言った。明らかなフロウからの挑発だが、オゥストロはもちろんそれには反応しない。


 「更に血空ベルハール赤蛇デウスローダは、聖なる巫女を攫って逃げたと言い伝えられています。黒竜騎士オゥストロ、いや、黒蛇オウローダのオゥストロ、貴男も凶賊としてその轍を踏みますか?」


 ガーランドでは英雄である赤竜騎士ロブ・グランダーの過去、その子孫をフロウが知るはずも無い。ファルド国民にとっては、ガーランド人の全てが空賊なのだから、この挑発は当たり前のものなのだ。オゥストロの遠い先祖を知った上での、個人的挑発では無い。そして知られたとしても、それは大して問題にはならないはずだった。オゥストロの先祖への蟠りは、既にメイによって解消されているのだから。だが、目の前の金髪碧眼男の、飄々とした口調に徐々に苛立ちは募っていく。


 〈・・・よく、喋る口だ。お前が我が婚約者、天上エ・ローハ巫女ミスメアリメイを捕らえていることは知っている〉


 「理解が早くて助かります。そのメイカミナのことです。遥か昔とは違う。ミギノ・メイカミナの巫女シストは、ガーランド空賊、黒蛇オウローダには渡しません」


 お互いの苛立ちをじわじわと高め合い、張り詰めた緊張がふつりと途切れた瞬間、再び衝突した両将は交わした黒の槍の穂先に血の滴りを数滴撒き落とす。剣先を掠め合いオゥストロの背後に着地した黒い馬犬ドーラは素早く黒竜に体勢を向き直すが、フロウの真白い隊服の右脇腹には赤い血がじわじわと広がり始めた。


 「統括騎士団長を守護せよ!」


 ーーーーー突撃!!


 フロウの負傷の目視と共に、ウェルフェリアの声が響き渡る。それを合図にファルド帝国軍は中央戦場へ突撃し、上空に円を描くガーランド竜騎士隊は、待機に組んでいた腕をほどき手に持つ槍を振り翳すと、地上へ降下を開始した。


 一気に動き始めた戦乱の空気。素早くオゥストロへ構えたフロウの銀色の剣先にも、一筋の赤い血が流れている。向き合うオゥストロは黒い槍から血を薙ぎ払い、それをフロウへひたりと突き付けた。


 〈天上の道への帰還だ!〉

 「天を裂き、口を開く!」


 ーー死者を迎え入れろ!!ーー


 両軍の激突、再びファルド帝国騎士団長と、ガーランド黒竜騎士隊長が止めの一撃に速度を上げて刃を振り翳す。黒竜の滑空と馬犬ドーラの疾走、ぶつかり合うその刻、渾身の一撃に鋭い黒槍は突き穿ち、銀色の剣は疾風と斬り裂いた。


 ーーギャリンッ!!!


 横合いから豪速で何かがぶつかり、オゥストロの黒い槍とフロウの銀色の剣は弾き飛ばされる。


 両軍の合間を不自然に駈け抜けた二組の異種族に、衝突を乱された兵士達、戦場は躊躇い蹈鞴を踏み、風のように過ぎ去った者達を目で追った。その先にはお互いの大将が、手にした武器を鋭い金属音と共に弾き飛ばされ、二つの武器は荒れ地にグサリと突き刺さる。


 「あれは、」

 〈何だ、?〉


 戦場にあり得ない光景に戦意を掻き乱されて、躊躇い軌道を逸らした兵士達は、両将の渾身の一撃の合間に滑り落ちた白い花を驚愕に見つめた。




 

 


 猛然と駆け走るファルド帝国の馬犬ドーラ騎隊、その合間を駆け巡り、それより早く先頭に現れた大きな獣人。更にその背には、真白い衣装の頼りない小さな少女が乗っている。


 「団長ゼレイス!あれは、」


 自軍の合間から現れた不審者に、ウェルフェリアを先陣に丘陵を駆け下りた部隊は驚愕しそれを見送る。先陣を駆け抜ける馬犬ドーラ隊よりも早く先頭に躍り出た獣人の、背を追い掛ける事しか出来ないのだ。


