理不尽な世界に次ぐ
英雄、といえば、いわゆるヒーローだ。
困ってる人をだれかれ助けたり、悪の組織滅ぼしたり、世界を救ったりする。
おとぎ話の中に登場する存在だ。
「なに、英雄って、目覚めるとか目覚めないとか、そんなシステムでできてるの。というか、英雄って現実世界的にはどんな存在なわけ?」
ソウライは、状況理解に努めながら、アイエルに対し疑問を投げかける。
「細かいことについては省きますが、大まかな分類をするとシュウ子と同じ、神的干渉の一部です。さらにいうなら、終焉を担うシュウ子とは対極の存在でもありますね。何せ英雄は、救済を担う存在ですから」
__と、整った顔を沈ませるナウルに視線を送る。
「あらゆる神的干渉に対し、救済的行動をとるようにできているのですが・・この世界ではまだ未覚醒だったようです。」
「それをアイエルの・・なんか魔力的な何かで起こしてしまったと?」
「その通りです。正確には、私という神的干渉に対して反応したのでしょうけど」
相変わらずソウライの常識的な知識じゃ理解できないことが続き、口を噤む
ナウルに至っては聞いているのかどうかの怪しい。
「なぁアイエル。この場合、シュウ子を倒すことが英雄の目的になるのか?」
「それはありません。終焉の巫女はいわゆる終わりのトリガーですから、倒そうものならそれこそ世界が滅びます。」
そういえばそうだったと肩を落としため息を吐く。
反動で目にかかった黒髪をいなしながら_ふと
(あれ・・?じゃあこの世界における悪役ってなんだ?)
ソウライの中で単純な疑問が生まれる。
「それがわからないから、謎なのですよ。
そもそも悪役がいるのか、それすらわかりません。」
「頭の中で思ってることに答えるの止めてくれるかな?びっくりするから。」
「どうせ聞くつもりだったのではないですか?」
「・・まぁそうだけど。」
「だったらいいではないですかっ」
「そうゆう問題じゃないの、ちゃんと言ってから答えてね?」
「全く、ソウライさんは照れ屋なんですから~」
「どうしてそうなるのかな!そんな話全くしてないよね?」
「仮にもしその話をしてないとして、見られて何か不都合なことでもあるのですか?例えば・・いかがわしいこととか」
ニヤリと笑い、確信めいた何かをチラつかせるアイエル。
「・・・・そ、そんなことはないけどね?とにかく勝手に頭の中を覗くのは止めてくれ。なんか嫌だ」
カラカラと楽しそうに笑い、ふんわりと纏う羽衣のようなものを揺らしながら、
素直じゃないんですから~と膨れるアイエルを流し、
再度思考を開始するソウライ。
そんな二人に_
「夫婦の仲睦まじい会話をしているところ悪いが、少しいいか。」
シュウ子が口を開く。
黒髪のかかる顔になおのこと暗さを模した様子にしかし
「聞きました?お似合いの夫婦ですってっ。どうしましょ~っ」
「言ってないから。誰もそこまでは言ってないから。
分かったら俺に抱き着かないでくれるかな。前が見えない」
キャーキャーとやかましく騒ぎながらソウライに抱き着くアイエル。
ソウライの視界がアイエルの薄赤く染まった髪で覆われて何も見えなくなる。
懲りず無駄話を続ける二人の間に、シュウ子のわざとらしい咳払いが響く。
「コホン・・・・いいかな?」
「ごめんなさい。で、どうかした?」
「ああ、悪役、と聞いて少し考えてみたんだが・・
少し気になることがあってな」
髪を弄りながら話すシュウ子に、アイエルは首をかしげる。
「それは・・いったいどのような?」
「いやなに、簡単な話なんだがな、そもそもこの世界の人間が私を殺そうとしているのは知っているであろ う?それなら、真実はどうあれ、私をどうにかすれば得になるとそそのかした何かがいる、ということに なるのはわかるか?」
