プロローグ②
コンコンコン、と3回扉を叩く。
ガチャリと音がして50代後半に見える男性が外に出てきた。男性を見て俺はニコリと笑いかける。
「師匠、お久しぶりです。お変わりないようで何よりです」
俺は師匠の家がある辺境の地の山の奥深くに赴いた。そして、久しぶりに見れた姿に安堵した。昔から全然変わっていないな、と。
いつも通りの皺がある顔に白髪、鍛えていることが服の上からでもわかる身体。とりあえず生きていることに安堵し声が和らぐ。
「誰ですか?私に貴方みたいな弟子はいなかったはずですが」
安心も束の間。師匠の第一声から分かる通り、存在を忘れられていた。
「え、師匠、ふざけてるんですか?俺ですよ師匠の一番弟子!」
慌てて師匠にとっての愛弟子であることを証明する。
「シア、か?」
「はい、シアです!」
威勢よく返事をした途端、頭上から拳骨が落ちてきた。
「この、馬鹿弟子!」
ついでに怒声も。
「痛い、何するんですかぁ」
「おま、お前!シア!顔を見せず、連絡も無視し、手紙もよこさない!何考えてんだ。私がお前のことをどれだけ心配したと思ってる⋯⋯」
思わず痛みで顔が歪んで座り込む。師匠の顔を見上げると、顔がいつもの強面ではなく歪んでいる表情が目に入った。勿論、すぐにいつもの強面に戻ったが。その表情を見たあと、自分のなかにある罪悪感が流れ込んできた。
「すみません」
立ち上がりながらそう言うと、師匠は大きなため息をついた。
「とりあえず、家に上がりなさい。話はそこでじっくり聞くとしよう」
「はい、ありがとうございます」
そうして俺はひとまず許しを得て師匠の家にあがった。
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椅子に腰を掛けていると
コトン、と机に湯気の立つ蜂蜜入りのココアを目の前に置いてくれた。入れてくれた本人は水をコップに注いただけなようなので「コーヒーでもお入れしますか?お土産に持ってきたんです」と声をかけると「いや、良い。」と、断られた。
「いただきます」
喉に通し、ふぅ、と一息つく。
「それでは、帰ってきた詳細をお話しますね」
「あぁ」
「実はですね、名前は分かんないんですけど俺の友人を名乗る人から騎士団で働けって言われてて⋯⋯あっ、ご丁寧に騎士団への推薦状まで送られてきました。だけど、騎士団で働くとか、とても俺にはむりなんです!なので!騎士団で働かなくていいように働きかけて欲しくて⋯⋯」
「待て待て」
段々と師匠の顔が険しくなっていく。
「はい?」
「はぁ、内容を端折りすぎだ。今の話から分かったのは騎士団て働きたくないから断ってほしいってことだけだぞ」
「はい、嫌なんですよ」
「⋯⋯お前なぁ、我儘な子供か?少しは我慢しろ」
両手を胸の前でクロスさせて、ばってんを作る。
「シア、騎士団で働いてきなさい」
「え、嫌です」
ここまで断固として嫌がっているのは当然理由がある。
騎士団で働くということは下っ端をやり、危険な演習にもついて行かないとならないということ。第一、騎士団は剣を使った近接戦闘を主要としていて、俺は魔法を使った戦闘を主としている。剣と魔法の戦いには大きな差がある。差があるというとは、自身に危機が迫ったときの咄嗟の対応に差が出る。騎士は回避又は受け流し。魔法は相殺か回避。対応の差が出る場合、俺が魔法を放った時騎士が避けた方向に放ってしまう危険がある。逆も然りである。つまり、双方にとって危険すぎるのだ。そんな騎士団で魔法を主とする俺が働くことは騎士にとっても俺にとっても死の確率が上がるのだ。
「ずっと私からの連絡も無視し、手紙も送ってこなかったのは誰だ?」
「⋯⋯俺です」
「一年に1回は帰ってくるって約束だったな」
「⋯⋯はい」
「破ったよな?」
「⋯⋯いや、それには深い事情が⋯⋯」
「口答えするな」
「⋯⋯はい」
自分が悪いので反論できず、どんどん追い込まれていく。すると、師匠は大きくため息をついて地面に視線を向けた。一拍の沈黙の後、
「分かった。期限を決めよう、3年だ⋯3年働いてこい。お前を騎士団で働くように推薦状を書いた人に言ってやる」
諦めたような目をした師匠は妥協案を出してくれた。
「本当ですか!?」
「ただし、騎士団で働くときの名前と年齢は新しく作る」
「え?何故ですか?推薦状も名指しで貰ってるし偽っても意味ないと思いますが」
きょとん、と間抜け面を晒す。しかし、師匠の眼差しは真剣だ。
「なんでも、だ。わかったな?」
頷くと「ふぅ」と息を吐きながら師匠は表情を少し緩た。
「3年はきっちりやってくるんだぞ、明日シアの新しい情報を渡すから頭にいれるんだぞ」
「はい!」
やっぱり師匠は優しい!
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【履歴書】
名前 シアン・ロゼ
年齢 19歳
性格 穏やか・真面目
得意魔法 特になし
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履歴書に目を通し、頭に浮かんできた言葉は一言である。
「性格は、変えれないですよ、師匠」