 不審な獣人が目指す先には、未だファルド帝国統括騎士団長のフロウが敵将と対峙している。自軍より現れた不審者を、敵か味方かを迷うが、眼前の空には黒く群れを成して舞い降りる飛竜部隊が迫っていた。


 「あの少女、背に剣を背負っているぞ!」


 鞘を振り投げ剣を構えた少女に、ウェルフェリアの隣を駆ける副官が叫んだ。


 「何をするつもりか、だが、死ぬぞ」


 先陣の第四師団、そして左方向からはオゥストロに一撃されたメルビウスを欠いた一団が、共に空から襲いかかる飛竜隊と、今まさに衝突寸前なのだ。


 だが大将戦の真下に向かい舞い降りる飛竜の一団に、先駆けて飛び出た少女の背中へ、誰しもが追いつけずにそれを必死で追い掛ける。





 〈分隊長!敵部隊、先頭に、大獅子セブンです!〉



 部下の声に目を凝らしたセンディオラは、更に真横から慣れた叫び声を遠く耳にした。


 ーー〈停戦だ!!進軍を止めろ!!〉


 女にしては低く太い声、それは滑空する竜騎隊の真横を遮り横切る禁断の行為に通り抜ける。大きな飛竜よりは小さい、だが素早く空の進行を妨げた黒の翼の背には、黒髪のアラフィアがしがみついていた。


 〈アラフィア!!〉


 〈センディオラ殿!!停戦です!!!、地上に!あれは、メイです!!、精霊殿が!!〉

 〈メイ!?、巫女ミスメアリが?〉


 地上から竜騎隊の先頭に、ぶつかる様に走り来る大獅子セブンの背には、目を凝らすと小さな少女が乗っている。アラフィアの号令と共に、飛竜は速度を急激に落とし上空に浮かび上がり、それを確認した地上を走る騎士団も異常事態に駆ける速度がバラバラと緩まり始めた。


 それぞれが目にするものは、先頭を不審に駈け抜けた獣人と少女。ぐんぐんとファルド騎士団から離れる小さな白い少女は、今まさに、お互い渾身の一撃を放った両将軍の狭間に、獣人の背から勢いよく振り飛ばされた。


 〈止めろ!!〉

 「何だと!?」


 容赦なく振り下ろされる、黒竜騎士と第一師団長の一撃。狙ったようにその瞬間に、剣先へ獣人の背から少女は振り落とされる。それを目の前で見たセンディオラとウェルフェリアは叫んだが、誰しもが想像した真白い花は赤く染まる事はなく、激しい金属音と共に少女は宙に弾き飛ばされ地に落ちたかに見えた。


 「・・・そんな、馬鹿な、」


 オゥストロから攻撃を受け、身を引きずるようにその場に立ち竦んでいたメルビウスは、瞬間の一部始終の目撃に瞠目する。剣士の真似事の様に長い剣を背に構えた少女は、獣人に弾き飛ばされたのではなく、確実に自らその場へ飛び込んだのだ。


 振り下ろされるオゥストロの剛槍、それに対するフロウの瞬撃、速度も力も違う二振りの騎士の一撃の合間に滑り込んだ黒髪の少女は、それぞれの斬撃を二刀の刃で受け、斬り流し軌道を変え、身を捩るとそれを弾き飛ばしたのだ。


 「あり得ない、」


 ふわりと地上へ降り立つのは、戦場には不似合いな白い花の姿。そして宙に舞い上がり空を斬る刃音と共に回転して荒れ地に突き刺さったものは、黒の大槍と銀色の長剣。


 少女を愕然と見たのは、それを目した先陣の騎士達だけではない。誰よりも驚愕し、誰よりも怒りにそれを見下ろしたのは、敵を殺そうと刃を振り下ろした二人の男だった。


 「ミギノ、」


 〈何故、お前がここにいる、〉



 絞り出された低い声、それに首を傾げた少女は足下に目を落とした。



 「間に合ったな、」







 「走れ!このまま真っ直ぐに!!」

 

