厄介な方々の井戸端会議
暗く何もない空間に、4つの人影が浮かんでいる。光源は無いのに、その姿の線はくっきりと闇の中に強調されて見えた。
「南の蛇が屠られたようだ」
影の一つから発せられた言葉は、不思議な重さを伴って響く。
「世迷言を。あれが滅んでから50年以上。残っているのは滓だけだ」
「おぞましいことよ。声も名も忘れ、泥を這う蟲に成り果てるとは」
「堕ちてなお、己を祀る巫女を求めていたというが、それさえ貪る姿はもはや哀れとも思わん」
非難が口々に発せられる。
「その滓が、屠られたというのだ」
動揺が走る。
「……誰だ。いや、誰の民がそのような不敬を為しえたのだ。」
4人が互いの顔を見合わせる。場を静寂が支配した。
やがて最初の一人が再び口を開く。
「我等が民ではない。南の蛇を屠ったのは『神徒』だ。」
「神徒!!」
「また奴らの仕業か!!」
「旧き世界の慮外者どもめ!!」
怒りの感情が無遠慮に発せられる。
「ならばその神徒は、この中の誰が召喚した者なのだ?」
問いが投げかけられる。
「……誰でもない。それを召喚したのは豹の王だ。彼はもういない。」
「豹の王か。滅んだ者に鞭打つ趣味は無いが、余計なことを」
嘲るように失笑が漏れた。
「何者だ?その神徒は」
「……どうでもよい」
「我ら7柱のうち、既に3柱が神徒の手にかかった。そして此度、2度も弑逆される事態となってしまった。ああ、嘆かわしい。」
最も年老いた声が呟く。
「奴らは何を為すつもりなのだ。本来主であるはずの我々に刃向かいうとは」
「理解できぬ。いや、だからこそ我々は奴等を召喚したのではなかったか。」
「……あれらが残り滓にかかずらうのであれば、我らに禍は及ばぬな。」
最初の声が皆を宥める。
「じきに豹の王も怒りと共に戻ってくる。神徒どもへの処罰は、彼がやってくれるだろう。」
場の空気が和らぐ。
「そう、使える神徒は一人でも残っていれば十分」
「抗うものから、一枝ずつ切り取ればよいだけだ」
「然り、然り」
皆の賛同を確認すると、最初の声が散会を告げる。
「……では、またいずれの時に」
4つの人影は同時に消え、後には闇に閉ざされた空間が残された。