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めぐり逢う恋  作者: 茶とら
第二章
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隙と迷いと

「だからさ。理想が高すぎるのよ」

「別に高く無いってば」

「いいえ! 高すぎますっ!」

 休日の昼下がり。

 十年以上もの付き合いとなる女友達と、最近の出来事や他の友人達の様子を知っている範囲で教え合いながら、お気に入りのカフェでケーキと紅茶を楽しんでいると、必ずと言っていいほどに恋愛話が話題に上る。

 やれ、だれそれに彼氏が出来た、ついに別れた、今度結婚するのは誰だと話してゆけば、自分の話ももちろんする事になる。

 システムエンジニアという職業についた女性は不遇だ。

 否。システムエンジニアと言う職業についてしまった私は不遇だ、と言うのが正しいのか。

 よく、男には困らなそうだとか、なんて恵まれた環境に居るんだと言われるが、別に恵まれた環境にいると思った事はついぞない。

 見事なまでの男社会だが、完全実力主義の社会でもあるため、良くも悪くも男女の差別は殆ど無い。

 残業、徹夜は当たり前で、それを幾つも乗り越えてゆき、次々に湧いてくる仕事を蹴散らす様にしてこなしていくことで、どんどんと強かになってゆく性格に、随分と逞しくなったと思った時にはもう遅い。

 男女問わず職場で苦難を共に乗り越えた人は皆戦友だ。恋などそこに欠片も無い。

「色々出来過ぎなんですってば」

「そんなことはないってば」

 システムエンジニアに平穏な日など殆ど無い。

 電話が鳴れば、それは有事のサインと言っても過言ではない。

 頻繁に起こり過ぎる有事に全力で対応する生活をしていたら、大抵の事は出来る様になっていた。

 分刻みのスケジュールをこなす事も余裕である。

 パソコンは相棒。残業と徹夜はお友達。パッチ(ソフトやアプリケーションの不具合を修正する小規模なバージョンアップ的なもの)は罪。スケジュールは敵。犯人は客先。無理無茶無謀は迷惑なご親戚といった感じである。

 あげただけで涙が出てきそうだ。

 私の生活はそれが普通なので、友人達が大変だったと言っている事柄も、私にとってはそれぐらいが普通の出来事になっている事などざらなのである。

 話の腰を折る気はないので、皆が大変だったと言う事には頷き、辛かったという事にまた頷く。

 そして、悩み事があれば、何時も自分がやっている術を教えてやれば大抵は解決してしまう。

 友人達は、そんな事の積み重ねで、大抵なんでも出来る私を頼って、また無茶な事を言いだして、私はそれを引き受けてやれば出来てしまう。

 そういって、どんどんどんどん出来る事が増えていき、いざ理想の彼氏は? と言われれて「自分が出来ない事が出来る人」と答えれば、理想が高いと怒られるのだ。

 ひどい話である。

 まあ、だからと言って友人達を責める気は無い。

 なんだかんだと、こんな器用貧乏な自分が嫌いでは無いので、なってしまったものは仕方が無いと思い、それならそれで楽しい日々を送ろうと努力すればいいだけなのだから。

「最近は、自分とケンカ出来る人が理想だよ」

「それ、全然前と変わってないから。ケンカって、お互いにぶつかりあうだけの力関係が無いと成立しないんだからね?」

「そう言われてみれば、そうかもねー」

「ちょっとは真面目に考えようよー。私、花蓮さんには凄く助けて貰ってるから幸せになって欲しいのに、当の本人がそんな調子じゃ全然だよー」

「とはいっても、本当に理想が思い浮かばないんだもの。大抵の事は自分で出来るから、わざわざ誰かに出来る事を代理でやってもらっても嬉しくないしさあ」

「だからほら、そこはもうちょっと理想を下げて妥協しようよ!」

「人生最大の問題を妥協したら恐ろしく後悔しそうだからヤダ」

「あうぅー。それは否定できないー」

 ここ最近はずっとこんな調子で私の恋愛話は終わってしまう。

 何がどういけないのかがわからないままに話は終わってしまう。

「流石にもう結婚を考えなきゃいけない年だからさ、色々考えたわけだよ。私なりにさ」

 友人と別れて一人になって、そこで誰に聞かせるでもなくひとりごちる。

「モテる子ってのはさ、隙が大きいんだよ。そんでもって、男の人はその隙を埋められる力を持ってさえいれば、その子の役にたてるから好きになれるんだ。そりゃあ自分じゃ役に立てないとわかる子に男の人はわざわざ近づかないよね。男の人って、プライド傷つけられるの嫌がるし」

 自分で言っていて相当凹む内容である。

「あとよく迷子になる子もおんなじか。迷って、本来は行かなくて良い所に行って、そこで偶然出会うとかね。あるある」

 考えてみれば、気づけば無駄に色々出来るようになっていて、不要な道順を出来るだけ省いて最短距離を行くようにしていた気がする。寄り道とか全然してなかった。

 ――――うん。泣いてもいいですか?

 思わず大きなため息がこぼれた。

 別にそこまで顔が悪かったり、スタイルが悪かったりするわけじゃないとは思うし、性格だって、社会一般的な意味ではそう悪くないと思うし、悪いと言われた事も無い。

 なんて言えばいいのだろうか。

 ちょっとボタンをかけ違えたとか、歯車が一つ噛み合わないとか、そんなレベルの話のような気がしてきた。

 何かが出来るようになる前に、手を貸してくれる誰かが居てくれればよかった。

 歩き出す前に、手を引っ張ってくれる誰かが居てくれればよかった。

 そんな感じ。

 今でもそう。

 恋に対してはただ、必要だと思った時に必要な人とめぐり逢えていないだけ――――。

 ただそれだけな気がする。

「私の恋はどこだー」

 小さな声でつぶやいて、恋人達が増えてくる夕暮れ時の帰り道を一人しょんぼりと歩いて帰った。

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