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現在の二人③ 正則くんの呼び名テスト2

本日、2話目の投稿になります。

鏡野ゆうさまの、

お花屋さんとお巡りさん- 希望が丘駅前商店街 -第三十話 それぞれの呼び方

の、正則くん楓さん視点の2話目になります。

そして。



目の前に聳え立つ、おねーえさんのお城。素敵。本当に素敵。ここに可愛いおねえさん(まだ写真しか見たことないけど)と素敵なきんに……じゃなくておにいさんがいると思うと、素敵さ倍増五割増し。


「楓、目が逝ってる」

「まかせろ、自覚済みだ」


上体を反らしてドヤ顔したら、正則が溜息をついたよ。おかしいな、こんな私だと知ってるだろうに。

リュックから手土産の包みを取り出して準備万端。さていくか……と、お城の門番……じゃなくて玄関のチャイムをぽちっと押そうとしたらなぜか正則に手を掴まれて止められた。

「あー、うー」

「……イチャイチャしたいのは分かったが、私たち不審者になるぞ」

「そうじゃない、そうじゃなくて」

力いっぱい否定されるのも、中々傷つくんだが正則さんよ。

私はチャイムを押そうとしていた手を正則の手から引っこ抜き、一歩後ろに下がった。


「心の準備が出来たら押してー」

「うっ、俺が押すのか」

「いや、元々正則が呼ばれたんでしょうに。私、今日の午後、おねえさんと会う予定だったんだけど」

「えっ! そーなのか?」

そーなんですよ。

おどろいた声をあげる正則を、斜め後ろから見上げる。

おねえさんのお友達のノンさんとは、既に顔を合わせ済み。今日は式の事でおねーさんち……すなわちここに集合する予定だったのだ。


結婚式の手伝いをすることは言ったけど、そういえば今日の事は正則に言った記憶がないな!

しかし申し訳なさそうにしている表情が可愛いから、黙っておこう!


正則はちらりと私を見て大きく息を吐き出すと、意を決したようにチャイムを押した。

「おぉ、頑張った! あともう少しだ!」

「いや、これからが一番のアレだろ……」

アレってなにまったく。

そんなに恥ずかしい事かねぇ。


家の中から芽衣おねえさんの声が聞こえる。なにやら一拍置いたような間があったけど何だろう?

「……兄貴、まさか阿呆な事して……」

「ドスケベ正則、そういうのは思ってても心の中だけにしておきな」

「ドス……っ、ちがっ!」

慌てて否定しようとした正則の背中を宥めるように叩くと、目の前を向かせた。

「ハイハイ分かってますよ、さぁ試験開始だよ」

「……っ!」



ガチャリ



玄関ドアを開けて顔を見せたのは、驚いた表情を浮かべた芽衣おねえさん。

その姿を認めた途端、ガチリと固まった正則がぎこちなく口を開いた。


「おはようございます、オネーサン」



「……っ」



駄目だ笑っちゃいかん! 頑張ったんだこれでも……!


あまりにもぎこちない声音に思わず吹き出したくなりながら、にこやかに芽衣おねえさんを見上げた。

可愛いおねえさん! 写真より可愛い……羨ましいな康則おにいさんてばっ!


にやにや……をひた隠しににこにこと笑みを浮かべていれば、後ろから「芽衣さん誰だった?」と康則おにいさんの声が聞こえた。

正則と私を交互に見てから芽衣おねえさんがぎこちない仕草で後ろに視線を向けつつ、口を開く。


「え、えーとね、ま、正則、くん……と、そのお連れさん」


「……!!!」



何このぎこちなさフレッシュ100%な二人!!!


そう私が悶えている間に、廊下に康則おにーさんの姿が現れて芽衣おねえさんの横に立った。その表情は楽しそうに口端を上げている。


物凄く楽しそうだ! これは芽衣おねえさんの態度を見るに、今日正則が来ること内緒にしてたな。

正則もそれに気付いたようでちらりと康則おにいさんに視線を向けてから、私を指差した。


「こいつを学校に送っていくついでに挨拶に寄りました」

「こいつって何だよ、失礼だな」

条件反射で脇腹に肘鉄入れてみましたが何か。

つきやってあげた可愛い彼女に対して、こいつとか何こいつ。

「ほぼ毎日のように兄貴がお世話になっているのに素通りするのも失礼かと思いまして……」

「本当に?」

あ、誤魔化そうとして失敗してやんの。ぎこちないもんね、正則の態度も声も。


正則は視線をうろつかせた後、諦めたように溜息をついた。

「……実のところ兄貴に顔を出せと言われたんだ。ちゃんとお義姉さんって呼べるかどうか試してやるとか言って」

「やっぱり……」


あ、正則と芽衣おねえさんが通じ合ってる! 羨ましい! 代われ正則!

