21・狂笑の感染
「はぁ……はぁ……」
どの位走ったかは分からない。分かるのは、片手にある暖かい手だけだ。
「レオ...?まだ...?」
亜矢が心配そうに呟く。村の明かりは近すぎて、逆に遠く感じるほどまで近くに来ている。
柵の一端に作られた門をくぐり抜け、中に入る。
「もう、レオ!遅かったじゃない!」
「レオのお母さん!ゾンビが……ゾンビが!」
村まで後50m程のところに、奴らが迫っている。
「なに……あれ?」
「女と子供は逃がせ!男は戦え!」
それから1分半ほどで奴らが着いて、戦闘になった。
しかし、レオのお父さんは──
「オラァ!まだか!……ゾンビ共!こっちだ!」
「ぐるルルルァ!」
『ゾンビ』。
死体に何らかの刺激が加わり、蘇った物だ。腐った謎のウイルスで、感染を引き起こすとされている。
「……って書いてあるよ」
「お父さん...」
レオと亜矢。
竜車に乗り避難する女子供達のグループ。
彼女らは心配そうだ。
────奴が来たのは、その時だった。
「……へぇ、僕の『感染』を逃れるのか、とっとと支配下になれば気も楽だしいいと思うよ?」
「「「!?」」」
竜車グループの前に、1人の青年が立っている。
……こいつが、主犯だ。レオはそう確信
した。
レオは前に出る。
「……お前は、誰だ」
「おっと、僕が名乗ってなかったね、ごめんね」
彼はそう言って、一呼吸置いたあと。
「僕は魔界侵略軍所属、洗礼名『感染』、ネクロ・ディーラ」
「……魔界?」
「……君の素晴らしい力を感じる」
「何だよ」
「さぁ、さぁさぁさぁさぁ、サァ!こいつら全員血祭りにあげて、君を僕の配下にしよう!そうするとするか!」
「……てめぇ!ふざけるのもいい加減にしろ!」
レオはキレた。
「…はぁ、こういう場合は主従関係を分からせるしかないのかぁ」
「さっきから何を...!」
レオは護身用の片手剣を引き抜いた。
「ヘル・サテライトぉ!」
「がはっ...てめぇ、魔法まで……」
「グルるるるるるるっ!」
「おっと……どうやら感染は完了したらしい」
「……は、は?何を...?」
「だからァ、さっきのちっこい村潰したんだよ」
「……てめぇええええぇッっ!」
レオは体術で飛び上がり、そのままディーラに切りかかる。
「……そんな剣じゃ……無理無理」
「ぐはぁっ!」
片手で薙ぎ払われた。
こんな奴に。その事で更にレオは憤慨し、当てもなく体当たりを仕掛ける。
────訳では無い。
「……ぐ、ぁ」
「はぁ...はぁ」
ポケットに入れておいた探検用ナイフを使い、ディーラの右胸にそれを刺したのだ。
「まさか...またかよぉ」
ディーラが倒れる。
「……亜矢、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「……だーかーらぁ、そんなんで倒したと思われたら困るんですけど」
「!?」
背後の声に咄嗟の反応が出来ず、思い切り吹き飛ばされた。
「こいつ……蘇生!?」
「まぁ、それに当たるね」
「ねえ、レオ」
「何だよ」
「悪いけど……後ろ」
「?」
振り返ると────
「ようやく気づいたようだね、そう、君たち以外全員感染済みだ」
「あ...ぁ...」
絶体絶命。正に当てはまる状況だ。
このままではやばい。最悪だ。
────ふと、一つ思う事があった。
「亜矢」
「何?」
「魔法...使えるか?」
「まぁ……一応」
「じゃあ……ミスト、は?」
「……うん」
「使え」
「……ふぅ、『ミスト!』」
不可視の霧が、奴らの視界を妨害する。
今の内に!早く逃げなければ!
「亜矢」
「また何?」
「先にいけ。俺は……俺は、奴を殺す」
「...!?無理だよ!あんな不死身の!」
「……いや、行けるかもしれない」
「……分かったよ」
これで、思い切り暴れられる。
すぐ、ディーラの元に向かった。
「くそっ……霞んで見えないっ!」
「……家族と、その友達の恨みッッ!」
「く、はぁ」
再び心臓に刃物を突き立てた。
奴はその場に倒れる。
「良し、これであとは……!?」
しかし、時既に遅し。
死者の行進は眼前にあった。
「ちっ!」
落ちていた片手剣を拾い、薙ぎ払いながら死者を退ける。
「グルるるるるるぁ!」
「がァァァァ」
「ぁぁぁぁぁぁ!」
悲鳴が断末魔に変わっていく。
────直後、死者が倒れた。
まるで、ドミノのように、全員。
「!?」
「あーあ、やばいんじゃないの?」
「クソッ!」
奴はいつの間にか立ち上がり、血のついた服を軽くはらう。
「さて、さてさてさて」
「────血祭りの始まり、だね。アハハハハハハハハハハッ!」
奴は狂笑していた。
────この世は狂っているのか。
神は何故、微笑まないのか。
「──ハハハハハッ」
俺────流星レオは、狂笑していた。




