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シリーズ1・第八話

「普通は朝井以外の人物の指紋が最低でも一人ないし、二人は検出されたっておかしくはないだろ?」




「……っ」


是永に言われ、ハッとする長原。




「コンビニやスーパーの店員の指紋の一つくらい付着していてもおかしくない。


 だが、あのライターからは朝井の指紋しか検出されていないし、


 煙草も吸わない彼女がライターを持ち歩いていたとは考えにくい」




「なら……朝井が買ってから自分で拭き取ったんじゃないんですか?」


更に反論する長原。




「何の為に?」




「そ、それはわかりませんが……」




「とにかく、朝井のアリバイがある以上、朝井はもう容疑者ではない。


 その結論でいいですね? 課長」


是永は佐田の方に向き直った。




「そうだな。ライターの指紋の事は私もおかしいとは思っていた。


 しかし、朝井本人からアリバイを確認するまではと取調べを行ったが、


 アリバイの裏も取れたならいいだろう」




「課長っ」


長原が佐田に詰め寄る。




「長原、お前は仲間を信じていないのか? 本当に朝井が自分の名前も出ていない誤認逮捕の記事の事で


 御木本さんを殺害したと思っているのか?」




「そ、それは……っ」




「お前が朝井の事を気に入らないのはわかっている。


 だが、朝井は失敗も多いが一生懸命やっているのがわからないのか?」




「……」


佐田に言われ、黙り込む長原。




「ですが、朝井は一応今回の捜査からは外した方が良くないですか?」


だが、今度は別の男性刑事がそう進言した。




「いえ、その心配には及びません。俺がついてますから」


そうキッパリ言ったのはタマキのバディである是永だった。




「……」


長原は彼のその言葉にまた面白くなさそうな顔を浮かべたのだった。






取調室から解放されたタマキは容疑が晴れ、捜査にも参加出来る事になった。


さっそく見張りとして一緒に取調室にいた竹岡と共に捜査会議に参加する。




「及川さんに会ってアリバイの裏付けの他に気になる情報を得ました」


是永はメグルから聞いた誤認逮捕の一件が菅野から御木本にリークされた可能性がある事と、


御木本の評判が良くなかったという事を報告した。




「つまり、被害者の御木本さんはタマや及川さん以外にも恨みを買っていた可能性がある訳っすね?」




「私、御木本さんの事、恨んでなんかいませんっ」


竹岡の言葉に思わず立ち上がるタマキ。




「わかっている」


是永は落ち着けと言わんばかりの顔をタマキに向けた。




「タケが言ったとおり、御木本さんは複数人から恨まれていた可能性があります」


タマキが座ると是永は竹岡の質問に答えるように発言した。




「では、是永と朝井は誤認逮捕の方面から捜査を進めてくれ、長原と鈴野、それから竹岡は、


 被害者の御木本さんが過去に書いた記事から彼を恨んでいそうな人物を割り出してくれ。


 後の者は再び周辺住民への聞き込みだ」


佐田の指示が出て、次々と捜査員達が出掛けて行く。




「…………」


そして、タマキもなんとなく背後に長原の視線を感じながら是永と出掛けたのだった――。






     ◆  ◆  ◆






その日の午後八時――。


タマキと是永は再びメグルの元を訪れていた。




「すみません、何度もお伺いして」




「いえ」


苦笑いしながら答えたメグルは哉曽吉と共に撮影スタジオから帰って来たばかりのところだった。




「ちょっと急ぎの仕事があるので作業をしながらになりますけどいいですか?」


忙しそうに手を動かしているメグル。




「はい、構いません」


是永は頷いて用意された椅子に腰を下ろした。


同じ様にタマキも椅子に腰を下ろす。




「それで? 朝井刑事もご一緒と言う事は容疑が晴れたんですね?」




「はい、あの……それで捜査の一環として来た訳なんですが……」


メグルの問いに答えるタマキ。




「誤認逮捕の件がリークされた事ですか?」




「そうです、その件についてどうしても気になる事がありまして」


続いて是永が口を開く。




「何でしょう?」


パソコンでコンパクトフラッシュの画像を取り込みながらメグルが一瞬だけ顔を向ける。




「損害賠償の件です。何故、急になくなったのか。その理由を教えて下さい」