一人、今ので言いたいことの全容を理解したらしいアイエルはしかし_と
「もしそう・・いえ、確定的にそうだとして、
その限定からさらに割り出す方法を私たちは
持ち合わせていないのではないですか?」
「そうだな・・・・もういっそ、いやそうか、
そうだったな」
「何がだ?」
何を言いかけたのか、その追及を許さぬまま何か結論を得たかのように自己完結するシュウ子に対し、
ソウライが急かすように問う。
それに微笑で答えたシュウ子が、ローブを靡かせ、ナウルの前に立ち、口角を吊り上げる。
「君なら何か知っているのではないかな、
ナウル君?」
3人の視線がナウルに集まるなか、当の張本人は というと
「・・・・ぁへ?」
なぜ自分が注目されているのかわからない様子で、幸薄そうな顔を歪めた。
その様子を気に留めずシュウ子が続ける。
「君は仮にもアルバーン財閥の関係者のはずだ。そうだろう?」
「え、あぁ、一応跡取りってことになってる
けど・・」
「まぁどんな立ち位置であれ、関係者であればいいの だが。
時にナウル君。
最近、誰かおかしな客人でも来なかったかな?
客でなくても、取引相手や社員でもいい。
妙に社長周辺に入り浸っている。そんな存在だ」
ナウルは黙り込み、自分の記憶を洗う。
時折小声で、そんな人は・・など聞こえてくる。
少しして、ナウルはあっと声を上げた。
「最近・・この辺りでは見ない服装をした女の子がよく来ていたんだ。気になって一度聞いてみたら、
取引先の社長の娘さんだって、でもよく考えればやっぱり不自然なんだ。
あまりに入り浸りすぎているように感じてて・・」
ふむ、とシュウ子が顎のラインを指でなぞり、少し考えるそぶりを見せて__言った。
「ならそいつだな。そいつを叩くのが一番だろう。」
「な、なぁ、いくらなんでも即決すぎないか?決めるにしても、もう少し調べてからでも・・・・」
「もう時間がないんだ!」
あまりの即決に非難の声を上げるソウライ。しかしそれは、シュウ子の今までの装いからは
想像できないほど張り上げられた、心からの叫びに掻き消えた。
その場の温度が跳ね上がり、そして急激に冷えていくような感覚にソウライは捕らわれる。
急に大きな声を上げたためか少し息遣いが荒いシュウ子が息を整え、続ける。
「すまん、取り乱した。とにかく、時間がないんだ。今すぐに行動しないと、間に合わなくなる」
何が、も どうして、も語らないがしかし、明確な確信をもつ何かが、シュウ子のそれにはあった。
整理が追い付かず、途方に暮れるソウライをよそめに、アイエルはシュウ子に同意する体裁をとる。
「私も同意見です。私では確実なことは言えませんが、この世界はもう限界のはず・・・・ならば手段を選んで
遠回りしている暇はないかと」
二人から押され、情報が足りないなか、しかしソウライは二人の判断を否定する気にはなれなかった。
「・・・・わかった。先を急ごう。ナウル、俺たちをその少女の所まで連れて行ってもらえるか?」
「任せてくれ、客人だと偽れば敷地に入れることはできるはずだ。」
世界の英雄としてのそれか、ナウルは会話に追いつき、話を進めていく
「よし、なら頼む。行こう」
ナウルが腰を上げ、表通りへ抜けていき、フードを深く被りなおしたシュウ子が続く。
残ったアイエルとソウライの間に瞬間、
寡黙な空気が流れ。
「・・・・結局、多くは語ってくれないんだな。」
目も合わせず寂しそうに呟いて、ソウライが二人の後を追い歩いていく。
その後ろ姿にかかることはなく言葉はなく、その後ろ姿が大通りの喧騒に消えていくまで見つめ、
はぁ__吐いた息は誰のものか、答えるものは何もなく。
