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めぐり逢う恋  作者: 茶とら
第一章
10/47

現実と変化と3

「あー……」

 見事に予想が的中して、なんて反応していいのかわからずに、口から出たのは言葉ですら無いそれだった。

 向かい側の方がこちらよりも低くなっているため、その実情がハッキリと見て取れてしまったのがよりいけない気すらした。

(見事なクレーターだわ……)

 そう。まさにクレーターだった。

 隕石が落ちてきたんじゃないかと思うくらいに、それはそれは見事なものだった。

「あれて、どうなんでしょうか……?」

 答えを求めて問いかけたわけではないのだが、全力で関わり合いたくないと表情に出ている面々からはやはり回答はなかった。

 自分もあんなもの作り出す人間に興味はあるけど、面倒事には関わり合いたくないので同じような反応をしていたと思う。

「魔力の残滓からして、クリスでしょうね。まず間違いなく」

 そう言って、パーシヴァルが現実逃避気味な実に遠い目をした。

 こんなクレーターを軽々作る人間と知り合いとか、しかも身内だとか、可哀想過ぎる。

「実に面倒なので素知らぬ顔をして帰りたいところですが、村の人々を考えるとそうはいかないので、仕方が有りません。クリスティーヌ嬢を探しましょう。幸い、魔力をかなり使っている分残滓が大分残っていますから、すぐに見つけられるでしょうしね。パーシヴァル」

「はいはい。追いますよーだ」

 もう本当に皆投げやりである。

 パーシヴァルを先頭にして、魔力の残滓を辿って着いた先の事を考えて、私は小さくないため息をついた。

 暫く森の中を歩けば人の声が聴こえて来た。

 一人は女性の声、一人は少年の様な声である。

 聴こえて来た声に盛大に顔をしかめたパーシヴァルを若干哀れに思いつつも、声のする方へと近づいていったら、突如、突風が襲ってきた。

「なっ……!?」

 体が押し戻されるほどの風が森の中で起きる事は本来無い。

 木々によって風の勢いが弱まるからだ。

 つまり、意図的に今立つ場所より程近い場所で突風が発生していると考えるのが妥当だ。

 体が押し戻されそうになっている所を、フェルラートが風よけとして前に立ってくれたことで、少しは風が和らぎ何とか持ちこたえられる状態になる。

 先頭を歩いていたパーシヴァルが風の塊を作り上げてそれを向かってくる風を切り裂くかのように前方に放ち、その真後ろを駆けていった。

 そして。

「ひゃうっ!?」

「痛ったあーい!!」

 と二つの叫び声が聞こえると、突風が瞬時におさまった。

「ありがとうございます」

「……いえ」

 風よけをしてくれたフェルラートに礼を言うと、彼は返事をした後、器用に片眉をあげた。

「後で、治療しましょう」

 おもむろに触れられた頬に痛みが走り、初めて自分が怪我をしている事に気付いた。

 きっと、突風のせいで何かが頬をかすめて行ったのだろう。

 触れれば既に血は乾いているようで、ぴりぴりとした痛みを少しの間我慢する事にして、パーシヴァルが向かった先へと急いだ。

「ちょっと痛いじゃないのよっ!」

「煩いっ! いい加減に問答無用で魔法使うのはやめろって言ってるだろうが!」

「何よっ! 森の中で襲われる事だって十分考えられるんだから、先手を打って防衛したに過ぎないわ! それのどこが悪いのよっ!?」

「先手を打つにしても威力の限度を考えろっ! お前、俺が止めなきゃ森の木をなぎ倒すくらいやっただろうが!」

「それは……そんな事するはず無いじゃないっ」

「やる気だったのかよ……」

 パーシヴァルと相対するのは、緩く波打つ燃えるような長い赤毛の女性だった。

 彼女が恐らく、魔女クリスティーヌだろう。

 見た目の年齢は三十手前ぐらいではないだろうか。もう少し年配の人かと勝手に思っていたので予想外である。

 パーシヴァルの従姉というだけあって、顔の造形はよく似ていて、やや彫りの深いはっきりとした華やかな顔立ちをしている。

 赤毛を引き立たせるような濃いグリーンのドレスを身に纏い、手には自身の身長をやや越す程度だろう長さのロッドが握られていて、いかにも魔法を主体とした生活をしている感じが見てとれる。

「だからって殴る事無いじゃないっ! 女性に手をあげるなんて男としてどうかと思うわ!」

「言葉で言って止ると解ってれば殴ったりなんかしないっての!」

 永遠と続きそうな口喧嘩を半ば呆気に取られて見ていたが、そういえば悲鳴はもう一つあったなと思い周囲を見渡し、もう一つの声の主を見つけた。

 ふわふわとした、という表現がまさに当て嵌まる、十二、三歳ぐらいの、ちょっと変わった風貌の少年である。

 さわり心地がよさそうなふわりとした薄い金色の巻き毛は短く、クリスティーヌの着ているドレスよりもずっと淡い、若葉のような優しいグリーンの服は、袖の部分がやや広がっていて、ズボンは日本の袴のような形をしていた。