……じゃなくて、っていう事は、やっぱり芽衣おねえさんも康則おにいさんに密かに試されてたわけだね。


「取り敢えずは二人とも合格だな」


……康則おにいさん、芽衣おねえさんの事になると心が狭い……。


思わず三人で通じ合ったのは致し方ない。ぎこちない空気が緩んだところで、やっと正則が私が来たこじつけ理由を思い出したらしい。

「あ、でもこいつを学校まで送っていくってのは本当なんだ」

「だからこいつと呼ぶなって言ってるのに」


まだこいつと呼ぶか! 

今度は意図的に脇腹に肘鉄を入れると、イテッ……と声を零した正則が逆に脇腹を小突き返してきた。


「それからこれは気持ちばかりのものなんだけど、ほら、楓、さっきの渡せ」

「分かってるよ。正則が喋り続けるから渡すタイミングが掴めなかっただけだろ。あ、初めまして、おねえさん。私、木崎楓と申します。これの彼女です、末永くよろしくお願い致します。お近づきのしるしにこれをどうかお納め下さい」


全く。私がいなかったら、花屋さんに花束を渡すところだったというのに。

昨日綺麗にラッピングしてもらった包みを、恭しく両手で差し出す。


「これの趣味は最悪なので私の方で選ばせていただきました。お花屋さんをされているということでお忙しいと聞き及んでおります。美味しいハーブティーなので仕事で疲れた時はこれを飲みながらリラックスして下さい」

「ありがとうございます、ここのハーブティー、凄く美味しいですよね、大好きなんです」


思わずどうだ……とばかりに正則を見れば、呆れた視線を返されました。私がいなかったらハンドクリーム渡してたくせに……っ。

まぁ、こういうのは繊細な者同士だよね!


「それは良かった。私もここのお茶が大好きなんです。ただ、これにはその繊細な味が分からないようで」

「こいつって呼んだら小突くくせに自分は俺のことをこれ呼ばわりかよ……」

「やかましい、黙れ。きちんと挨拶をしろ、大人げない」

「どっちがだ……」


まったく大人げない。

正則は仕切るように咳ばらいをした後、再び芽衣おねえさんを見た。


「結婚式の時に改めて挨拶はするつもりではいるけど、こんな兄貴ですが末永く宜しくお願いします。ああ、それと、こいつも結婚式のお手伝いをさせてもらうことになってるんで」

「良いんですか、学校の授業とか問題ないんですか?」

正則の言葉に心配そうに私を見る芽衣おねえさん可愛い……! 頑張りますよ、おねえさんの為ならば!

「はい。今日は昼までしか講義が無いので午後からはこちらに伺う……どうかしましたか、おねえさん」

私が話している途中から驚いたような表情を浮かべたおねーさんの気が付いて会話を止めると、戸惑ったような声で正則を呼んだ。


「あの、正則君?」

「なに?」

「もしかして、楓さんって……?」

「あ? ああ、こいつは山手の光陵学園大学の学生だよ。一限目から講義があると言うのに寝坊しやがったものだから俺が送る羽目になったんだ」

「何を言ってるんだ、私が一緒じゃなければここに立ち寄る勇気も無かったくせに」

「それとこれとは別の話であってだな、なんで今日に限って寝坊なんだ、お前ってやつは」


くっ、私の痛恨のミスをここでばらすとは……! 後で覚えてろよ、真田正則め!

もう少し何か言ってやろうかと思ったけれど、そこで康則おにいさんおから待ったがかかった。


「仲が良いのは良いが楓ちゃん、時間の方は大丈夫なのか?」

その言葉に、ぴっ……っと背筋が伸びる。

やばい、確かにやばいぞ! 私、寝坊したんだった!

「ああ、いかん、そろそろ行かないと単位がやばい」

今日の一限は、恐怖のオニアクマ……じゃなかった中世古代史のオニアクマ教授だ!

一分の遅刻も許さない、恐怖の教授を思い出してそわそわとリュックを背負う。そんな私を見た正則が、仕方がなさそうに溜息をついた。

「まったく。め、じゃなくてお義姉さん、楓とはまた後でゆっくりと話をしてやって、ください。じゃあ」


あ、今のケアミス。きっと康則おにいさんの中でぎりぎりセーフ案件だろう。

思わずにやけそうになる私の背中をぐいぐい正則に押され、もう一度「またお昼に……!」と芽衣おねえさんに声を掛けてバイクへとダッシュした。



「早く! 正則、早く私を迅速かつ丁寧に大学へ運ぶんだ!」

「俺は荷物運びか」


正則のボヤキを完全無視し、何とか一限に滑り込めました。


セーフ……!

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