 ビリビリと邪魔な白い婚礼衣装を、膝まで引き裂き流れる景色に投げ捨てる。裸足で大きな獣人の背に膝立ち、背に括り付けていた二本の長剣の鞘を薙ぎ払った黒髪の少女は、それを後ろ手に構えた。


 駆け抜ける荒れ地の戦場、すり抜けた騎士団の合間、目視できた二人の大将、その下、黒竜と馬犬ドーラが、一斉に音も無く走り寄る不審者へ首を向けた。


 〈おい、偽物精霊オルディオール、黒竜と殺るのか?〉

 「殺らない、騎士二人を、止めるんだ。殺るより、難しい。お前はあの岩場から、俺を奴らへ向かって振り落とせ。絶対に、共にあの場へ飛び込むな、」

 〈オルディオール、メイを殺したら、俺は無人ハグを、許さないぞ〉

 「殺さない。だからこそ、お前は俺の邪魔をするな。馬犬ドーラと黒竜がお前の事を見てる。お前が飛び出て馬犬ドーラと黒竜を刺激すれば、機会がずれる、乗り手の体勢が崩れて、失敗する、」

 〈・・・・、〉

 「どちらかを殺す、引き裂く事は簡単だが、あの二人を生かさなければ、この戦いは激化する。それでは、意味が無い」


 足音無く走り抜けた戦場、気の聡い騎士でも、不審な獣人が隣に並ぶまで気付かない。黒竜と馬犬ドーラは戦場の空気に滾るが、走り抜けて近寄る大獅子セブンへ気付き意識を向けた。それを確認したオルディオールは、明らかに敵意を放出して近寄る雄の大獅子セブンから騎乗の騎士を守ろうと、黒竜と馬犬ドーラに身を捩られては均衡が崩れるとヴェクトへ釘を刺したのだ。


 「ヴェクト、あんたがあの場へ参戦すれば、上の二人のどちらかは、確実に死ぬ事になる」

 〈・・・奴らには興味が無え。メイは弱い。無理だ〉

 「メイは俺が、必ず守る。頼む、俺とメイの、この世に存在した意味は、奴らを救う事によって大きく変わる」



 (・・・・)






 「間に合ったな、」



 少女の清んだ声が砂塵舞う戦場に流れる。そして踏み拉かれて、ボロボロになった和平ポロスの旗が足元に落ちているのを発見し、それを屈んで拾い上げた。


 「ん?」


 ファルド帝国の白い長剣を握りしめたままの、小さな白い手が旗を拾い上げる。そこからぬるりとした感触につり気味の黒目を見開いた。


 「・・・やばい、」


 薄汚れた黄色の旗を剣の柄と共に手にしたが、そこからじわりと赤く血が滲み始めたのが見えた。それを真横にやって来て無言で見下ろしていたヴェクトは、舌舐めずりに少女の手を掴もうとしたが、慌てて小さな腕は大きな獣人の手を振りほどき一歩大きく飛び下がる。


 「やめろ」

 〈・・・・〉


 死闘の狭間に飛び出てきた少女に、二人の男はそれぞれの驚愕と怒りを飲み下す。オゥストロは更に低い声で黒髪の少女に取り憑く精霊の名を呼ぶと、フロウは我に返った様に少女の中身を見た。


 〈オルディオール殿、何故、ここに来た。メイを護ると誓約グランデルーサしたのではなかったのか?〉


 「それは今でも有効だ。この身は生きて、ここに居る。破棄アスタラ・ビスタされていないな」



 〈・・・・・・・・・・・・〉



 静かな怒りに気付いたオルディオールは、死闘の横やりは無粋だったと考えて謝罪しようかとも思ったが、手にしたボロボロの黄色の旗を見て考え直した。


 「おい、ヴァルヴォアール。お前、この旗を掲げてここに乗り込んだはずなのに、何故、率先して戦ってんだ?」


 突然の呼び捨てにフロウは驚き少女の顔を見つめたが、噂話だけの英雄を思い出し微笑み頷き答を流す。騎士団長の背後には、共に停戦ポロスの旗を掲げて走り抜けた者達が。更にその後ろには無数の騎士に取り囲まれる異様な空気の中、発端となる場所へ兵士は集い始めていた。