感情的に輝いていた眼を、僅かばかり無機質に沈めたアイエルは、ふと見上げ、
黒く蓋された空を見透かした。
結果として、アルバーン邸宅には容易に侵入することができた。
どれくらいの大きさだろうか。簡単には図りえない、さすがと言える豪邸。
それに相応しい大きな門を守る複数の門兵に、ソウライは内心ビビっていた。
しかし、ナウルが友人だと説明すると、あっさりと門が開いた。
もちろん、門兵達にはアイエルが見えていない
ため、ぱっと見素朴な二人組だ。
容易に門兵を出し抜いたソウライ達は、
安堵もそこそこに、
例の少女がいるであろう社長の、ナウルの父親の執務室に向かうことにした。
「・・・・にしても、本当に社長の息子だったんだな、ナウルって」
執務室に向かう廊下を歩きながら、ソウライが不意に呟いた。
「疑ってたんですか!?」
「いや別にそういうわけではないけど。ほら、なんかもっと偉そうなイメージがあるからさ跡取りって 七光り的な?」
七光り、という言葉に何か思うところがあるのだろうか。
そんなものですかね。と肩を落とし、悲観的にナウルがつぶやく。
「そんなのものは人それぞれだろう、各々環境は違うのだから。
と、いうより、そろそろ無駄話は止めてもらえるかな?」
ほんの少し苛立ちを湛えた声で、半歩後ろを歩くシュウ子が、会話に決着をつける。
シュウ子の冷たい視線をうけ、 ナウルはヒィッと声を上げ、急にきびきびと歩き出す。
じーっとした視線が向けられるのをソウライも感じていたが、気付いていないことにした。
触らぬ神に祟りなし、とソウライは内心で唱えた。
ほどなくして、ナウルが立ち止まる。
彼の目線の先には、ここまで幾多か通り過ぎてきた扉より少しばかり大きめの、
ぱっと見ただけでそこがほかの部屋より重要度が高いことがわかる扉があった。
「ここです。」
「そのようだな。」
「・・・・入ります。」
ノックの音がやけに響き、ナウルが扉に手をかけるその動作にも緊張が走る。
これ以上交わす言葉もなく、
扉がやけに重々しい音を立てて開く。
ソウライの背筋に寒気が走ると同時に、あらゆるものが部屋の中に吸い込まれていくような、
そんな錯覚じみた、いわゆる嫌な感じがソウライの心を覆いつくした。
しかしそのことを伝えることもできぬうちに、ナウルは部屋の中に入っていく。
ナウルが部屋の中に消えてから3秒の静寂、それを経てソウライらの耳にと届いたのは
「・・・・・・へ?」
ナウルの、声。
ソウライとシュウ子は目を見合わせ、部屋の中を窺う。
見えるのはナウルの背中、壁沿いに並ぶ大量の本、そして、飛び散っている赤い液体。
そこまで認知したところで、二人は部屋の中に駆け込む。
ナウルの背中に隠れていて見えなかった場所を鮮明に捉える。
二人が目にしたのは、執務用の席に腰かけている人の姿。
「彼が、君の父親か?」
「・・・・」
この状況で、冷静な判断に努めるシュウ子にナウルは何も答えられない。
しかし、ナウルの反応、この状況を考えるとそうなのであろう。
あの血を滴らせ深く俯いたような姿勢で、二度と動くことはないであろうを容易に想像させるそれが、
ナウルの父親のなれの果てなのだ。
「どうし・・なんだってこんな・・・・」
状況を飲み込め出したのか、ナウルの息遣いが荒くなってくる。
このまま倒れてしまうのではないか。
そんな風に思える状態のナウルにソウライが声をかけようとしたその時__
聞き覚えのない可憐な声が、三人の鼓膜を揺らした。
「終わったのよ、彼は。」
いつからそこにいたのかわからない。
突然現れた、あるいは、はなからそこにいたのか。
ナウルの、誰に向けたでもない言葉に答えたのは、この悲惨な場に余りにも似付かわしくない、
