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めぐり逢う恋  作者: 茶とら
第一章
14/47

変化と災いと1

 鳴り響く轟音。

 ひび割れる大地。

 倒壊する建物。

 泣き叫びわめき、逃げ惑う人々。

 そしてその光景を見て現実逃避をする――――私。

「私は今何も見えない聴こえない」

「そんな事言って無いで早くなんとかしてくださいよっ!?」

 半泣きのファルセットには悪いが、本当にもう関わり合いたくない。

 村をでてたかが三日間。されど三日間。

 旅の疲れなんて何それあんの? 的な、精神と肉体の疲労が極限にまで達している今、正直な所、全てにおいてもうどうにでもなれ状態である私に、一体何を期待しているというのか、この精霊は。

「災害っていうのはさあ、いかに遭わずして過ごすかを考えるんじゃ駄目なんだよ。災害が起きたときにいかに対処すべきかが重要なんだ。というわけで、頑張れ民衆。私は全力で応援はしています」

「他人ごとダメー!」

 本気で泣きに入ったファルセットを見やり、天を仰いでため息を付くと、仕方なく対策を考えて見ることにして――――。

「ああもう、面倒くさい」

 面倒くさくなった。

 私の性格は面倒くさがりで、怠け者。

 だから、面倒事を避けるため、怠ける時間を増やすためになら全力を惜しまない。

 自分で言っててなんだが、結構馬鹿げた性格である。

 だが、この性格ゆえに、比較的何でも自分一人で出来るようになったのは確かだろう。

 放置しておけば絶対に面倒な事になると思えば手助けをしたし、対応もした。

 それがさらなる面倒事に巻き込まれる要因を作っていたのでは? と今では思う。

『何かあれば花蓮に頼めば一刀両断よねっ!』

 邪気のない笑みを浮かべて友人が言ったものである。

 その言葉に密かにげんなりした事が何度あったことか。

 本末転倒も甚だしいとはこのことである。

 そして、その記憶を持ったままこの世界に生まれた自分は、残念ながらその性格をそのまま引き継いでいるため、厄介ごとにはこうしてまた頻繁に巻き込まれる事になったのではないかと今さらながら思う次第である。

 大きくため息をついた後、仕方なく私は左手を天に向けて掲げ、そこでパキリと指を鳴らした。

 それにより、ある局地部、すなわち現状災害の原因となる場の上空に人一人分ほどの水の塊が生まれる。

 そして、掲げた左手を顔の前ほどの高さまで指揮棒を揮う様に鋭く振り下ろした。

「ひゃあ!?」

 まあ単純な話、災害の原因を作り出した魔女クリスティーヌの頭上から、洗濯用たらい一杯の水を頭上から落としたのと同じ効果をもたらしただけである。

 この国には四季はあるが、日本のように明確な四季は感じられない。

 春と秋が長くて夏と冬が短いため、年間を通して肌寒い季節はかなり短いもので、現在は夏に向けて少し暖かさが出てきた時季であるため水をかぶった所で風邪を引くとかそういった類のことはそれこそ元々病弱だとか体調を崩しているような時でない限りは何も起きないはずだ。

 なので、問答無用である。

「とりあえず、頭を冷やそうか」

 冷やすといえば水だろう。

 かなり短略的だが意外なくらいに効果があった。

「何っ!?」

 全身びしょ濡れになったクリスティーヌは怒りによって発動していた魔法を瞬時に解いて周りを見渡したので、側に歩み寄り、ほとんど変わらない背丈である彼女の頭を軽く叩いた。

