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幸運のダーツ  作者: 大原英一
前説
5/19

5.剛流さん

 剛流と名乗ったその女性は、いかにもキャリア・ウーマンっぽく、黒のスーツがとても似合っていた。

「さっそくですが、お仕事を紹介させてもらってもいいですか」

「えっ」オレは仰天した。「だって今、荒井さんが……」

 すると彼女はしたり顔で微笑んだ。

「たしかに、荒井くんは立場上、厳しいことを言わざるを得ないかもしれないけど。だからといって山元さんにお仕事を紹介してはいけない、ってルールはないですよ」

「いいんですか、オレで」

「……コーヒー、お飲みになります?」

 なんだかよくわからないまま、剛流さんのペースに乗せられてしまった。


 来客用のいかにもインスタントっぽいコーヒーをオレにすすめると、彼女は本題に入った。

「山元さん、先の現場には結構長くいらっしゃったのね」

「ええ……6年ですか」

「ずっと印刷のオペレータを?」

「はい。おもに、それです」

「サーバの監視業務とかは?」

「あ、はい。以前は、やっていましたね」


 こんな感じでまるで医師の診察を受けるかのように、オレは自身の業務経験とスキルを申告した。

 剛流さんはファイルをぺらぺらと捲りながら訊いた。

「東京のM市なんだけど、通えるかしら」

「あ……はい、なんとか」

 勤務地としてはちょっと遠いと感じたが、この際贅沢は言えない。

「それじゃあ、お客さんに提案してみますので。また連絡しますね」

「よろしくお願いします」

 頭を下げて席を立とうとしたオレに彼女が声をかけた。

「山元さんなら、きっと(面接に)通りますよ」



 それから先はとんとん拍子に話が進み、オレはまんまと次の仕事にありつくことができた。剛流さん様々である。

 新しい職場は印刷ではなくサーバの監視や障害連絡がメインだった。これらはオレが前の職場で新人時代にやっていた業務なので、仕事をおぼえるのは早かった。

 慌しくも充実した日々が過ぎて行った。いつしかダーツやシノブのことも記憶の隅に追いやられて行った。キヌエのヘッド・ギアも無事取れた。


 いまの職場へきて半年が経とうとしていた。シノブの事件からも半年になる。彼のことは正直、忘れていた。そのメールが来るまでは。

 オレのスマホにメールが入っていた。キヌエかな、と思いきや差出人は高崎だった。

『お久しぶりです。今度、旧メンバーで飲み会をやるんですが、よかったら参加しませんか?』

 メールはそんな内容だった。


 高崎とは前の職場でわりと親しくしていた。

 オレはシノブの事件がもとでクビになったこともあり、ばつが悪くて高崎とも会っていなかった。が、いまとなっては別に気にしていない。久々に旧メンバーと会いたいと思った。

 旧メンバーというのは、前の職場でオペレータをやっていた連中(ちなみに全員、男)のことで、いまはそれぞれ別の仕事に就いている。

 高崎自身はまだあの職場に残っているが、オレも含めた旧メンバーたちが集まるための音頭を執ってくれているのである。

『了解です。ひさしぶりに皆に会えるのを、楽しみにしています!』

 オレはそんな内容のメールを返信した。


 2月のいちばん寒い時季だった。オレは高崎が指定した店へ行くために、小田原くんだりまで足をはこんだ。

 旧メンバーはこっちが地元のやつらが多く、仕方ないのである。

「お久しぶりです」

「お久しぶりです」とオレ。

 高崎はオレより5つ年下の30歳だが、互いに敬語で話している。

 もちろん、興が乗ってくると互いにタメ口になる。気心が知れている仲間というのはラクだ。

 集まったのはオレと高崎を含め5人だけだった。ちなみに高崎以外、全員OBだ。オレもヘンな負い目を感じずに済んでよかった。

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