そう訊ねた是永の隣にはタマキも居る。




「……」


メグルは答えを躊躇った。




「それはメグさんが話をつけたからですよ」


するとメグルの隣で作業をしていた哉曽吉がさらりと言った。




「ゲン」


メグルが制するが既に遅い。


是永とタマキが話してくれと言わんばかりの顔を向けている。




「……俺に来ている仕事の依頼を全て受ける事でキャップに納得して貰いました」




「え……そんな簡単な事でっ?」


タマキはあまりにも意外な事でポカンとした。




「“簡単な事”って言うけど、メグさんにとっては大変な事なんだよっ」


ムッとした口調で哉曽吉が言う。




「“女性は絶対に撮らない”というポリシーがお有りとか?」




「えぇ、まぁ……」


メグルは是永の言葉を肯定した。




「どうしてですか?」


タマキは首を傾げた。




「メグさんのポリシーは“女性は依子さんしか撮らない事”なんだよ」


またもあっさり口を割った哉曽吉。




「ゲンッ」




「その依子さんというのは……及川さんの恋人ですか?」


是永は少し遠慮がちに訊いた。




「……正確には“恋人だった”……です」




「え……でも、メグさん……」


哉曽吉はメグルと依子が別れた事を知らなかった。




「依子とはついこの間別れたんだ。それと俺のポリシーは“女性は依子しか撮らない事”じゃなくて、


 “恋人しか撮らない事”だ」


少し顔を赤くしたメグル。




「そうだったんすか……」


これには流石に哉曽吉もばつが悪そうな顔をした。




「だから、俺は別にポリシーを曲げて仕事を受けた訳じゃないんだ。


 今、俺には“恋人”がいないんだからポリシーうんぬんもないだろう?」




「じゃあ、これからもグラビア撮影の仕事も受けるんすか?」




「それは何とも」


哉曽吉の質問にパソコンから目を離す事なく答えたメグル。




「損害賠償についての事情はわかりました。ありがとうございました。


 それとリークされた件で何かわかった事がありましたらご連絡下さい」


是永はそう言うとメグルに名刺を差し出した。


タマキも同じ様に名刺を差し出す。




「わかりました」


メグルは二人の名刺を丁寧に両手で受け取った――。






     ◆  ◆  ◆






――翌日。


メグルと哉曽吉は記者の峯田と共に都内にある高級ホテルのリニューアルオープンの取材に来ていた。




「メグ、あれ……」


取材を終えたメグル達が取材車を停めている地下駐車場にエレベーターで下りると峯田が小声で話し掛けて来た。




「ん?」


メグルは峯田に顔を向けると、彼の視線の先に目をやった。


すると、少し離れた物陰に二人の男が居た。




「あれ、例の御木本に誤認逮捕の情報を流してたっていう菅野じゃないか?」


峯田がカメラを持っている男を指す。


峯田はメグルの向かい側のデスクという事もあって、昨日是永とタマキが来た時の話が聞こえていたらしい。




「あぁ」


メグルは菅野とはあまり面識はなかったが顔と名前だけは知っていた。




「誰と会ってるんでしょうね?」


哉曽吉も見覚えのないもう一人の男に首を傾げる。




「スーツを着ているあたりはどこかの記者かリポーターか?」


峯田はもう一人の男をまんじりと見つめた。




このホテルには連日リニューアルオープンの取材が入っている。


今日もメグル達の他にテレビの取材クルーを見かけた。


だから、もしかしたら菅野ともう一人の男も取材に来ていたのかもしれない。




「だけど……同じ社内の人間なら車で来ているだろうから車内で話すだろうし、


 車じゃないにしても態々こんな人目につき難い場所で話さなくても良くないか?」


メグルはふと思った疑問を口にした。




「それもそうっすね」


哉曽吉も確かにという顔で頷く。




メグルは芸能人のスクープを追う上でいつも使っているカメラの予備の為に、


自分の胸ポケットに仕込んでいるペン型の小型隠しカメラのシャッターを切った――。






     ◆  ◆  ◆






その日の夜――。




「……ん?」


是永の携帯に一通のメールが届いた。




「っ!?」


(……これはっ)


是永はメールに添付されている画像に目を見開いた――。

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