齢12程度であろう少女。
机に腰を掛け、室内にもかかわらず黒い傘を差し、顔に影を落とす少女の姿を前に、ナウルの目が見開かれる。
「おじょう、ちゃん・・?」
「こんにちは、ナウルさん。」
絶えず浮かぶ微笑に、ソウライはうすら寒いものを感じる。
何かにあてられたかのように、ナウルの荒い息遣いが平静に戻り、静寂に包まれる。
瞬間の静寂に永遠を感じさせる。
それだけの何かがあの少女にはある。
少女の視線がナウルを値踏みするようかのように這い__ふぅ っと、
変わらぬ笑顔に少し憂いを浮かべ、一言。
「あなたも、 終わりね」
その瞬間、それが合図だったかのようにナウルの体から力が抜け、崩れ落ちる。
一滴の血も流すことなく、一見ふざけて寝そべっているようにも見えるそれは確かに今、
死んだ。
「残念、素質はあったのに。憎悪が足りなかったのね」
見透かしたような目で、結末などとっくに知っていたかの口調で。
その姿にソウライは、強い既視感を覚えた。
「お久しぶり、終焉の巫女さん。元気そうで何よりよ。そちらの方は初めましてかしら、
それに・・後ろの天使さんも」
クスッと、いかにも少女然とした笑みを湛え、どこまでも黒い髪を揺らし挨拶を投げかけてくる。
ひきつったような顔で固まったソウライの横で、シュウ子が鼻を鳴らし眉を顰める。
「悪いが。私はお前のような奴は知らん。ただ、貴様とは相容れぬだろうことは容易に分かるがな。」
「それは残念ね、でも私には運命の赤い糸が見えるわ。きっと仲良くできると思うの。
・・・・もちろん、後ろの天使さんとも」
「お断りです。どうやらあなたは私の敵のようですし。
・・そもそも、仲良くなったところで。ですよね?」
今まで沈黙していたアイエルが含みを持たせて返答する。
「えぇ、まぁそうね。最後の火も落ちたことですし。」
何がどうなっている・・?
ソウライの額を汗が滑り落ちる。
完全に置いてけぼりになったソウライの為か、果ては自己の状況確認の為、アイエルが口を開く。
「この世界は・・あらゆる問題に対し、その世界で生まれたもの、その世界のものでしか解決に至らない
ことは説明しましたよね?」
ソウライは記憶を遡りながら頷く。
「世界は、いくつもの解決不能な問題が起きるようになっています。そしてそれと同数、あるいは、
その問題を解決しうるだけの英雄が、生まれます。本来であればこれらは必ず解決することになります。 そのようにできてますから。・・・・
しかし、現在観測できている世界のうち、一定以上繫栄したした世界は、全て滅んでいます。
問題の解決不能によって。」
理解と解決が脳内で進む中、アイエルが語らなかった部分を補填していく。
世界は複数あり、それぞれが課題を抱えている。それは本来、解決可能であることなのに、解決できず滅んでいる。アイエルの住む世界?ではそれらを観測することができるが、干渉することは不可。
以上のことが差す__結論
「アイエルの住む世界を超える上位生命によるもの?」
「それはあり得ません。簡単には説明できませんが、この世界群を想像したのは我々の世界ですから。
もし可能なら、我々と同一の世界の住人のはずです。」
即座に否定されるが、悲観することもない。
一番最悪な結論を潰され、残るものは・・
「まさに、正体不明、目的不明、ってわけか。」
理解しようにも、教えられる奴がいないんじゃお笑いだ。
ソウライは苦笑気味にぼやいた。
全くです、っとアイエルもまた、疲れたような苦笑を漏らす。
「そろそろ、ヒントの一つでも持ち帰らせてもらえないものですかね?」
黙って話を聞いていた少女に話を振る。
