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めぐり逢う恋  作者: 茶とら
第二章
46/47

彷徨と消失と1

 無意識に握りこんでいた魔石のブローチ。

 石という形をとっているけれど、魔石はまるで揺らめく炎をガラス玉の中に閉じ込めたような代物で、一時として同じ模様にはならない。

 閉じ込められた炎のような揺らめく模様は、いつもは穏やかに揺らめいているのに、今は魔石という形を止めようとしているかのように荒々しく激しく模様を変化させている。

 この魔石を作り出したのは目の前で倒れ伏している彼、フェルラートだ。

 魔石の模様の変化は、かなりの可能性でフェルラートに関係があるのかもしれない。

 すると、突然私の手にある魔石が奪われた。

「何故こいつの作った魔石を君が持っているのかな?」

 奪ったのは無論、窓から淡く照らす月の光をその身に浴びて大層妖艶な姿に見えるエドワードである。

 どうやら彼は私が持っていたブローチにはめ込まれているものが、フェルラートが作り出した魔石であることをすぐに気づいたらしい。

 厳しい表情でこちらを見据えていた。

「何故と言われましても、彼からもらったものなので持っているとしか……」

「へぇ。――――その経緯をお兄さんは知りたいなぁ」

 先ほど私に脅しをかけたよりも、さらに怒気が増した視線と声だ。

 言葉遣いはフランクな感じなのに、その雰囲気が物騒過ぎて冷や汗がとまらない。

 こういう所があるから頭のキレる美人様は厄介でいけない。

 見た目って本当に武器だと思う。

「弓の引き方を教えたお礼として貰っただけです。嘘じゃないですからね? 嘘つく意味は無いですし。本当に、どうして私がこんな大層なものをもらうことになったのか、私自身が一番よくわかってないんですから」

 先ほどの件もあり、半ばやけくそ気味にだから早くその殺気を引っ込めてほしいですと言おうとしたが、何故だかその答えにエドワードはぽかんとした表情を浮かべて、物騒な雰囲気はどこかへ消え去っていた。

「は? 弓?」

「はい。弓です」

 しばしの沈黙ののち、何故だか納得した表情を浮かべて、先ほどまでの険悪な態度はどこへいったのか。

魔石のブローチをすんなり返してくれた上に、何故だか頭をぽんぽんと撫でられた。

 何? 何かおかしな事言ったのだろうか? 私。

「どうも君はこちらが危惧していた事柄とは無縁だという事を今理解したよ。いやあ。すまなかったね」

 まったく意味が分からないまま頭を撫でられ続ける状態に、私はいったいどうすれば良いのだろうか。

 日本で生活していた記憶を含めても両親以外に頭を撫でられる経験など無いので、ものすごく反応に困った。

 しばらくどう反応しようか考えた挙句、出てきたのは何故頭を撫でられているかを聞く事だった。

「あの……。何故私は撫でられているんでしょうか?」

「ん? おや、なんでだろうね。うっかり奥さんにするのと同じことをしていたよ」

 そう言ってようやく私の頭からエドワードの手が離れた。

 この人、もしかすると奥さんには絶対べた甘になる人なのかもしれない。

 思わず知らなくても良かった情報を得た気がして微妙な気分になりつつも、少々名残惜しい気もしたりして、どうにも私の心境は複雑である。

 とりあえず、短いのか長いのかわからない間に、エドワードの大変物騒な奇襲を受けたり、フェルラートの身に異変が生じたりしたわけだが、ようやく今ひと段落したのだけはわかった。

「えっと、フェルは大丈夫なんでしょうか?」

「さっき見た限りでは特に問題は無さそうだったんだけど、少々心配ではあるね。君、えっと失礼……名前は?」

「カレンです」

「今覚えた。カレン、悪いけど従弟おとうとの様子をしばらく見ておいてくれ。ああ、別に一晩中起きてろと言っているわけじゃない。ここで一緒に寝ていてほしいというだけだ」

「――――はあ?!」

「ああ。別に夜這いをしろって話ではない。してもいいけどね。お兄さんは許します」

 さっきの物騒な奇襲からの変化がありすぎてついていけないんですがどうすればいいのでしょうか。

 流石にこんなタイプの人とは日本であっても出会ったことが無いので対処法がわからない。

 本当に何がエドワードに影響を与えたのか。わからなさ過ぎて逆に怖くなってきた。

「実際のところは、多少だが魔石の作り主と所有者の間で精神的な繋がりが生まれている可能性があるから、側に居るだけで変化に気づきやすいだろうって話で一緒に居てほしいという事なんだがね」

「はあ……」

「遠慮せずに夜這いしてもいいからね」

「――――しません」

 一体私にどうして欲しいのだろうかこの人は。謎だ。謎すぎる。

 任せたよと言って部屋を出て行ったエドワードを半ば呆然とした状態で見送った後、静かに眠っているフェルラートを見てしばし悩んだ後、隣の部屋から掛布団だけ持ってきて、それに包まり床で眠ることにした。