 そして何より変わっているのは、人間の耳の位置よりもやや上あたりに、羊の巻角のようなものがあることだった。

 喧嘩するパーシヴァルとクリスティーヌの様子におろおろしている少年はとても気弱そうに見え、悪名高い魔女の同行人としては、いささか不釣り合いの様な気がした。

 おろおろしている少年は、困ったように周囲を見渡し、初めてこちらに気付くと、その表情は一変して、ぱっと輝いた。

「カレンさんっ!」

「……はい?」

 突然見知らぬ少年に教えてもいない名前を言われて驚くのもつかの間、とてとてと駆けよって来た少年がちょっと涙目になっている顔をこちらに向けた。

(なんだこの可愛い子はっ!?)

 内心思いながらも、何か言いたそうな少年に尋ねる。

「私に何か?」

「あの、どうすればいいんでしょう!?」

「……あれの事?」

 まだ終わらない口喧嘩をしている二人を指すと、少年は頷いた。

「どうすればいいと言われてもねぇ……どうすればいいんです?」

 ラスティに目を向けると、彼は仕方なさそうに肩を竦めて二人を止めに入った。

「パーシー。その辺でとりあず止めなさい」

 まだ言い足りないといった表情ながらも、素直にラスティの言葉を受け入れ止めたパーシヴァルを見て、クリスティーヌも不満げながらも引きさがった。

 その様子を少年は安心したようにほっと息をついた。

「あの、ありがとうございます!」

「いや。私は何もしていないのだけれど……」

 なんとも微妙な状況に頬をかけば、そういえば怪我していたんだと言う事を痛みで思い出して盛大に顔をしかめる羽目になった。

「あっ! 怪我! あの、治します!」

「え?」

 少年が伸ばした手が頬に触れれば、すぐに痛みがひいていった。

 少年の手が離れた後自分でそこに触れれば、先ほどまであった怪我が消えているのがわかった。

「君、治癒魔法が使えるなんて、凄いね」

 治癒魔法を仕える人間は、魔法を仕える人間の中でもかなり珍しい。

 その理由は何故なのかはわかっていないようだが、才覚がなければ知識があったとしても、これっぽっちも治癒魔法は使えないというのはわかっている。

 つまり、この少年にはその才覚があるという事になる。

「ボク、一応精霊なので、簡単な治癒魔法は出来るんですっ」

「……精霊?」

「はいっ」

「君が?」

「はいっ!」

 いささか混乱しそうになる頭を一生懸命働かせてみて、何となく状況がつかめてきた。

 私の予想通りであればだが、この少年こそ召喚された精霊なのではないかと。

「ちょっと。何勝手に治癒魔法使ってるのよっ!」

 クリスティーヌの怒りの矛先が少年に向くと、少年は怯えた様子で私の背に隠れた。

(何故私の背に隠れるっ!?)

 確実にとばっちりが来る事確定な状況に心の中で涙すれば、やっぱり矛先が自分へと向いた。

「私が召喚した精霊を手懐けるとか、ふざけてんのアナタっ!? ファルセット、お前も何勝手に召喚者以外に懐いてるの! 契約違反よ!!」

「ボクは、この森の精霊ですから、森を大事にしてくれていた彼女にお礼をするのは契約違反じゃないですっ」

「……何よ。土地の契約に基づいてる人間なら、早くそう言いなさいよ」

「す、すみません……」

 全然話についていけない状況下の中、どうやら私は彼女の怒りを買う人間では無いと判断されたらしいことだけはわかったので、面倒事が大きくならずに済みホッとした。

「ところでパーシー。彼女が君の従姉殿で間違いないのかな?」

「ええ。認めるのが非常に癪ですが、俺の従姉のクリスティーヌです」

「いちいち余計な事を……ええ、私がクリスティーヌですわ」

 ぐちぐちと言いながらも、クリスティーヌは優雅な一礼をしてみせた。

 先ほどから癇癪を起して口喧嘩をしていたせいで台無しだったが、まともな態度であれば、とても奇麗な人である。

(性格が全力で容姿の良さを台無しにしている気がするけど……)

