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めぐり逢う恋  作者: 茶とら
第一章
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変化と災いと3

「精霊の加護を受けているのが原因だなんて……解せないわっ」

 精霊ミスティレイに挨拶をした後、恰幅が良く穏やかな女主人が営む小奇麗な宿の二階の一室を今晩の宿として取った私たちは、荷物一式を下ろして一息ついた。

 私とファルセットの場合は大きなため息と相違ないものだったが。

「加護というよりも、精霊による過剰防衛とか、そんな表現の方があっている気がするわ……」

 ミスティレイの話を聞いた直後のクリスティーヌが引き起こしたスコールのような豪雨に見舞われた後だからこそ、余計にそう思う。

 眉を吊り上げ怒りだしたクリスティーヌの感情、その感情のたかぶりに反応した水の精霊による、過剰な加護の発動によって引き起こされたのは豪雨。

 精霊ミスティレイによってその規模は町まで届かないように防がれていたが、その分、局地的となった降水量は半端じゃなかった。

 本当に一瞬にして全身ずぶ濡れになるほどひどかった。

 思わず手加減なしでクリスティーヌの頭をはたいてしまった。

 水をたっぷりと含んだ服を身につけた私の加減なしの一撃はきっと痛かったに違いない。

 正直、叩いた時の手が物凄く痛かったし。

 まあ、そんな事が起きはしたが、精霊ミスティレイの話とクリスティーヌが引き起こした豪雨、その現象から少しだが分かった事もあった。

 クリスティーヌに与えられている加護は、その土地柄によって最も影響力の大きい属性の力が優先的に発動するようだという事。

 精霊は基本的に土地に着くと言われている。

 ファルセットは召喚される事で森から離れるに至ったが、実体を持たない時のファルセットは森から離れることは無かったと言っていたし、この町に加護を与えているミスティレイも、湖で生まれた精霊であり、そこから遠く離れた場所に行った事は無いと言う。

 それは少し考えれば当然と言えば当然だろう。

 生まれた場所は、そこで生まれた精霊にとって生きやすい環境なのだから、わざわざ離れる理由は無いのだ。

 稀に生まれ育った土地から離れる精霊もいるが、そういった精霊も生きやすい環境を見つければそこに留まる。

 精霊の生きやすさは魔力の影響が最も強いとされているので、精霊の属性が土地の属性であり魔力の属性とも言えるのである。

 つまり、土地の影響を受けた精霊が集まり、精霊の加護を受けた者がその土地の属性に会えば加護も強まる、という事にもなるわけだ。

 なんだかややこしいが、「土地の魔力属性=精霊の属性=加護の属性」という感じの繋がりがあるので、土地柄の影響を最も受けるのではないかという事だ。

 今回は水の加護が与えられている町の中であったために、豪雨という形で加護が働いたわけである。

(しかし、単なる豪雨で留まって良かった。氷とか飛んできていたら、私普通に死んでるよ)

 クリスティーヌの災害を引き起こす体質が、まさか精霊の加護によるものとは思いもしなかったが、原因が分かったところで魔法の制御をどうするか、という点は大きく変わる事は無い。

 自分自身を律する事。

 簡単に言えば、我慢する事を覚える事だ。

 クリスティーヌが災害体質から抜け出すには、これをどうにかするしか術は無い。

「とにかく最初は我慢ね、我慢」

「……善処するわ」

 我慢し続けたらそのうち爆発しそうではあるが、最初から往なせというのは難しいと思うので、そこは妥協しようと決めた。

 爆発した時に被害を被るであろう自分とファルセットとその他見知らぬ誰かに事前に謝っておくとする。

 ごめんなさい!

「あれ? カレンさん。なんか光ってませんか?」

 ファルセットが私の荷物の方を指さして言った。

 顔を向ければ確かに、私の荷物の何かから光が漏れ出ている。

 でも、そんな光る代物は持っていないはずである。

 不思議に思って荷物を広げると、思わず小さく声をあげて驚いてしまった。

「ブローチが……」

 それは、フェルラートに貰った、魔石がはめ込まれたブローチだった。

 青紫色の炎のように静かに揺らめきを持った魔石が、今は燃え盛る炎のように激しく揺らめいて、強く強く輝いている。

 手にとって魔石の中を覗き込むようにしてみれば、突如頭の中に聞き覚えのある声が響いてきた。

『……ふざけるなっ!!』

 元々口数の少ない人で、どんなことにも動じなさそうな雰囲気の彼が、恐ろしい剣幕で怒鳴っている声。

 聴こえたのはそれだけだった。

 激しい揺らめきは変わらないが、すっと光は失われてゆき、彼の怒鳴り声に自然とドクドクと激しくなった自分の心臓の音が煩いくらいに聞え出した。

「何なの……?」

 これは何かの予兆なのだろうか?

 それとも今まさに、この魔石をつくりだした彼に何かが起きていると言う事なのだろうか?

「どうしたの? 顔色、物凄く悪いけど……?」

 クリスティーヌの声に、私はただ、「わからない」と答えるしか無かった。


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