現在な二人① 真田家に初めてお邪魔した時って……
鏡野ゆうさま連載中の、
お花屋さんとお巡りさん- 希望が丘駅前商店街 -第二十八話 婚約指輪と御挨拶
の、正則くん楓さん視点のお話になります。
☆ツイッターからサルベージ-------------------------------------
某コーヒーショップ
正則君「おー、お待たせ」
楓「あれ、早かったね。もっと遅くなるものとばっかり」
↑いそいそと読んでいた本をバッグに仕舞い込もうと奮闘中。
正則君「思ったより早く指輪決まったって」
楓「そっか、それはよかった!」
↑思いのほか厚みがあり、仕舞い込みにくい
正則君「……」
楓「あ」
正則君に取り上げられた本を手で追うが、間に合わない。
正則君、ぺらりと中を一瞥して、本を閉じる。
正則君「……まぁ、そうだよな」
楓「え、何が?」
薄くない薄い本だった為どうしようか悩んだが、ばれたらばれたで開き直り。
正則君「……(兄貴達が指輪選んでくるって言ったら、少しは興味持つかと思ったけど無理か)」
思わず深くため息。
楓「会って早々ため息つくとかなんだこのやろう、カッコイイなもう!」
正則君「……(まぁいいか)」
------------------------------------------------------------ここまで。
正則と待ち合わせしたのは、今日遊びに行く予定のある水族館の最寄駅。お巡りさんという職業上、休みは平日になることが多いっていうかほぼそれ。
学生の私としては合わせやすいけど、就職したら難しくなるんだろうなぁ。私が平日休みとかシフト制の職場を選ばない限りは。
そんなことを考えながら、駅近くのコーヒーショップの自動ドアをくぐった。
最近よく見るようになったセルフ方式のコーヒーショップは、さすがに人があまりいない。
レジでロイヤルミルクティーなんていうちょっとお洒落な紅茶を頼んで出来たそれを受け取ると、店内奥の窓際の席に腰を落ち着ける。
少ないながらもいるお客さんは喫煙ルームか入口の方に固まっていて、私のいる席の周囲には誰もいない。
「ふっふっふ」
思わずニンマリしながら、少し大きめなバッグから封筒に包まれた本を取り出した。
本当はデートに持ってくるつもりはなかったのだけれど、まさか今朝郵便受けに届くとは!!
こそこそと鞄から自分で作ったペーパーカバーも出して、素早く封筒の中身に装着する。そこまで一分もかかっていないだろう。さすが私、さすが私の欲望。
既にもう、見た目は普通の本。
まさかこの中が、あはんでうふんな男同士が書かれているとは思うまい!
妙な達成感を感じながら、とりあえずテーブルに本を置いてロイヤ……面倒くさいので紅茶を飲む。
窓の外は綺麗な青空、小さな雲が遠くに見えるだけで真っ青な空には明るい太陽が浮かんでいる。
「今頃、おにいさんは無事おねえさんの指輪を買えたかな」
頬杖をついて、思わずくすりと笑いが漏れた。
正則とは休日以外あまり会えない、というか休日の日でも私の授業の合間にたまに会えるかどうかというところだ。
今日は久しぶりのデートで楽しみなんだけど、その上、正則のおにいさんであらせられる康則おにいさんが自宅に婚約者を連れて結婚報告に来るらしいと聞いて、楽しみが倍増。
すでにご両家の間で挨拶はすんでいたのに、なぜか当事者の芽衣おねえさんがそこに含まれていなかった模様。それを聞いて、さすが天然強面お義父さん!と思わず拳を握りしめてしまった。
正則から聞いた話によるとお義父さんが焦るに足る理由があったのは分かったけど、本当に焦りまくってたんだなぁと思うと可愛くてつい笑いが漏れる。いや、馬鹿にしてるわけじゃなくてさ。
素敵なお義父さんだよね、強面だけど優しいんだよ。
初めて会った時は、もう、それはもう、内心歓喜したけどな!!!
すんごい緊張して緊張して、こんな私でもぐるぐる脳味噌がかき回されてるんじゃないかってくらい緊張しながら訪れた真田家は、もう……私的にはパラダイスだった……!
これぞ楽園、理想郷、桃源郷←違う
正則と一緒にリビングに通された私が見たのは、持ち上げたコーヒーカップが斜めになってそこからだばだばと中身が零れているというのにまったく気づかず、口をあんぐり開けたままこちらを見て……いや睨んでるとしか思えなかったけど・笑……いるお義父さんの姿だった。
……何事……?
首を傾げながらも、私の興味着眼点はそこじゃない!!!
正則を見ていたから実は期待していたのだ、遺伝子を!!! 正則を作り上げた素敵な筋肉遺伝子を!!!
まさしくだった……。
神様ありがとう。心から感謝いたします、正則と出逢わせてくれて。
この芋づる式に見つけた真田パパ、今日はいないけど康則おにいさん、そして正則。この筋肉達に会わせてくださってありがとうありがとう!
いや中身が大切だけど、付属としてついてくる筋肉も最高とかナニコレ誰得私得すぎて鼻血でそう!!
「あ……え? 君が、あの……」
「……!!」
そう声を掛けられて、脳内思考から一気に浮上した私の背筋があからさまにしゃきっと伸びる。
いかん、筋肉に見惚れている場合ではなかった!
コーヒーカップを持ち上げているその前腕筋! 上腕二頭筋や三頭筋を鍛えてる方は数いれど、前腕筋はそうそういまい。血管が浮いたキレのあるその筋肉、さすがです! 機動隊員でしたっけさすがです!!!
しかし今日はこの位で諦めるか!
