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めぐり逢う恋  作者: 茶とら
第二章
29/47

迷いと信頼と2

 明確な記憶はない。

 けれど曖昧ながらも感覚としては何かが起きた事を感じていた。

 もう一度同じ事が起こればわかるかもしれない。

 けれど、同じ事を起こすために同じように命を狙われなければならない事態が起きなければならないのであれば御免被りたいところだ。

 だから今はただ、わからない、そう答えるのが一番自分にとって都合が良い気がしていた。

 良くも悪くも。

 フェルラートはそんな私の思いを理解したわけではないだろうが、深く追求しはこなかった。

「それにしても、あんたの魔法の使い方は独特だな」

「そうかな?」

 視界をさえぎる物がほとんど無いあぜ道を、私の歩調に合わせるかたちで、フェルラートと共に進む。

 景色が殆ど変わる事が無くなって大分立つが、聞けばまだもう少しこの状態が続くらしい。

 少し景色には飽きてきたものの、隣を歩くフェルラートとの会話に飽きが無いので、景色が変わらなくても何も問題はなかった。

「私にとっては普通なんだけど、何故だか皆にそう言われるのよね。何でだろう?」

 私の魔法の使い方はどうやら変わっているらしい。

 以前、料理で魔法を使った時にクリスティーヌもそんな事を言っていたし、そう言えば、薬草を取りに言った時にもフェルラートは似たような事を言っていた気がする。

 どこが変わっているのかまったく見当がつかないから、私は常に首を傾げるしかないのだが、暫く黙り込んだフェルラートが、上手くは言えないがと前置きをしながらも言った。

「魔法という力は強い。強いからこそ、その力で別の力をねじ伏せるような使い方が最も主流になっている。自分の知りうる限りでは、そういった使い方では無い魔法はひどく少ない。だが、あんたが使う魔法はそういった使い方とはどこか違う。魔力の強い弱いと言う話とは違った次元の話だ」

 彼はそう言って、己の手を見つめた。

 その表情は複雑で、寂しくて、悲しくて、嬉しそうで、怒っている。そんな風に見えた。

 そう言えば、フェルラートも魔法が使える者のはずだった。

 なのに、私は彼の魔法を使っている姿を見た事が無い事にその時気付く。

 魔石をつくりだせるほどの魔力の持ち主なのに、彼はあの近衛騎士だと言っていた追手との戦いでは魔法をつかわず、腰にはいた剣を使っていた。

 単に使う必要性が無いだけだったのか、それとも何か理由があって使わないのかはわからないが。

 私の視線に気付いたのか、フェルラートは小さく首を振って、何故か不安げな様子を隠す様な事はせずに、私に目を向けてくる。

「あんたのように魔法を使えれば、自分もまた、今とは違っていたのかもしれないな」

「……え?」

 小さく吐かれた彼の吐息は細く切なげで、凍てつくような冷やかな容姿が、今は彼の姿をとても儚く見せていた。

「魔法が扱えていたときには気付けなかった事を、扱えなくなった今になって気付く事が多すぎて困る。今、気付いた事を実現させようと思った所で、何一つとして実現など出来やしないのに」

 吐露するような言葉に、私はどうしていいかわからず、ただただ彼の言葉を聞いているしかなかった。

 その時ふと過去の出来事が頭をよぎる。

『ねえ、聞いてくれる? いや、聞いてくれるだけで言いわ』

『むしろ聞けよと言っているように聴こえるのは私だけかな?』

『そんなまさか! でも聞いてくれるでしょう?』

『そりゃあ聞いてあげるとも。で、何だ?』

『ついに私にも彼氏が出来たの!』

『おお! そうか。おめでとう! ――――で?』

『それだけよ!』

『ああそうかい』

 嬉しそうな表情を浮かべる友人を見て、置いていかれたような寂しさを感じながらも、嬉しそうな友人の事を自分も嬉しく感じていた記憶。

 そして――――。

『誰よりも先に伝えたかったの!』

『きっと聞いてくれると思ったから』

『信じてくれるって思えたから』

 時に残酷な言葉となって私の心を襲ったその言葉。

『だって、一番信頼できるんだもの!』

 信頼と言う言葉で、私は手の足も出せなくなっていて、ただ側で笑っていた記憶と、信頼と言う言葉でどこか救われていたと思う記憶が交錯する。

 全て過去の出来事なのに、今この瞬間と重なった。

 共に過ごした時間は思えばとても少ないのに、フェルラートにそんな言葉を言われたらと思うと、なんだか少し腹が立った。

 それなのに、私は何一つとして彼に言う言葉を見つけられず、言ったっきり黙り込んだ彼の横を静かに歩いているしかない。

「――――魔石」

 ぽつりとつぶやいた彼の言葉で私は顔を向ける。

 少し陰り始めた陽の光が、元々奇麗過ぎる彼の顔立ちを照らして、幻想的な雰囲気をつくりだしていた。

「魔石をつくりだす事が、今自分に出来る唯一の魔法だ」

 そして、そんな彼が笑むと、その迫力は凄まじかった。

 思わず目をそむけたくなるほどに奇麗で、でも、いや、だからこそ、目が反らせなかった。

 ひどい話だ。自分の意思で、目を逸らす事すら自由に出来ないなんて。それこそなんの魔法だろう。

「唯一使える魔法があんたの手にある事を、そして、あんたを護るために使える事を、自分は今嬉しく思っている」

 私は彼を見上げるしかなくて、瞬間的によぎった過去の記憶を、半ば強制的に、ある意味暴力的な程に絶対的な上書きをしていくこの目の前の人物に、私はそれこそどうしていいかわからないでいる。

「嫌なら何時でも捨て置いていい。だが、嫌でないなら持っていてくれ」

「――――もちろん」

 なんとか答える事が出来た言葉に、彼はさらに笑みを深めて、どこか上機嫌になり、そして何故か歩む速度を少し早めた。

 思わず置いて行かれそうになった私は、慌てて歩む速度をあげる。

「ちょっと!」

「気にするな」

「いや、訳がわからないんだけど!?」

 フェルラートとの旅は、どうやら前途多難になりそうな予感がした。

 主に精神的な意味で、だけれど。


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