⑤手記
「花村善の手記」
□ 2026年9月12日 23日目
ついに31.5kgと大台に乗った。
ここで止まると予想している。いや、願望だ。
□ 2026年9月13日 24日目
37.2kg。
でかい犬くらいか。
まだ抱えられる。問題ない。
□ 2026年9月14日 25日目
43.9kg。
身体強化をすれば抱えられなくはない。
腰を少し痛めた。
問題ない。
□ 2026年9月15日 26日目
51.8kg。
問題ある。
□ 2026年9月16日 27日目
61.2kg。
俺も測ってみたら61.0kgだった。抜かれた。
□ 2026年9月17日 28日目
72.1kg。
今日も予約が取れない。
チビの身長は1m近くある。
てかもうチビじゃなくね??
□ 2026年9月18日 29日目
85.5kg
重い。かわいい。
おもかわいい。
□ 2026年9月19日 30日目
100.4kg。
デカイ オモイ
モウムリダ
□ 2026年9月20日 31日目
121.0kg
ム リ
......手記はそこで途絶えていた。
ぼすん!ぼすん!
俺は慌てて顔を上げる。
「ちょっとチビさん!跳ねないでください!!」
跳ねると言っても、数mmも浮いていないが。
よーしやるしかない。このままじゃ部屋が埋まる!ダンジョンに、行くしかない!
チビがでかくなって、90cm四方のコタツ机は廃棄した。本棚も廃棄した。
歩けなくなっちゃったもんね。
部屋の中はベッド、テレビ、チビ、俺で終わりだ。
「チビさん、大人しく待っててな」
ベッドに置いたノートパソコンで、大阪ダンジョンの予約ページを開く。
全ての時間が満員だ。
更新。満員。
更新。満員。
更新。キャンセル待ち多数。
「頼むって」
更新、更新、更新。
横でぼすん、ぼすん、と音がする。
やめい、床が気になる。
120kgて、大台が過ぎる。
完全に想定を超えた。
さらにだ、問題は今の重さじゃない。明日も増えるかもしれないことだ。
俺はスマホを取り出し、いけもんにメッセージを送る。
[チビ、120kg]
一分も経たないうちに返信が来た。
[え?笑]
[120.0kg]
[圧死しないでくださいね笑笑]
[他人事!次は一人枠じゃなくペア枠確保よろしく!!]
いけもんは俺がスライムと過ごす1か月の間に2回ダンジョンに入り、1層のボス部屋付近まで行ったらしい。さすが豪運。
うらやましいなあと思いながらトイレに立つ。チビがいるせいで通れない。
ちょっとどいてね、ぷにっと触って「アイテムボックス」
......え?
【スライム(肥満)Lv.1/10】
単一魔力で育ったスライム
極度に肥大化している
「いや肥満て」
思わず突っ込んだ。アイテムボックスさん容赦ないな。うちの子を肥満だなんて失礼な。
トイレと逆側にチビを出す。ぼすん。
「うん、合ってるわ。なんなら俺がそう思ってるから反映されてそう。」
ぷるぷる。誇らしげに見えるのは何ですか。
それにしてもだ、単一魔力で育ったってことが重要なファクターなんかもなあ。チビは出現後すぐに俺の魔力を食べて、アイテムボックスに収納後ずっとうちにいた。
元のスライムの説明は[魔力の浸透性が高くなじみやすい]って感じやったから、俺の魔力になじみになじんだ状態なんだろうな。
「魔力量は凄そうやけど素早さ0やろこれ」
だめだだめだ、予約とらな。
用を足して部屋に入ろうとすると、チビがいて通れなかった。
◇
今日はとことんやってやる。いつもは1時間もやれば心は折れる。
でも今日の俺は本気だ。肥満スライムを健康スライムにするぞ。
更新。満員。
更新。満員。
更新。キャンセル待ち多数。
深夜1時のキャンセル枠は申し込んでおく。抽選だ。
更新、更新、更新。横でぼすん、ぼすん。
床がちょっと嫌な音を立てる。
「チビ!もう夜やからぼすん禁止!な!」
チビを片手で制しながら更新を続ける。目が乾く。いつもならもう心が折れている。
「なんでやねん……!」
その時、画面の一部が切り替わった。
【深夜1:00~4:00 空きあり】
「うお!?」
反射でクリック。名前確認、同行者なし、申請。クリックーーー!!!
読み込みマークがくるくる回る。
次の瞬間、【予約を受け付けました。】
「しゃあ!!ひさびさあ!!」
思わず立ち上がって叫んだ。チビもつられて飛び上がった。
あ、ごめんなさい夜でした。
「よし!久々にダンジョンいけるで!ふるさと!運動や!ダイエットや!!」
ぷるんぷるん。
この120kgスライムを家の外に出せる。魔力でできた体だ、魔力を使ったら痩せるだろ。
「待ってろダンジョン、見せつけてやるぜ、うちの肥満スライムをな」
[チビ(肥満)]
本来雑多な魔力を吸収して成長するスライム。
生まれてから善以外の魔力を一度も吸収しなかったことで、善の魔力に完全同調した個体。