「はいっ! 正則さんとお付き合いさせ頂いております、木崎 楓です!!」
脳内アルバムに納めつつ、がばっと頭を下げた。
「いやまて、楓。普通は俺が親に紹介するんじゃないのか。なに自ら紹介してるの」
呆れたようにツッコミを入れてくる正則を無視して、頭を下げたまま手に持っていたお土産をサッと突き出す。
「よろしくお願いします!!」
「……は……?」
ここまでお義父さんと出逢って、ほんの数分。
しーんとなった部屋に、朗らかな女性の声が響いた。
「あらあら元気のいい方ね、正則の母です」
その声に慌てて顔を上げて……うぁっぁぁぁ、強面お義父さんと可愛いお義母さんとか体格差のギャップとかなにこれどんなシチュエーションどんな二次元パラダイス!!…………もう一度頭を下げた。
「木崎 楓と申します。よろしくお願いします!」
「いやだからな楓、それ俺の役目……」
「はい、よろしくね」
正則の言葉を途中でぶった切って、お義母さんが私の手からお土産を受け取ってくれた。
顔をもう一度上げると、ふんわりと笑う可愛い姿。うわぁぁぁ、お義父さん筆頭に皆強面のご家族だけど、きっとこちらの小柄なお義母さんが主導権を握っていらっしゃるわけですねわかりますごちそうさまです!
「ははは……」
……思い返すと、素敵ご夫婦に萌えまくってた事しか覚えてないな……。
自分の阿呆さ加減に苦笑いしながら、懐かしいなぁと独りごちる。
あの後、お義父さんの目には私が中学か高校生辺りに見えていたという事を知って、あの珈琲だばだば状態の意味が分かったというオチもつくわけだが。
ぺらりと、テーブルに放置していた本の表紙を捲る。
数日前に知り合いのサークルの子と交換発送した、オリジナルのみの同人誌。薄めの本が多い中で、珍しく厚みがある。同じお題を別設定で書いた短編や漫画を集めたからこその厚い本。
大きさがね……持ち歩きにはとても優しくないけど、時間かかるかもしれないって言われてるし読みたいしでついついね……。
惰性のように、ぺらりぺらりとページを捲る。
――未来のお義姉さんが来るんだ
そう、正則は言っていた。
未来の、お義姉さん。康則おにいさんのお嫁さん。
凄く、これでもかってくらい溺愛していると聞いている。
あの強面おにいさんが溺愛している姿とか微笑ましいなと思いつつ、同じ位とてもとても大切にされているんだろうなって思う。
まだ会った事のない、おねえさん。
――未来のお義姉さんが来るんだ
……そこに、私の存在はあるのかな。
なんて、珍しく考えてしまった。
俺の、未来のお義姉さん?
それとも……俺達の、未来のお義姉さん……?
私が告白した時に、盛大に戸惑っていた正則の姿が実は忘れられない。
正則の性格を知れば、けっして私の勢いに流されて頷いたわけじゃないことくらいは分かってる。
それでも羨ましいなぁとか思うわけだ。
溺愛とか……いいなぁ。私ら二人だと逆だもんな……。私が正則(筋肉含め)を溺愛している気しかしない。
押しかけた私が言うとか、自分勝手でごめんだけど。
「……いつか、私も」
そんな言葉を呟いた、その時だった。
「おー、お待たせ」
聞きなれたその声に、条件反射で「あれ、早かったね。もっと遅くなるとばっかり……」と言葉を返しながら、内心の焦りを見せず迅速に手元の本をバッグに突っ込もうと格闘を始める。
しまった、珍しく物思いにふけっていて正則が来るのを確認していなかった。
いつもなら本を読んでいても、店に誰かが入ってくるのをちゃんと見ているのに!
誰だ乙女思考を膨らませた奴は! 私か!←混乱中
そんな私の葛藤に気付くわけもない正則は向かいの席に腰かけながら、テーブルに珈琲が入っているだろう紙コップを置く。
「思ったより早く指輪決まったって」
「そっか、それはよかった!」
くっ、いつもより厚みはあるわ封筒もあるわ大きいわ……はいらねぇ!
「あ」
手元から、薄くない薄い本が遠ざかっていく。それは、真ん前に座る正則の手の中。
慌てて取り返そうと手を伸ばすけれど、リーチの差もある上に空いている手で妨害されるからまったく届かない。
うん、私の葛藤に気付いてたわけかそうか。
……諦めるしかないな。
私がやおい好きな事は正則も知っている。ただ趣味嗜好の細かいところまでは言っていないし、作ってる同人誌も読ませたことはない為、大見得切って見せたくないわけだ。
まぁ、見られてもいいけどさ。自分が書いている奴じゃないし(どんな内容w)
正則は取り返すのを諦めた私をそのままに、ぺらりとページを捲って「……まぁ、そうだよな」と呟いた。
「え、何が?」
私の趣味を把握して納得ってことか? どんな洞察力、怖いよお巡りさん!
首を傾げる私を一瞥して、正則は本をぱたりと閉じた。
どこかがっかりしたような雰囲気のまま、深くため息をつく。
んん? 私の何にがっかりしたんだ? 筋肉好きなのは今さらだろう!
しかしその眉間に刻まれた皺だとか、不機嫌そうに結ばれている口元だとか何だそれは私に見せつけてるのか誘ってるのか!
「会って早々ため息つくとかなんだこのやろう、カッコイイなもう!」
思わず本音駄々漏れで声を上げれば、ぽかん……とした後、なぜか機嫌が直った正則であった。
……なんで?
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楓ちゃんが持っていた本のお題は、「筋肉」でした(笑
第二十八話 婚約指輪と御挨拶の読了ツイに書いた妄想劇場を、サルベージして膨らませまくりました(笑