「ところでクリスティーヌ嬢。実は伺いたい事があるのですが」

「何かしら?」

「数刻前、このあたりで非常に大きな揺れが起きたのですが、その原因に心当たりはおありで?」

「揺れ? そんなものまったく感じなかったけど」

 クリスティーヌは平然とした様子で言うのとは対照的に、私の背後に居たファルセットが小さく呻いた。

「……それは」

 背後に居たファルセットに目を向けた一同に、彼は泣きそうな顔で言った。

「多分……いいえ、ほぼ確実に、ボクらが原因かと……」

「何言っているの? ファルセット。揺れなんてまったく感じなかったじゃない」

「……はい。ボク達は地上に居なかったので揺れを感じられなかっただけですから」

「何よ。丁度私達がこっちに飛び移っている時に揺れたって言うの? どうしてわかるのよ」

「それは……」

 すまなそうに項垂れる彼が、正直かわいそうでならなかった。

「こちら側に飛び移った時にした事が原因で、揺れが発生したからだと……」

 クリスティーヌが何かを言おうとしてそれを止め、暫く黙りこんだ後に、顔をやや引きつらせてそっぽを向いた。

 彼女もやっと気付いたらしい。

「何よ。ちょっと、近道しようとしただけよ」

「……クリス」

 頭を抱えたパーシヴァルの様子から、きっと彼女が本当にそういった理由で無自覚で地震を引き起こしたに違いない事を察する事が出来た。

「とりあえず、揺れの原因がわかったので良しとしましょう。とりあえずは被害は少なそうですしね」

「ごめんなさい」

 しょんぼりと謝るファルセットの姿が、なんだかとても痛々しく見えた。





 地震を引き起こしたクリスティーヌとファルセットを伴い、村へと戻っている最中、ファルセットは私とロズリーの間を行ったり来たりしていた。

「召喚された理由はちょっとあれでしたけど、カレンさんとロズリーさんと話せる機会が出来て嬉しいです!」

 召喚魔法で召喚する精霊は、その土地に大きく影響を受ける様で、望んだ力を持った精霊を、その土地の中で持ちえる精霊が呼び出されるのだと言う。

 ファルセットはこの森を中心とした周囲の木々が茂る場所を住処としていた精霊だそうで、主たる力は森を養うに長けた力である水なのだそうだ。

 クレーターを造り出した力は私の想像とはやや異なり、爆発の威力を利用して跳んだ事で造り出されたものだったようだ。

 火が出た所は見られなかったので、水素爆発に近い爆発を起こしたのかもしれないが、そのあたりは不明である。

 だが、かなりの力業であり複合した魔法を使用して引き起こさなければならなかったようで、そのためにファルセットは召喚されたのだと言う。

 何だかすごい理由だ。

 召喚された理由はさておき、ファルセットはこの森を住処にしていたため、森を出入りする私やロズリーの事を知っていて、時折聴こえないと知っていても話しかけてすらいたそうだ。

 ここ数日は森から少し離れていたため、三人の騎士の存在は知らなかったとのこと。

 また、詩人ファルセットと同じ名だと言えば、彼は素直に名前が一緒である事を喜んでいた。

 ファルセットって、よくある名前なんだろうか?

「昔から、お二人の事はよく見ていました。他にも、森を良く出入りする者たちもです。いつも森を大切に扱ってくれるので、機会が有れば是非お礼を申し上げたいと常々っ!」

 子犬が足の周りをうろうろするのと似たような感覚で、少しだけ邪魔だと思わなくもなかったけれど、あまりにも嬉しそうにしているものだから、仕方がないかと相手をした。

 表情を見るかぎり、ロズリーも私と同じ気持ちだったように見えた。

 召喚した等の本人はといえば、一度止めたパーシヴァルとの口喧嘩を再開していた。

 ラスティは誰も相手をしてくれないからつまらないと、フェルラートにずっと愚痴を零しており、フェルラートは迷惑そうな表情で無言を貫いていた。

 村に戻った時にはすっかり日がくれていて、各家々は普段通りに夕食の準備をしているようで、広場には誰も居なかった。

 途中、森小屋でクリスティーヌとファルセット、ロズリーとパーシヴァルとは一旦わかれることになった。

 元凶となった人物を連れていくのはちょっと、という事でクリスティーヌは居残り組で、必然的に暴走の阻止をする役目をパーシヴァルが受け持つ事になった。

 容姿が目立つため変装せずに村に行くのははばかられるファルセットには、剣呑な雰囲気に一人おいて行くのは辛いだろうと、話し相手としてロズリーも居残りを言い渡された。

 ロズリーは確実に貧乏くじを引いた形になるのだが、村へ報告した後に再び小屋に戻るときには夜遅くとなるために、その際に一人で歩くのは危険だからとラスティはフェルラートを連れて行く事に決めたので、村に戻ったのは私を含めて三人だけとなった。

 小さい村ではあるものの、それなりに人は居るため一軒一軒知らせに行くには無理があるので、村長に原因をそれとなく濁した表現で伝え、明日には連絡が回るように手配してもらい、やっと役目が終了した。

「なんだか長い一日でしたね」

「本当に」

 笑顔で答えるラスティと、無言で頷くフェルラート。

 彼らも普段鍛えているとは言え、今日のことに関しては精神的に疲れたのではないだろうかと思うくらいに覇気が薄い気がした。

 家の前まで送り届けてもらい、そこで彼らと別れの挨拶を交わす。

「明日、王都へ向かう前には再びよらせて頂きますね」

「わかりました。ちゃんとお見送り出来るように気をつけますね」

「それは嬉しいなぁ! ではまた明日」

 ラスティとフェルラートの姿が見えなくなるまで見送った。

 一度だけ、フェルラートがこちらを向いたような気がしたが、暗がりだったため、本当にこちらを向いたかどうかはよくわからなかった。

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