「世界に降りた仲間は誰一人帰って来ませんでした。その無念、少しは晴らしたいのですが・・
おそらく、もう手遅れでしょうね。」
ため息を吐くアイエルに怪訝な表情を向けるソウライ
「・・・・先ほど言った通り、この世界は課題と解決法が均等に与えられます。つまり本来、どのような形であれ、私たちはこの世界で力をふるうことはできないのです。問題が必ず解決する世界で、
これが解決されない。つまり、英雄は、その死を世界に悟られないように殺された。」
方法なんて見当もつきませんが、、と呟いたのち、どうですか?っと少女に尋ねる。
「・・そうね。起きている事象はそれで説明がつくわ。
まぁ、正解と言ってあげられないわね。」
アイエルは、今の言い回しで何か掴んだらしい。
冷や汗を流しながら、なるほど・・とつぶやく。
「仕組みも理屈もさっぱりですが、何が起きているのかは理解しました・・
できれば生きてこの世界を出たいものですが・・
そうもいかないのでしょうね。」
「そうね、崩壊はもう、終わるわ。」
とたん、世界が揺れ始めた。
悲鳴のような地響きが、ソウライらの鼓膜を揺らす。
「それでは、私は失礼させてもらうわ。今回は、今までで一番いい線いってたわよ」
少女がふっと跳ね、ロングスカートを揺らしたかと思うと、そのまま空気に霞むように消えてしまった。 アイエルは肩の力が抜き、ふぅっと息を吐く。
その間ソウライは動けずにいると、
アイエルはこちらに目を向け、幾分愁傷な様子で、口を開いた。
「どうやらここまでの様です、ソウライさん。私が下りてからここまで、ありがとうございました。
いくら目覚めた観測者だからと言って、情報不足の中ここまで付き合っていただいて。
本当に、感謝しているのですよ」
儚く笑うアイエルを前に、最後まで聞き覚えのないことばかり、最初から最後まで言葉足らずの、あっという間に終わった旅路にソウライは思いをはせる。
ふと、思うことを状況が許さなかった疑問を、問う。
「最後なら、教えてくれ。俺は一体。なんなんだ?」
アイエルと出会うまでの記憶がない、しかし、喪失感があるわけでもない。
私は一体何なのか、考えることを許されたが故の問い。
アイエルは、答える。
「人の子でした。普通に育ち、普通に暮らしていた、ただの人間の一人。
そして器に選ばれた。
上界の者を下すための。我々が作った世界です。
今までいたずらに破壊を許してきたわけではございません。今回だって色んな策を弄したのですよ?
しかし・・・・ダメでした。残念です。」
あなたは器というものに選ばれただけの、普通の人間だ。そういわれただけなのに、安堵する要素なんて何もないのに、ソウライはとても安堵した。
「巫女さんも、ありがとございました。この世界のことは残念ですが・・・・巫女さん?」
胸に手を当て、謝辞の句を述べていたアイエルが唐突に止まり、シュウ子の顔を窺う。
つられて見ると、俯いた姿勢でなにかぶつぶつと呟いていた。
「これで終わりじゃないはずだ・・これではあの場で殺されていたのと変わらない・・
ここまで来る。この状況ではなければならない理由があるはずなんだ・・・・」
現実を直視できていないのか、可能性の模索をやめない巫女を止められるはずもなく。
しかし、今さら何をするでもなく、このまま崩壊の時を待とうとソウライが座り込んだ、その時
観測者・・?
シュウ子が、自論に活路を見出した。それは天文学的な可能性、しかし0%ではなくなる最後の一手。
シュウ子がソウライの前に速足で駆け寄り、肩をつかむ。
「ソウライ、私を喰え!今すぐだ!」
「ちょっと待て!どうゆうことなんだ?」
「この崩壊は私が起点だ!観測者の力なら、一瞬でも止められるかも知れない!