「即刻元に戻せるものは元にもどしなさい」

「ちょっと、今のアナタがやったの!?」

「それが何か?」

「びしょ濡れになったじゃないっ!」

「乾かせばいいでしょそんなもん。とにかく今はさっさと元に戻せるものを戻しなさい」

「何でアナタなんかに指図されなきゃ……」

「いいから、やれ」

 多少イラついて浮かべた笑みが引きつった。

「……わ、わかったわよ」

 どうにか頷いたクリスティーヌは、地割れや倒壊しなかったがひび割れなどが起きた建物に対して補強を行う。

 ファルセットも一緒にその作業を手伝った。

「終わったら早々に町の外に出ること。くれぐれもこれ以上騒ぎを起こさないように。いい?」

 ぶすっとした表情ながらも了承したクリスティーヌと、我が事のように受け止めてしっかりと頷いたファルセットを残し、私は少し落ち着きを取り戻し始めたこの町で必要物資の購入に向かった。

(どうせこれじゃあどこにも泊まらせて貰えないだろうしね)

 故郷である村の隣町から徒歩で三日。

 初めて訪れる町に驚いて早々に巻き起こった先ほどの出来事を思い出して、私はもう一度深く大きくため息をついた。





 生まれ育った村と、その隣町しかしらなかったため地名に関して特に気に止める事もなく、村と町という表現だけで生活できていたのだが、外の世界に出てしまえば地名が無いと言うのはやはり不便である。

 日本の様に統率された国であっても無名の島があったように、名前と言うものは、必要が無ければ付けられないし、それで困る事が無いのである。不思議なものだ。

 村にあった本に書いてあった事を、実は結構誇張されているものだろうと思って半分は冗談だと思って読んでいて、この国の名自体も疑っていたのだが、国名は本に記されているものと相違がなかったようで、この国は【因果のいんがのくに】と呼ばれる国なのだそうだ。

 元々はどこかの詩人がそうこの国を評したことから広まった言葉が、そのまま国の名になったらしいのだが、詳しい所はあまりよくわかっていないらしい。

 因果という言葉自体は「原因と結果」を意味する言葉だったと記憶している。

 善い行いをすれば良い事が、悪い行いをすれば悪い事が巡り巡ってそのまま自分に返ってくるということわざも、たしか日本にはあった気がする。

(巡りに巡って自分のところに返ってくる、か……)

 なんとなく引っかかったその言葉に内心首を傾げたところで、前を歩いていたクリスティーヌが足を止めたので、私も同じく足をとめた。

「お腹がすいたわ」

 騒ぎを起こして早々に町を出た私たちは、あまり会話もせずに次の目的地までひたすらあるいていたが、気づけばもう夕暮れ時。

 そろそろ寝る場所も探さないといけない頃合いであるため、私は頷き街道から少し離れた場所で開けた場所を見つけたためにそこで荷を下ろして食事の準備をはじめる。

 魔法が使える者が居るため、女一人で旅をしているものも少なくはないこの世界で、女二人と少年の見た目を持つ精霊一人が旅をしていた所で奇異な目を向けられることが無いのは幸いだが、流石に危険度は男が同行しているよりもはるかに高いため、寝床を作るときは気を使う。

 と入っても、歩く災害とも言われるほどの実力を持つクリスティーヌに精霊のファルセットがいるし私自身も野宿自体には慣れているため、万が一の時にも対処は十分出来るためそこまで気を使う必要性は無いのだが、むやみに面倒事を引き起こしたくは無いので、やはりそれなりには気を使う。

 火をおこして野宿しているのが一目ではわからないようにするといった簡単に出来る事でも効果は結構あるもので、今のところ、夜盗に襲われたり獣や魔物に襲われたりもしていないでどうにか過ごせている。

 月が出て居ない時は、逆に明りが無いと危ないので火をおこしはするが、現在の旅路では月明りがしっかりと届く日が続いているのでそれは不要である。

 鍋に野菜と肉を入れたスープを作るときには火を起こさずに魔法によって煮立たせて作る。

「アナタ、変わった魔法の使い方をするわよね」

「そう?」

 あまり自覚はしていなかったが、私の魔法の使い方はかなり変わっているらしい。

「何故鍋を火に当てなくてもお湯が作れて、あまつさえ野菜を煮立たせる事ができるわけ?」

「火を使わなくても熱があれば出来るからね」

 地球には電気というものが存在していて、火が無くても熱によってお湯を沸騰させる技術が存在していた。

 だから、火の属性を使い、火そのものを使用するのではなく、その熱を利用して水をお湯に変えただけなのであるが、それがそもそもこの世界の人々が知りえない知識であるようだった。

