13.告白
13 2013/09/04
ついにオレは白状した。一本のダーツの矢との出会いから、これまでのこと、洗いざらい全てを。
刑事は黙ってそれを聞いていた。やがてオレの話が終わると、静かに口を開いた。
「なんというか……荒唐無稽な話ですなあ」
「オレは、オレの知っている全てをいま話しました。いっさい脚色していません」
刑事がちらりとオレを見る。
「なぜご自分と彼女の罪まで告白したんです? 別に黙っていても、よかったでしょうに」
「正直、迷いました。でもダーツの出どころを説明するには、これしかなかった」
「うーん」刑事は小さく唸った。「あなたは、ダーツの霊験を信じるんですか」
オレは苦笑した。
「オレもバカバカしいとは思いましたよ。しょせん、ただのオカルトだって……。でも、ここまで偶然や奇妙な出来事が重なると、さすがに気持ちが揺らぎます」
無言の刑事に対しオレは言った。
「刑事さんも、あの怪盗のことはご存知でしょう。オレは、あれもシノブじゃないかと思っているんですがね」
「予断はなりません」
「あの怪盗は」オレは興奮気味だった。「防犯カメラにしか映っていません。肉眼では確認できないくらい、素早く動けるのかもしれませんよ?」
「素早く……」
「そうです。シノブはオレにこう言いました。『ふり返ったとき、彼女の動きがスローモーションに見えた』と」
「は、は」
刑事は乾いた笑いをした。たしかに、こんなバカげた話をされれば、リアクションにも困るだろう。
しばらくの沈黙のあと、オレは訊いた。
「今回、なぜオレを調べようと?」
「あ、いや」刑事は急に素にもどったようだ。「松垣の身辺はほとんど調べてまわっていたんです。あなたが所属されているマンパワー・パラダイス社のかたにも、お話を伺いました。松垣は偶然にも、あなたと同じ職場へ派遣される予定だったとか」
「そうです、それがシノブと再会したきっかけです。こんな偶然が考えられますか? シノブはこれを幸運と言ってました」
なにかを考えている様子の刑事だったが、やがてオレに訊いた。
「幸運と超素早い動きと、どう関係があるんです?」
「さあ」
オレは言った。こっちが教えてほしいくらいだ。
オレも我ながら小狡いと思う。すぐに立件されないと承知のうえで、オレとキヌエの罪を刑事に告白したのだ。
当の被害者であるシノブがなんの訴えも起こしていないのに加え、彼はいまや渦中の人である。証拠品のダーツも紛失してしまったため、オレが自白した内容を立証するのは難しいとのことだった。
まあ、それでオレたちの罪が消えたわけではないけれど。
刑事にしてみれば、オレはそうとう胡散臭い存在だろう。シノブとグルだと思われても仕方ない部分もある。
オレは、オレとキヌエから目を離さないでください、と刑事に伝えた。シノブがまたオレたちに接触してくる可能性も、充分あったからだ。
三月ももう終わりだというのに、夜の寒さが身に堪えた。警察署を出て自宅のアパートへ帰ると、オレは浴槽に湯を張り、身を沈めた。
桜の季節になっても、シノブの行方は杳として知れなかった。例の怪盗も依然捕まっていない。
シノブは一体なにがしたかったのだろう。考えられるのは、ヤツがダーツに執着していたということだ。あるいは幸運という果実を誰にも渡したくなかったか。
結局ヤツは、暴力という手段にうったえてまで元上司からダーツを奪い返した。その結果、シノブは生涯追われる羽目になった。
ヤツは今ごろチンケな仮面を被り、逃げ続けるためにコソ泥を繰り返しているのだろう。問題は、ヤツが人ならぬ能力を手に入れているらしい、ということだった。そうでなければ、とっくに捕まっている。
オレもようやく気持ちが落ち着いてきたので、一連の事件について剛流さんに話してみることにした(もちろんオレが自白したことは内緒だ)。
シノブの件では彼女も事情を訊かれたりと、いろいろ迷惑をかけたみたいだし。




