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熨斗付けて返します

 使いの女性から受け取った護法鬼(ごほうき)の札を、とっさに俺は4つ折りに畳む。


「その絵がどうかしたのか?」


 理由が分からずに尋ねる女性だが、彼女の唇に指を当て、静寂を促した。


「この(ふだ)もさっきの紙の兵士と同じ、道術士の(まじな)いの一種だと思う。この絵に描かれた二匹の鬼が、多分あんたの居場所と会話を術者に送っている」


 できる限り小さい声で、驚く耳元に話しかける。


「どうすればいい。さっきみたいに燃やすか?」


「それもいいけど……」


 少し考えてみる。火にくべれば術者とのリンクが切れてお終いだ。それで問題はないが、ちょっと芸が無いような気もする。向こうとしてはこちらの情報を可能な限り集めたいだろうから、それを使って罠にかけられればいいのだけど、正直相手が何故彼女を襲ったのか、そもそも相手は誰なのか、現状では罠もかけようがないわけで。


 となると、持っていても意味が無いから、できるのは嫌がらせ程度か。


 何にしてもこの場所はバレていると考えた方がいい。


「ところで、どこかこっそり話をできる場所って知ってます?」


「なら私たちが情報交換に使っている店がある。そこなら休めるし、襲われる心配もない」


「そいつは重畳(ちょうじょう)。疲れているところ悪いけど、さっさとここを出よう」


 女性は頷くと、俺からローブを受け取って水気を絞り、スク水の上から羽織った。おかしくはないけど、知らない人が見たら痴女だな。


「では行こう。ところでこの、(ふだ)とやらはそのままでいいのか?」


「いやいや、その件も含めて寄ってきたい場所があるんだよね」


 にひひ、と笑うと女性は怪訝(けげん)そうな顔をした。多分すごい悪人顔(あくにんずら)してるだろうな、今の俺。




「そんなことでいいならやってやるけどな。兄ちゃんも物好きだね」


「いえいえ、そうでもないです。オジサンみたいな人にお願いしたかったんですけど、受けていただいて助かりました」


 列に並ぶ太った中年男性は、よく分かっていないながらも、嬉しそうに俺に話しかける。


 理想的な条件の人が簡単に見つかって、俺も嬉しい、というかこれから起きることを想像すると楽しくて仕方ない。まあ正直想像したくはないけど。


「オオクニスクナ、言われた通り連れてきたわよ」


 ローブの女性が、後ろにリーシャとナルカを従えて俺に近づいてきた。ところで、顔をしかめる。


「一体お前はここで何をやっているんだ……」


「ん~、言うなれば仕込み?」


 立ち上がって服のほこりを払う。


「それじゃオジサン、俺が言った通りにしっかりお願いしますね」


「おう任せろ。ちゃんと絵の描いてある方使うからな」


 適当な銀貨を一枚握らせ、一緒に4つ折りのお(ふだ)を渡す。


「あと、使う直前まで開かないでください。大事なことですから」


「大丈夫だって、じゃあな、兄ちゃん」


 オジサンに手を振って別れを告げ、女性の元へ歩いていく。


「ではでは、そのアジトとやらに参りますか。ナルカもリーシャも、さっきは置いてって悪かったな」


「ううん、お人形一杯触れて楽しかったよ!!それにほら!!」


 俺に向かって何かを差し出す。それは劇に使っていたのとは別の、お姫様人形だった。試作品だろうか。


「へえ、それ貰ったんだ。よかったな」


「うん!!」


 満面の笑みを浮かべるリーシャ。


「それとミミスとかいう女から、住所を書いた紙を渡されたぞ。時間があれば尋ねてきてほしいそうだ」


「ありがとう」


 紙片を受け取る。そこには彼女の家があると思われる、『お針子横丁』の住所が絵入りで書かれていた。 なるほど、彼女らの人形技術はお針子仕事の賜物(たまもの)ということか。


 人形を見せてほしいと言いながら、結局うやむやになってしまっている。状況に落ちが付いたら、リーシャを連れて遊びに行ってもいいだろう。


 ところでさっきからナルカが一言もしゃべらずに下を見つめているのが気になる。


「ナルカ、どうしたんだ?」


「……断れなかった」


 見ると、彼女の手には例の黒い(ワーム)人形が握られていた。


「あはは。貰っちゃったんだ、それ」


「手伝いのお礼に、沢山あるからって……不本意」


「お姉ちゃん、後でお姉ちゃんの人形と私のお姫様で遊ぼ!!」


「……考えておく」


 お姫様と蟲って、どう考えても18歳未満禁止な絵柄にしかならないと思うけど、本人が楽しいならいいか。


「そろそろ何をしていたか教えてくれてるな。どうしてあの札を先ほどの男に渡した?」

 歩きながら女性が尋ねる。

「俺も詳しくはないけれど、『千里眼(せんりがん)』と『順風耳(じゅんぷうじ)』は絵の鬼たちの名前であり、能力でもあるんだ。その能力は普通に見たり聞いたりするのと同じように、鬼たちの眼と耳を使って発揮される。この場合、絵に描かれた鬼の眼と耳かな」


 中二設定のお約束なら、の話だけど。


「ちょっと待て、お前がさっき並んでいたのは……」


「そう、公衆便所!!」


 俺の意図をやっと理解して、女性は絶句した。


 だからわざわざ太っていて、毛むくじゃらで、不潔で、そのうえお腹を壊しているおっさんを選んだのだ。いや~探せばいるもんだね、そんな人。


 今頃トイレの順番が回ってきているだろうから、術者はどうなっているやら。どこの誰だか知らないけれど、いい悲鳴を上げてくれていることを期待しよう。

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