27・大天使の事情
「……まさか、お前と入ることになるとはなぁ、俺も全く理解出来ない」
「まぁ、珍しく意見があったものね」
「リュウは?」
「幻惑で惑わしてるわ」
「なら…まず聞きたいことは山ほどある」
温泉二つ目。柵で仕切られただけだが。
──ここで、キュバーと話せるとは思わなかったが。
「なんで実体化出来んの?」
「そりゃあ、私だって天使、しかも大天使よ。それぐらい、察しなさいよ」
「あー……なるほど。次。お前がなんで俺に契約を持ちかけた?」
「……それは…その」
何故、絵本でしか見た事の無い大天使がこんな脇役道中絶賛進行中の俺に契約を結ばせたのか。コイツには更々興味はない。
「───そ、それなんだけれど」
「ん?」
「天界から下界を見ててさ、私の目に留まった人に契約を持ちかけて、それの繰り返し」
「だから、その目標を達成する為の行為じゃなくて理由だよ」
「……人探し、してるの」
「は?誰だ?」
「──あの、ホーリーって奴は知らない?」
「……さあ。俺はそういう人脈ないよ」
「……そう。まあ、いいわ。しばらくはあんたの契約天使よ」
「命令とかオッケーな方?」
「言っとくけど、私Sよ?」
「…やっぱいいや」
「ま、世話ぐらいは焼いてあげるわ。後、補足」
「ん?」
「そいつを探してる……理由」
「はいはい、何?」
「私の、真の名前───ホーリー・サナリオン。それを奪って、そいつの本名と交換されたの」
「……最低だな」
「あ、いいわ。そういう慰めとか要らないの」
そう言って大天使は下を向く。その姿が、昔の。
──亜矢に似ていて、何となく寂しくなった。
人は、何時か変わってしまう物なのだ。
「───い」
「痛てぇ!なんだよ!」
「え、だってさっきからボーッとしてたんだもの」
「別にのぼせてねえよ」
「……そう。ま、そろそろ上がるわ。部屋で待ってるから」
「…テレパシーできるし、第一他の人から見えるのも見えないのも設定できるんだろ?」
「…少しくらい、いいじゃないの。人間界って楽しいもの」
「そ。早く行ってろよ、飲物位有るだろうし」
……その瞬間、周りを覆っていた霧が晴れ、リュウが隣にいるのを確認できた。
「…さて。大分浸かったな、そろそろ上がろう。もう夕飯だぞ」
「……ああ。そうだな」
──せめて、もう少しこの平和が続きますように。…そう、祈っておいた。
───一番乗りは、レオだ。
「はぁ…酷い目にあっ……わああああっ!」
「ひゃうっ!?…な、なによ、入るならノックくらいしなさいよ」
「それはこっちのセリフ…ってお前誰だよ」
「あぁ、私?私は、『キュバー』、とでも言っておくわ」
「へぇ…天使なのに」
「サキュバス見たいな名前で悪かったわね!」
───その後、キュバーにめっちゃ頬つねられました。はい。痛かった。




