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幸運のダーツ  作者: 大原英一
前説
6/19

6.高崎さん

 ひさびさに会う面子とはいえ、かつては一緒に仕事をしていた仲間たちなので、しゃちほこばる必要はまったくなかった。飲み会は楽しかった。

 皆それぞれ近況を報告したが、オレはただ転職したとだけ伝えた。わざわざ自分の不祥事を暴露することはないし、高崎もこれに触れようとはしなかった。

 ただ、帰りがけに高崎がつぶやいたひと言が、オレの心臓を鷲づかみにした。


「そうそう、松垣さん、仕事辞めたんですよ。クビになっちゃったんです」

「えっ」オレはつとめて平静をよそおった。「なんで?」

「もともとあの人、無口で人づきあいも愛想も悪かったし、ちょっと変わってたでしょう。それで、」高崎は少し声をひそめた。「あの事件の後くらいから、あやしい行動をするようになって」

「どんな?」

「なんか、あぶない物を持っているんですよ。……ダーツって、わかりますよね。あの投げるダーツ。あれを針がむき出しの状態で握っているの」


 オレは動悸を抑えるのに必死だった。ここでうろたえては、絶対にまずい。

「はあ、ダーツ」オレはビールをぐいと喉に流しこんだ。「なんでそんなものを」

「わかんないっす。で、上司からも注意を受けていたんだけど、ある日ついに……」

 と、高崎はさらに声をおとして言った。

「ダーツに赤黒い血みたいなものが付いているのを上司が発見して、即刻それを取り上げたんです」

「うっわ」オレはマジで卒倒しそうだった。

「で、とりあえず松垣さんはその日帰されて、もう次の日からは会社に来なくなったという……」

 オレは半ばうわの空で聞いていた。ただ、あの幸運のダーツはいま、それを取り上げた上司の手許にあるのか、とぼんやり思った。



 飲み会の次の日は休みだったが、オレの気分は沈んでいた。まさかシノブが、そんな壊れ方をしていたとは……。

 あるいはヤツはオレたちに恨みを抱き、この先復讐してくるかもしれない。オレはまだしもキヌエの身が案じられた。彼女を24時間守ってやることなど不可能だからだ。

 怖かった。いつ襲われるかもしれないという不安がつきまとう。考えても仕方ない……とはわかっていても、その考えが頭から離れない。

 そのときスマホに着信があった。剛流さんからだった。


「もしもし」

「お疲れさまです、剛流です。いま電話、大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です」

「来週からまた、ウチの新しいメンバーがそちらの現場に入りますので、フォローよろしくお願いしますね。ちなみにオペレーション経験者で、マツガキシノブさんっていう方です」


「えっ」心臓が口から飛び出るかと思った。「なんですって……松垣シノブ?」


「お知り合いですか」

 オレは呼吸を整えるのに必死だった。

「前の現場で一緒に仕事をしていた人で、同じ名前が」

「まあ、狭い業界だから、ありえるわね。尚更よろしくお願いします」

「あの、剛流さん」

「はい?」

「その松垣さんと、事前に連絡を取りたいんですが」

「え……なにか訊きたいことでも?」

「まあ、なんていうか、いきなり現場で再会するのって照れくさいじゃないですか。ちょっと話したいこともあるし」

「連絡先を教えるのは別に構わないけど。どうせこの先、一緒に仕事をするんだし」


 そしてオレは彼女からシノブの携帯番号を聞き出した。

「ありがとうございます」オレは言った。「もし別の松垣さんだったら、簡単にごあいさつだけしておきます」

「了解です」と剛流さん。「それじゃあ、来週からお願いしますね」

 電話を切ったあと、しばらく呆然としていた。

 一体どういうことだ。なぜシノブがウチの派遣会社に……。しかも、よりによってオレのいる現場に派遣されてくるなんて。

 偶然にしては出来すぎている。これは仕組まれた罠か、それとも復讐のはじまりか。

 いずれにしろ、シノブに電話して聞いてみなくてはならない。ヤツの真意を。願わくば同姓同名の別人であってほしいのだが。

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