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幸運のダーツ  作者: 大原英一
前説
2/19

2.作戦決行

 作戦決行の日がやってきた。オレもキヌエも、いい緊張感を保ったままこの日を迎えられたと思う。

 準備は万端、というか、準備することなど基本的になにもない。いつもどおり夜勤が終わって、いつもどおりシノブが動いてくれればいい。

 作戦時間はごくわずかだ。シノブが職場の建物を出て、バス・ロータリーに着くまでおよそ2分。

 その限られた時間内にきっちり仕事を果たす必要がある。

 送迎バスの発車時刻は9時30分。その15分前にはキヌエが現場にやってきている手筈だった。彼女には市営のバスと徒歩でここまで来るよう伝えてある。


 9時19分。オレは仕事を終えると急いで職場を出て、バス・ロータリーまでたどり着いた。

 キヌエが待っていた。

 送迎バスもすでに到着していて、ドアは開放され、運転手の姿もなかった。とりあえず、ここまでは完ぺきだ。

 タイム・リミットまで、あと10分を切った。もうすぐ、いつもどおりシノブが勇んでやってくる。それを願うしかなかった。

 オレは優しくキヌエの肩を叩いた。

「もうすぐだよキヌエちゃん、用意はいい?」

「う……うん。ヤバい、超キンチョーする」

 彼女はそう言って、ポケットから幸運のダーツを取り出した。


 来た、シノブだ。オレは30メートルほど先にヤツの姿を確認した。

「来たよキヌエちゃん。もうすぐ眼鏡をかけた五分刈りの、見ず知らずのAさんがバスに乗り込むからね」

 オレはとん、とキヌエの背中を押した。

「う……うん。あの眼鏡かけてる五分刈りね、茶色いパンツの」

「グッド・ラック!」

 親指を立てながら彼女にそう伝え、オレは灰皿が設置してある場所まで7、8メートルほど移動した。

 バスの入口のドアから1.5メートルほど離れてキヌエが待ち構える。彼女の高まる鼓動が聞えてきそうだ。


 シノブがバスの入口のステップに足をかけると同時に、キヌエがぴたりと彼の背後についた。

 一瞬、なにが起きたのか、わからなかった。

 キヌエの小柄な身体が吹き飛ばされ、背後にある金網のフェンスに叩きつけられた。


 シノブの姿はバスの中に消えていた。

 オレは急いでキヌエに駆け寄った。フェンスを背にして彼女は尻餅をついていた。

 ひどい、顔面が血だらけだ。鼻が折れているかもしれない。目を閉じたまま彼女はうんうんと唸る。

 携帯電話で救急車を呼んだ。そうするしかなかった。

 バスの発車時刻が近づき、運転手が戻ってきた。彼はすぐに異変に気づいてオレたちに声をかけてきた。


「どうしたの、それ」

「急に倒れて、顔を打ったみたいです」

 咄嗟にウソをついた。

「会社の人?」と運転手。

「ええ……いま救急車を呼びましたから」

「そうか、困ったなあ」

 運転手は頭を掻いた。

「ボクが看てますから、バスを出してもらって結構です」

「うーん、それじゃ、気をつけてね」


 送迎バスが発車した。とりあえずシノブと離れたかったのでホッとした。

 オレはキヌエを抱き起こしてベンチに座らせた。彼女はぐったりとオレにもたれかかり、まだうんうんと唸っている。

 救急車の到着を待つあいだ、オレは彼女の髪を撫でていた。

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