その間にアイエルをはじき出せれば・・早く!世界が死ぬ前に!」
「・・・・・・なるほど、ソウライさん、もうこの世界は無理ですが、ほかの世界に私が運よく流れれば、
次に繋がるかもしれません」
息を荒くし詰め寄るシュウ子と、一瞬で理解したアイエル。
理解の追いつかないソウライ。がしかし、、次__という単語がソウライの耳に残る。
ソウライは、己の理解より早く、他の人の理解を信じた。ここにきて、初めて自分の意志で。
「・・・・どうすればいい?」
「お前がアイエルから力を吸収した時、どうやった?それと同じことをすればいい」
よみがえる記憶の断片にこんな状況にもかかわらずソウライは頬をあからめる。
その浸りから抜け出した時、アイエルが地面に2つの円を描き出していた。
「この中に入ってください。その後のことは、私にお任せを」
流されるままに二人がそれぞれの円の中に入ると、円の外円から中央にかけて、
複雑怪奇な模様が浮かび上がり、それを包むように光が溢れ出す。
その光にあてられたかのように、シュウ子の中から、ただ、ひたすらに黒い、表現することすら憚られるようなものが。終焉そのものがあふれ出る。
無理やり開かれた地獄の窯は、しかしそのまま世界を喰らうことはなく、
円と円の間を蠢くように這い、そしてソウライの体の中に吸い込まれていく。
その結果、ソウライの中にあったアイエルの力がはじかれ、本来あるべき場所に収束する。
シュウ子から終焉が出きると同時に、こと切れたかのようにシュウ子が地に伏せる。
これでまたシュウ子も、終わった。
これで__予定通り
ソウライの体が、蠢く終焉に蝕まれていく。
ソウライに吸い込まれた終焉はしかし、その端から溢れるように漏れ出し始める。
本来収まるはずもない世界を壊す力が、ソウライの中に納まるはずもなく、
器を失った力はすべてを飲み込まんと荒れ狂う。
ただし、ソウライの中だけで。
ソウライが終焉をその身に収めているほんの僅かの間。
終焉にのみこまれかけていた世界が、その支配権を取り戻す。
その一瞬を逃さず、ソウライから取り戻した力をアイエルが開放する。
世界はアイエルという異端を良しとせず、世界の理から弾き飛ばす。
この世界から、アイエルという存在が、消滅した。
そしてほぼ同時に、ソウライの限界が来た。
世界は、終焉飲み込まれた。
自分がどこにいるのか、分からない。
アイエルは文字通り世界の外にいた。
本来なら上界に繋がるはずの道は、一度終焉にのまれた時に切れたのだろう。
アイエルは、世界の狭間に取り残された。
多元性確立の為の、絶対的不干渉の領域。
絶対的な無の中でふと、思う。
この世界は、何なのか_と
あらゆる生命の命が燃え落ち、その前提すら崩壊した世界でただ一人。
ソウライは、自らが取り込んだ崩壊が、その役目を終えて自壊する時を共にしていた。
アイエルが世界からはじかれるのを見届け、目的の最終を迎えた今、
その存在を保つのは、観測者としてのそれか。
そういえば、俺たちにシュウ子を預けた彼女らは、どうしたのだろうか
ふと、疑問に思う。
少なくてもこっち側の力を持っていた彼女は、はたして何者なのだろうか。
明らかに、ソウライの知識では、辻褄が合わない存在であるような気がしてならない。
いずれにしろ、確かめる手段はないが。
崩壊の自壊が進み、とうとうその存在をなくしてしまう頃、ソウライはふと、思う。
この世界は、何なのか_と
その問いに答えるものは__無かった。
ひっさびさの、投稿です。だいぶ文章体を変えて来ましたが、恐らくは、これで安定する…はずです!
今後も、不定期で更新していきます!