 いや。知っている人が居たとしても、それを魔法でやろうと思った人が居なかったのかもしれないだけなのかもしれないが。

「そんな話聞いたこと無いわ」

「そう? でも知らないわけじゃないでしょ? 火にあたった鉄板が熱を持てば熱い。そこで火を止めても鉄板は熱いままだよね? その熱い鉄板に野菜や肉を置けばそれらは焼ける。それは火に直接あてたことで焼けているわけではないでしょ?」

「そういえば、そうね……」

「つまり今私がやっているのはそういうこと。火で熱を発生させて、その熱で水を沸騰させてそれで煮立たせているだけ。沸騰したお湯は鍋にふたをしておけば結構長時間温かいままだから、それも利用しているのだけどね」

「……物知りね」

「そうかな?」

 曖昧に笑ってごまかして、野菜が似たった鍋に香辛料を加えてかき混ぜれば簡単な野菜スープが完成した。

「その……さっきは悪かったわね」

 食事を終えて一息ついたところでクリスティーヌが言った。

 町で引き起こしたことへの謝罪なのだろう。

 我儘で少し傲慢な所があるが、こうして意外と素直なのでどうも憎めない。

 精神的な面で言えば妹みたいな感覚だから、というのも多少ありそうではあるけれど。

「別に良いよ。私の被害なんて大したことないし」

 実際に被害を受けたのは町の人達であって私では無い。

 せいぜい悪い意味で顔を覚えられたかもしれない、程度だと思う。

「でも、怒るたびにあの規模の魔法を使われちゃ、ちょっと困るかな」

 本音を言えばちょっと困る程度では済まないのだが、謝罪をしている今の彼女に言うべきではないと思ってそこは黙っておく事にする。

「ああ、なっちゃうの」

「え? 何?」

「ああ、なっちゃうって言ったのっ」

「……魔法の事?」

「そうよっ!」

 ぶすっと不貞腐れたように頬をふくらませたその姿は、精神年齢はともかくとして、私より年上とは思えないほど子どもっぽいしぐさだった。

 見た目がいいぶん、こういった表情も可愛いと思えるのだからズルイものだ。

「昔からそうなのよ。私。嬉しいとか、悲しいとか、そういったものが全部魔法に出ちゃうの。それで、故郷でも厄介者扱いだったわ。怒ったら地割れが起きて、泣いたら大雨が降るの。今ならわかるわ。本当に、厄介な奴なのよ、私」

 そう言うと、クリスティーヌは自分の膝を抱えて丸くなった。

「もっと上手く扱えればいいのに、全然うまくいかないのよ。魔力があり過ぎるからと、どっかの占い師は言っていたわ。あり過ぎるから制御しきれないんだって」

「それは、どうなんだろう?」

 思った事をそのまま口に出したら、クリスティーヌがこちらをまじまじと見つめていた。

「どうって?」

「魔力があり過ぎるから扱いきれないってことでは無いと思うな。それよりも多分……」

 恐らく、今考えてだどりついて頭にあるこの結論は正しいと思う。

 けれど、これを口に出して言ったところで、私がどうにかできる問題なんだろうか? とも思う。

 少しの間言いよどみ悩んだが、最終的にはその結論を言う事にした。

 まだ先は長いのだし、改善してもらわないと大変な目に遭うのは目に見えているのだし。

「精神面が影響して、制御しきれていないだけだと思う」

 魔女と言われ恐れられるクリスティーヌに対して言う言葉としては、いささかおかしい気もするが、私の出した結論はそれだった。

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