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⑥ニートスライム、ダンジョンに行く


深夜0時半、俺は大阪ダンジョン受付にいた。


無理にチビを収納しているため、胸がもたれている。早く出したい。


施設管理料1000円と、レンタル棍棒代2000円を支払う。

「はい、では引換券です。あちらでお受け取りください。」


言われるままレンタルコーナーに向かい、棍棒を受け取る。探索初心者にとって、この一本が生命線だ。


深夜なのにダンジョン入口は人でごった返している。列の後ろに並び、入場を待つ。


そんな中、端の空いたレーンを悠々と歩く3人組がいた。


それを見た近くの男たちが羨ましげにこぼした。

「あー早く1層クリアしてえな。」

「な、優先権羨ましすぎるわ。」

「俺らも今日行けるんちゃう?2回目でボス倒したやつらもいるくらいやし。」

「そういうのは命知らずのあほだよ。」


1層をクリアし2層以降へ進める探索者には優先枠が設けられている。

本来はじっくりレベルを上げてから1層ボスを倒すことが推奨されている。


ただ、予約の取れない現在では、無理な突撃をして死傷するケースも散見される。


とは言え、他人事ではない。

チビがどれだけやれるかによっては1層ボスへのチャレンジもあり得る。そのつもりで予習はしてきた。


さあ、久しぶりのダンジョンだ。

チビは何ができるんだろう。


胸のむかつきを抑えながら、ゲートをくぐった。



「お〜広いな〜」

1ヶ月前のいけもんと同じリアクションをしてしまった。

入口付近は探索者の姿も多い。ここではチビは出せない。


「もっと先やな」


俺は人の少ない方へ歩いた。

低木の陰を選びつつ進み、入口から十分離れたところで立ち止まる。


周囲を見回す。

よし、誰もいない。


「……出てこい、チビ」


意識を向けると、足元の草がぶわっと押しのけられた。

ぼすん、と鈍い音を立て、ぷるっとした巨体が現れる。


「はあ〜〜っ」


胸のつかえが一気に消えた。気分が全然違う。今までずっと胃の上に石を乗せていたようなものだ。


思いっきり深呼吸すると、身体中に魔力が満ちるのを感じる。身体がダンジョンに来れたことを喜んでいた。


「今日調子いいかも」


チビもぶるんと全身を揺らし、草を寝かせながら俺の方へ寄ってきた。

よし、変わらずでかい。


「今日は運動やぞ。痩せよな?」


ぷるっ。


返事なのか、ただ揺れただけなのか、分かる日はくるのか。


その時、近くの草がもぞりと揺れた。

飛び出してきたのはスライムだ。


「うわあ〜ちっちゃ〜かわいい〜」


幼かった頃の子どもを懐かしむ親の気持ちが分かった。


不用意に近づこうとしたが、チビが俺の前に立ち塞がる。なんだ?と思った時にはチビはのっそりと動き、


ぼふっ。


野生のスライムに乗っかった。

いや、ぼふっ、よりプチっだったかも。チビの身体にひかれ、そのままモヤとなった。


「これがスライムプレス...!」

なぜかつい技名をつぶやいてしまった。


スライムには勝てる。だがゴブリン相手にも通じるのか、それが重要だ。


さらに移動する。人目を避け、時々アイテムボックスに戻しながら進んだ。


ガサっ

前方の草が揺れ、1体のゴブリンが飛び出した。


「GUAAA!!」


獰猛な叫び声、尖った歯、飛び散る唾液。血走った目がこっちを捉えた。


ギュッと自分の体が縮こまるのを感じる。


ゴブリンがためらうことなくこっちへ突っ込んでくる。


「チビ!」


俺が叫ぶと、チビがぶるんと揺れて前に出る。


振り下ろされた棍棒がゼリー状の身体にずぶりと埋まり、そして跳ね返された。ゴブリンの手を離れて飛んでいく棍棒。


「GA?」

ゴブリンは驚きに目を見開いたが、すぐにチビをにらみつけ、拳を振り下ろした。

ぶよん、その拳もあっさり弾かれる。


今だ!ふるえる体を抑えつけ、魔力を意識し足を踏み込む。

