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めぐり逢う恋  作者: 茶とら
第二章
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束縛と幻想と5

 王都への道のりを正確に知るフェルラートが先頭を歩き、私がその後ろ、さらにジャックとエドガーが馬を引き連れ私の後ろに続く。

 私たちは陽が沈みきる前に幻夢草原を越えると、舗装こそされていないものの、地面は硬く邪魔になるごろごろとした石はしっかり横に避けられ歩きやすくなっている幅の広い道を暫く歩いた。

「次の町までは後半日程かかるはずだ。町に行くにはもう刻も遅い。このあたりで休んだ方が良いだろう」

 フェルラートの言葉に皆頷いた。

 恐らくよく休憩場所として利用されているのだろう。

 道の途中には、時折道幅よりも膨らんで道がならされている箇所があり、私たちはその一つで歩みを止めて休む準備を始めた。

「手慣れてますね」

「これでも森の中で狩りをして生活してたんですよ? これくらいは慣れてますよ」

「言われてみれば、そうでしたね」

 感心するようにしていた元衛兵の二人も、慣れた手つきで馬から荷を下ろして手早く寝床を作り始めていた。

 いち早く準備を終えたのはフェルラートで、流石の手早さで無駄が無い。

 自身の準備を終えれば食事をするための荷を広げ、私に声をかけた。

「何にする?」

「うーん。何にしようかなあ」

 料理と言うより、材料を単に煮るか焼くかの最低限の事しか出来ないフェルラートは、野宿の際の料理は完全に人任せである。

 そもそも最初の野宿の際に、彼は潔くこう言った。

「煮るのも焼くのも出来るが素材そのままの味しか出せない。味の調整は個人でやる事になるだろう。それでもいいなら自分が作ろう」

 私は丁重にその申し出をお断りして、食事に関しては全面的に引き受けようと逆に申し出た。

 そのため他人任せの態度になっているフェルラートを責める気は何一つとして無い。

 余談だが、ラスティとパーシヴァルの料理の腕前も興味本位で聞いてみた。

「ラスティさんはどんな食材をも炭に変える能力がある。パーシーは多少手が込んだ料理が出来るが全てにおいて大味だ」

 聞いてロズリーが食事担当をしていた理由を大いに理解したのだった。

 とにかく、素材の味を活かす調理方法が嫌なわけではないが、どうせなら少しでも美味しい食事を取ったほうが、旅の疲れも和らぐものだと思っている私は、同じ煮るでも、煮る食材と味付けには、少ない材料であっても美味しくなるようちゃんとこだわる。

 広げられた荷から、乾燥肉と乾燥させた果物、それとハーブを何種類か手に取り料理に取りかかった。

 だがそこで、困った事に気付いた。

 今晩は四人分を作らなければならないのだが、手持ちの鍋は二人用なので四人分となると鍋が明らかに小さいのだ。

「ジャックさん。エドガーさん。お二人は鍋ってもっていたりします?」

「鍋? ええまあ、ありますよ。小さいですが」

「構いません。貸してください。お二人の分をそれで作ります」

「え?」

 鍋を差し出してきたジャックが、きょとんとした表情を浮かべていた。

「我々の分も作ってくれるんですか?」

「そりゃあもちろん。一緒に旅をしてるんですから、わざわざ別々のものを食べる必要は無いじゃないですか」

「え、あの、いや……でも」

 何故かおろおろし始めたジャックの手から鍋を受け取り、私とフェルラートが使っていた鍋の横に置いて材料を詰め込んで、水と香辛料をそこに加えて蓋をする。

 あとは鍋を火にかけ煮詰めるだけだ。

 クリスティーヌとファルセットと共に旅をしていた間は、むやみに面倒事を引き起こしたくは無いという理由で極力火を使わない料理をしていたが、フェルラートと旅をし初めた時からは、ちゃんと火を熾して調理をしている。

 どんなときにどう対処すればいいか、訓練によって身についている彼からしてみれば、逆に警戒すべき時を明確にしてもらった方が助かるのだと言う理由からだった。

 私としても、都度温度調節をしなければならない調理方法よりも、火を熾してそれを使う方が俄然楽なので、フェルラートの言葉に甘えている。

 暫く煮詰めて頃合いを見計らって鍋の蓋を開ければ、食欲をそそる香りが鼻をくすぐった。

「はい。簡単なものですけど、どうぞ」

 全員の器にスープをよそいで差し出せば、フェルラートは無言で受け取りすぐに食べ始め、ジャックは何故か目を潤ませ器の中身をじっと見つめた後、物凄い勢いでかき込み始め、エドガーは嬉しそうな表情を浮かべて食べ始めた。

 あっという間に食べ終えた男性陣は残りを自分たちで余所って全て奇麗に平らげてしまい、私のおかわりは見事に無くなってしまった。

 まあ、多少物足りない感はあるが、皆が残さず食べてくれたことに対して悪い気はしなかったので、それくらいはよしとしようと思う。

「暫くは我々男だけで見張りをしましょう」

 手早く食器や鍋を片づけていると、男性陣がエドガーの提案に無言で頷いているのを目にし、己の目を瞬かせた。

「別に女だからとか気にしなくてもいいので、私も……」

「そう言う問題じゃない」

 鐘を打つように返されたフェルラートの言葉は思いのほか強くて驚き、片づけの手が思わず止まった。

 その止ってしまった手からまだ奇麗にしていない鍋がジャックの手により奪い取られ、私は手持ち無沙汰になってしまった。

「ご飯。おいしかったです。だから、見張りも片付けも我々がやります。その代り、明日の朝食をお願い出来ませんか?」

「え?」

「胃袋を掴んだが勝ちってやつですよ」

 いまいち訳がわからないまま、私は夜の見張り番からほぼ強制的に外されることとなった。

 眠りを途中で妨げられないと言う点では凄く嬉しい事なのだけれどね。

 それから、ぐっすり眠り夜が明け着る前に私は目を覚ました。

 その時に起きていたのはフェルラートだけ。

 聞けば早朝に弓の稽古をする私の日課につきあう気で、それに合わせるように当番を受け持ったらしい。

 案外ちゃっかりしていると言うか何と言うか……。

 外套を留めるようにつけていたブローチにはめ込まれている魔石に左手で触れて、魔力を少しだけ送り込む。

 すると、青紫色の炎が現れ、それが弓の形をつくり、その炎が消え去った時には何時も通り、手に馴染みの弓が現れていた。

 弓が握られた瞬間、フェルラートが息を詰まらせ激しい痛みに耐えるような険しい表情を浮かべたのだが、その時の私は彼に背を向けていたため知りえなかった。

 この時それに気付いていれば、彼の苦しみを長引かせる事も無かったかもしれない。

 けれど、結果的には彼の苦痛を長引かせ、一番不快な人物と相対する時にそれに気付く事になり後悔する羽目になったが、所詮それは結果から見た話で、この時の私は何も知らなかった。

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