表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めぐり逢う恋  作者: 茶とら
第一章
4/47

旅立ちと現実と1

 弟のロズリーが従者となるべく村を発ったのは一年前になる。

 夢を叶えるために、村で懸命に努力していた姿をしっていたから、その夢が近付くように協力出来た事が嬉しかった半面、自分はどうしたいのかを考えるようになった。

 村での生活は楽しい。

 家族が居て、見知った人々が居て、安心できる場所。

 父と狩りに出て、母の手伝いをして、妹の我儘に付き合って、村の子どもたちの面倒を見て過ごす日が退屈だと思った事は無い。

 だけど、ふとした瞬間思ってしまう。

 私は本当は、何がしたいの? って。

「ああ。夢を持ってそこに向かって行ってるロズリーが羨ましい」

 羨ましいと思えてしまうくらいに、私自身もそんな必死になって叶えたい夢が欲しいと思ってしまうのだ。

 この感じ、どうも就職活動を思いだす。

「うう。……悪夢だっ」

 別に就職活動で凄く困った事は無い。

 技術職は基本的に、入りたいと思う会社が望む技術を身につけてさえいれば、何十社も面接を受けないと受からないような状況には為らない。

 私は元々技術職を目指して、そのための学校を選んで就職に望んでいたから、就職活動なんてあっさりしたものだった。

 だけど、悩みは後から後からついてくるもので、これでいいんだと思っても、何時も「本当にそれでいいの?」という疑問視する自分の声が聞えるのだから質が悪い。

 本当は石橋を叩きまくって安全を確保して渡りたいのに、常に綱渡りをする羽目になっていたのが嘗ての私だ。

 そういう意味では、私はとっても憶病な人間なんだなと痛感してしまう。

 この性格で損した事がどれだけあった事か。

 主に恋愛面でだけども。

「なんでもある世の中では、より自分に有利になる様な仕事につかなきゃやってられないってのもあったし、興味のある物を取ってあのシステムエンジニアだったわけだけど、この世界は全然違うからなぁ」

 この世界では、この世界に無い単語は口に出しても相手に聴き取れないようになっているようで、上手く疑似的な言葉に変わったり、本当に聞えない状態になったりする。

 きっと、この世界の理に反する事なんだろう。

 だけど、自分の中ではその言葉はしっかり言えるし理解が出来るので、一人思考する時は日本で使っていた用語がいっぱいになることもままあるが、それは余談だ。

「どーしたもんかなあ。やりたい事……やりたい事……うーん」

 枕を抱えて悩んで見ても、まったくもって結論が出ない。

 もう、これは今のままじゃどうしようもないなと思い悩んでいた時期だった。

「カレン。ロズリーからの手紙よ」

 定期的に送られてくる弟からの手紙には、ちょっと大変だけど、ちゃんと夢に向かって頑張ってますという内容が書かれてくる。

 嘘が下手な上に口下手な所があるので、きっとそれは真実に違いない。

 時折ラスティからも手紙が届き、解読するのに大変時間のかかる優雅で詩的な内容からも、ロズリーの頑張りが裏付けされる形でちゃんと記されているのであまり心配はしていない。

 ラスティの文才に関しては少々心配であるが、女性を口説くのには大変有効そうであるのは毎度の事ながら読み取れるので気にしない事にした。

 ちなみに、ラスティから送られてくる詩は妹のリズが大好きだ。

 内容を解釈してやったら「私の夢を壊さないでっ!」と悲鳴に近い言葉を言われてしまったので、解読し終えて読み終わったら何も言わずにリズに手紙を渡す事にしている。

 大分話がそれてしまった。

「ロズリーから? この前届いたばかりじゃなかったっけ?」

 今回の手紙は定期的に送られてくる手紙にしては早すぎるものだった。

 何かあったのかと思って封を開けると、その内容に思わず笑みがこぼれる。

「お母さん。ロズリーが帰ってくるって!」

「あらっ! まぁ、まあっ! お父さん! ロズリーが帰ってくるんですって! お父さん!」

 母が慌てて畑に出て居る父を呼びに行き、その母の声を聞いて妹のリズが二階から駆け降りて来た。

「ロズリーが帰ってくるの!?」

「うん。そう書いてある。来るのは手紙を投かんしてから十日後ってなってるから、明後日ってことかな? あ。ちょっと待って。ラスティ様とフェルラート様、パーシヴァル様も一緒に来るみたい。何でかしら?」

 そう呟いた所でリズが目に見えて慌てだした。

「ラスティ様が来るのっ!? ど、どうしよう! 明後日なんて、早すぎるわっ!!」

「ちょっと、リズ。落ち着いて!」

 バタバタと部屋に駆け戻って行くリズを呆気に取られつつ見送って、きっと部屋中ひっかきまわすんだろうなとわかりきった未来を予想してため息をついた。

「これじゃあ、おちおち自分の事で悩んでも居られないわ」

 父が玄関を開けた状態で靴の土を落としながら呆れた顔で私に尋ねてきた。

「今度はどんな夢物語に騒いでいるんだ? うちのお姫様は」

「……さあ?」

 私は肩をすくめてそう答えるしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