 〈オゥストロ隊長!〉


 フェオの背から飛び降りたアラフィアが駆け寄り、フロウの掲げた停戦ポロスの意味を示す書状を差し出した。ファルド帝国皇帝の書状に黒い瞳を眇めると、オゥストロは黒竜から降りて弾き飛ばされた自分の槍を引き抜く。そしてそれを再びフロウへ向ける事はなく手に収めた。


 〈ファルド帝国皇帝からの和平交渉案、確かに受け取った〉


 馬犬ドーラから降り立ったフロウも地に突き刺さる銀色の剣を鞘に収めると、まるで死闘など無かった様にオゥストロへ微笑んだ。


 〈だが、トライド王国は我らが友軍。この地を今、明け渡す事は出来ない〉


 トライドの名に眉をひそめたフロウだが、脇腹を裂かれたとは思えない程に優雅に微笑み返す。


 「この地のことは、この後、皇帝陛下より正式な取り決めがなされるでしょう。停戦ポロスの旗、和平の使者、天上エ・ローハ巫女ミスメアリの横やりは、天の意志。ただ我らは皇帝陛下に従うまでの事です」


 それを自ら踏み拉いたとは思えないほど、飄々と微笑むファルド騎士団の将軍フロウは、それよりも、と冷たい碧い瞳を眇めて小さな少女を見下ろした。


 「英雄オルディオール殿、我がファミアの身体を、危険に曝すことは止めて頂きたい」 


 「ファミア?」


 〈・・・書状は我が国へ持ち帰る。来い〉


 フロウの会話を完全に無視したオゥストロは、小さな少女のファルド国での役割は終了したと手を差し伸べる。それをきょとんと見上げた黒髪の少女は、丈の短い衣装を睨み付けたオゥストロに気が付いた。


 「いや、それがまだ、色々と、やることはあるんだ、とりあえず、書状は竜王へ宜しく頼む」


 〈婚約者として、許可出来ない〉


 珍しく寛容では無いオゥストロを、不穏に見上げた黒髪の少女は首を傾げてアラフィアを見た。だが、アラフィアは少女の顔では無く、破られた旗と剣を握る小さな手を凝視している。


 (まずい、)


 〈おい、メイ、いや、精霊殿、手を出せ〉


 アラフィアは不自然に後方へ隠された手を掴み、素早く旗と剣を取り上げた。そして開かれた両手に、か弱い悲鳴を上げたのはメイだ。


 『め、め、メアーさん!メアーさんプリーズ!レスキュー、救急!緊急応急処置!メアーさん!メアーさん!!』


 取り乱し漏れてしまったメイを、オルディオールはゴホンと吹き飛ばす。医療師団長の名を連呼した不審な少女の手の平を、オゥストロとフロウも素早く近寄り見下ろした。


 (ズルムケテル、手のひら、皮が、ズルリと血だらけ、何故!?)


 見ただけで痛みは伝わるが、今はオルディオールが身体を支配しているので、それはぼんやりとしか感じない。


 「生きてるから、アリだよな?」


 背後ではメイの血の匂いに、ヴェクトがまたペロリと舌舐めずりをし、にっこり笑う黒髪の少女の問い掛けにこくりと一つ頷いた。オゥストロとフロウは相手が少女を傷付けたと、再び対峙し睨み合う。


 「お前達、二人の所為だぞ」


 疑問に少女を見返す二人の騎士の前に、小さな血だらけの両手は掲げあげられた。


 「いや、俺の所為なんだが、お前達の所為でもあるということだ。ちなみに、おそらく肩も具合が悪い」


 (!!?)


 「少し筋力はついたから、いけると思ったが、皮膚の薄さは計算外だった。豆が出来た事も無い様な、こんなガキの手の平で、お前達の剣なんか受けられないんだな!」


 肩もみしりと音を立てたぞ、あはは。と笑う少女に、彼女を婚約者だと妻だと名乗る二人の男は沈黙し、中身のメイは青ざめ震えた。


 



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