 やはりいろいろと騒がしかったせいか、体は疲れていたようで、眠気はすぐにやってきた。

 翌朝、目を覚ましたら、何故か目の前には大変惚れ惚れする鎖骨が見えて思考が停止した。

 いったい何故こうなった。

 まさか寝ぼけて本当に夜這いをかけたわけじゃないだろうかと必死に考えましたとも。

 しかし、この状況をすぐに解決する人物が部屋にやってきた。

「ああ……。その癖が出てるとはねえ」

 もちろん、その人物とはこの部屋の所有者であるエドワードである。

 癖ってなんだ癖って、と思いながらも、がっちり抱き込まれた状態のようなので身動きがあまりできない私は、少し首を動かし見下ろしている彼に挨拶した。

「おはようございます。エドワードさん」

「はい、おはよう。寝覚めはどうだい?」

「……微妙です」

「結構。とりあえず、すぐにこいつを引っぺがしてあげるから、そのままじっとしていなさい」

 そう言ったエドワードは、容赦なくフェルラートの頭をひっぱたいた。

 それは見事な一発だったため、間近で見てしまった私がドン引きしたのは言うまでもない。

 流石身内。どんなにきれいなご面相の持ち主であっても、やる時は遠慮も容赦もなしなんですね。

「起きるんだ、フェル。起きてさっさと彼女を放してやりなさい」

 痛みによるうめき声なのか、単に眠りが妨げられたことによる抗議の声なのかはわからないが、とりあえず小さく呻いた後に私を拘束していた腕の力が緩んだのがわかり、その隙をついてエドワードの手も借りようやく私は身を起こすことに成功した。

 一旦隣の部屋に戻って身支度を手早く済ませると、エドワードに弓の練習ができる場所が無いかを聞いてみたら、やはり砦というだけあって練習場はあるようで、すぐに場所を教えてくれた。

 部屋を出て行こうとすると、フェルラートも一緒に出ると言ったので、ともに練習場へと向かうことにした。

 向かう最中、やや不機嫌そうな雰囲気を醸し出していた彼を見上げてみれば、ふいっと視線をそらされた。

「エドワードさんと仲良さそうだね」

「悪くは無い」

「容赦ない一撃だったよね」

「痛かった」

「痛そうだった」

「痛かった」

 どうやら少々すねているような状態らしい。

 なんだかとてもかわいらしかった。

 練習場に着くと、そこに見覚えのある人物が居た。

「おはようございます。えっと……フェイさん?」

 彼はちらりとこちらに視線を向けて、小さくうなずくだけの挨拶をしつつ、手に持っているテーブルナイフらしきものを木でできた的に向けて一定間隔で投げ中てていた。

 全部で十二本。的心てきしん(的の中心のこと)に入っているのがそのうちの半分、的心ではないが的には中っているのが四本、残り二本が的近くに外れている。

 もともと弓用の練習場なので手投げするにしては距離としてはかなりある、それにまず中てる事が出来ている時点で尋常ではない。

「隣の的を借りてもいいですか?」

「お好きにどうぞ」

 冷ややかにそう答えたフェイは、的に刺さったナイフを取りに行ってしまった。

 私は了承を得られたので簡単に準備運動を済ませ、魔石のブローチから弓を実体化させ、弦を軽く引っ張り弾いた。

 軽い弦音が静かな練習場に良く響いた。

 しばらくフェルラートは私の練習を見ていたが、少ししたら練習場に置かれている弓を一張り借りてきたようで、それを使い自身の練習をし出した。

 私の弓と異なり、持ち手が弓の中央にある弓で、弦は耳の後ろまで引くことは無い。

 その分引き尺(弦を引く長さ)が私の弓よりも短いものの、弓の強さ自体が比べ物にならないほど強いようで、弦音がするのと矢が的に当たる音とがほぼ同時で、的に中った時の音も豪快だ。

 そしてその狙いも恐ろしく正確である。

 彼の射手としての実力は本当に素晴らしいものである。

「あなた方の射を見ていると、他の連中の射が屑のようですね」

 フェルラートの事はわかるが、自分自身の事については正直良くわかっていないので、気づけば完全に見学する側に回っていたフェイが言ったその言葉に、私は苦笑いするしかなかった。

「フェイさんのナイフ投げの技術の方が私には凄いなと思いますが」

「それに関しては当然だと言っておきましょう」

 自信たっぷりに答え、フェイがナイフをどこからともなく取り出し、クルリと指で回転させて見せた。

 軽やかに回転した装飾がほとんどされていない銀色のナイフが太陽の光を受けて輝く。

 その時、ふと妙な感覚に襲われた。

(違和感……?)

 どこに、あるいは何に、違和感をもったのかもわからなかったが、フェイがもう一度クルリと回転させたナイフを見て、その違和感にようやく気付いた。

「――――文字」

 ナイフには文字が書かれているように見え、思わずそれを声に出してしまっていたのをフェイが答えてくれた。

「CALL CODE」

 その瞬間、白と黒の何かの姿が脳裏をよぎり、大きな消失感が私を襲った。

まじないの文字ですよ」

 ここにあるはずの無い文字が、そのナイフに刻まれていた。

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