「おら!!」

上段から振り下ろした棍棒がゴブリンの右肩を強打する。

「GUAA!!」

痛みに顔をしかめ、こちらに目線を送るゴブリン。


俺は棍棒を握り直し、頭めがけて思い切り横薙ぎに振るった。

ゴッ、にぶい打撃音が響き、ゴブリンは草の上に倒れ込み、そのままモヤとなった。


「やった......はあ、はあ」

肩で息をする。直後、体内の魔力が熱を上げるのを感じる。レベルアップだ。


「チビ、ありがとう。痛くなかったか?」


巨体を揺らし近づいてきた。殴られた箇所はなんともなさそう。


「レベルどうなった?アイテムボックス」


【スライム(肥満)Lv.2/10】


レベルアップしていた。よしよし。確認を終えると、すぐにまたチビを出した。


ゴブリンからは布がドロップした。

指先でつまみ恐る恐る臭いをかぐ。


「......よかった~無臭や」確認しアイテムボックスにしまう。



ゴブリン1体。

それだけなのに心臓は高なり、震えもまだ止まらない。

それでも勝てた。しかもチビは無傷だ。


まだ先へいける、前方に目をやる。

低木が増え、草丈も高く視界が悪い。ゴブリンが潜んでいそうだ。


ボス部屋に向かうにはこの辺りを抜けなければならない。


「もうちょい行くで、チビ」


俺の前を歩きだすチビ、張り切っているのか?

チビが押し広げた草の上を歩く。快適すぎる。

おかげで索敵に集中できる。


左前方の草が揺れた。反射的に意識をそちらへ向けると、飛び出してきたのはゴブリン達。


「うわっ、2体!」


「GYURU!!」

「GUAAA!!」


片方が正面から、もう片方は少し回り込むように走ってくる。


チビが正面の一体を受け止める。

そっちは大丈夫だろう。


問題は俺だ。回り込んできたもう一体が棍棒を振りかぶる。


「くっ!」


慌てて棍棒で受けとめた。驚きはしたが威力はそうでもなかった。


さらにゴブリンが振りかぶる、それに対して俺も棍棒をふるう。

棍棒同士がぶつかった結果は俺の勝ちだ。ゴブリンの棍棒が宙を舞った。


「くらえ......」魔力を込めた棍棒を振りぬこうと構えた、


その瞬間――


横から、薄い青色の巨体が勢いよく転がってきた。

「えっ」

ぼにゅん!!


不思議な衝撃音。

ゴブリンの側面にチビが全身でぶつかった。


「GYABAA!?」


そのままゴブリンは派手に吹っ飛び、草の上を二転三転する。そうしてモヤとなった。


「転がった!?」

チビだった。

でかい。丸い。重い。その全部を活かして普通に轢いた。


正面のゴブリンはやられた仲間を見てギャアギャアわめいている。


「おら!」

俺は踏み込み、がら空きの左腕に棍棒を叩き込む。


「GUAA!!」


よろけて膝をつくゴブリン。

その上にチビがのっそりと覆いかぶさった。


ぼふっ。


潰されたゴブリンが短く叫び、そのままモヤと消える。

静かになった。


「ええ......」


思わず口から漏れた。

チビは何事もなかったかのように、ぷるんと体を揺らしている。


受け止める。弾く。押し潰す。しかも転がる。


「チビさん多才やな?」


ぷるっ。

どう見ても得意げだ。


俺は荒くなった息を整えながら、地面に落ちた棍棒と腰布を回収した。

チビが時間を稼いで俺が殴る、これがプランだったが、防御力も攻撃力もチビの方が高いようだ。


なんだかなぁ


「……ボスいけるかも」


ゴブリンの顔には慣れないし、二体来た時は普通に死ぬかと思った。


それでも、前回とは違う。今の俺にはチビがいる。


「よし。もう少しだけ進もう」


そう言うと、チビは大きく揺れた。

俺は棍棒を握り直し、チビと一緒にさらに奥へ足を進めた。


【ゴブリンの腰布】

ゴブリンが身につけている腰布。

魔力をわずかに通す素材で、加工も容易なため重宝されている。

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