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幸運のダーツ  作者: 大原英一
前説
7/19

7.再会

7 2013/08/25


 意を決して松垣シノブに電話した。もちろん同姓同名の別人である可能性もあるので、そこは慎重に。

 数回のコールで相手は出た。

「はい」

「もしもし……マンパワー・パラダイスの山元といいます。いま、お電話大丈夫ですか」


「はい」

「じつはオレ、以前システム・イーという会社でオペレータをやっていたんですが」単刀直入にオレは訊いた。「あなたも、以前あすこにいらしたのでは?」

「……ええ、そうですが」

 間違いない、あのシノブだ。が、電話の声では本人を想像するのは難しかった。そういえば、オレはほとんどヤツと口を聞いたことがなかった。


「あの事件をおぼえていますか。バスの入り口であなたと糸川キヌエが接触した……オレはキヌエの彼氏で、あの現場にもいました」

「……ああ……本当に……まさか」


 電話のむこうでシノブはなにやらブツブツ言っている。そして、ヤツのほうから切り出してきた。


「山元さんといいましたね……一度会って話がしたいのですが」

「オレもそう思っていました。できれば、あまり他人に聞かれたくないので、個室のある居酒屋で話したいんですが」

「わかりました」

 シノブはそう言った。


 その日の夜にシノブと会うことになった。場所は横浜だ。東口のX番出口を出たところで待ち合わせした。


 一九時の指定で一〇分前にオレが到着すると、シノブはもうそこで待っていた。

 あまり会いたくない、できれば一生会いたくない相手だが、事情が事情なので仕方がない。来週からこの男が職場へやってくるかと思うと、それだけで気が滅入った。

「どうも、山元です」

「……ああ、どうも」


 オレたちはほとんど無言で移動した。適当なチェーン店の居酒屋を見つけて、そこに腰を落ち着けた。個別のブースになっているので、まわりを気にしないで話せる。

 オレは生ビールを、シノブは飲めないというのでウーロン茶を注文した。


「山元さん、ボクはこれから、かなりおかしな話をしますが、気持ち悪がらずに聞いてください」

「ええ、いいですよ」

 覚悟はしていた。この場でこうしてシノブと対面していること自体、オレにも信じられないのだ。


「あなたの彼女……糸川さんは、ボクを針のようなもので刺した。そう、ダーツの矢です。このことを知っていましたか?」

 オレは黙って頷いた。


「そうですか。じゃあ、ここからが気持ち悪い話です。ボクには見えた、彼女がボクを刺している画が」

「は?」

「うしろから刺されたんだから、ふつうは見えるわけがない。でも、その画がはっきりと脳裏に浮かんだんです。同時に彼女の悪意が、ぶわーっとボクのなかに入ってきました」

 冷や汗が出てきた。こいつ、なにを言っているんだ……。


「そのあと、信じられない体験をしました。ボクが振り向くと、彼女の動きがスローモーションに見えたんです。彼女はうすら笑いを浮かべながら、ダーツをバッグにしまおうとしていました。本当にゆっくりとした動きです」


 シノブはウーロン茶をひと口飲むと、続けた。

「さすがに頭にきましたよ。ボクは思い切り彼女の顔面を殴りつけました。そしたらまた、ものすごいスローモーションで彼女が吹き飛んでいくんです」

「キヌエを殴ったことは認めるんだな? 刑事にも言わなかったはずだ」


「正当防衛ですよ」

 シノブは気持ち悪い笑い方をした。ヤツが笑うのを、はじめて見たかもしれない。

「正当防衛だって、じつは、最近気がついたんです」

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