③おうちに帰ろう
俺はスライムを抱きかかえたまま周囲を見渡す。
幸い近くに探索者の姿は見えない。
「いけもん」
「はい」
「これ絶対バレたらあかんやつ」
いけもんが珍しくまじめな顔をした。
「ですよね。国家案件ってやつでは。善さん研究施設に押し込められたりして。」
「日本やしそれはないやろけど、マスコミがすごそう。」
「なーんかスライムゼリーで名札収納してキャッキャしてたのなんだったのレベルですね。」
「とりあえず、スライムはしまっとく。でもちょっと戦わせたい。」
「めっちゃ分かります。でもめっちゃ弱そうです。ぼくもテイムしたい。」
「いけもんも狙ってみるか!」
◇
「あ、いた、スライム!善さん、ちょっと僕も試させてください。」
いけもんは先ほどから魔力を手に集中させ、放出する練習をしていた。なんとしてでもこの時間にテイムするぞと意気込んでいる。
スライムの近くにいくと、真剣な顔をしながら手を差し出し、
「スラたん、ぼくと友達になろう」
手からスライムへと魔力を垂らした。
魔力が触れた瞬間、スライムは飛び跳ねて、いけもんの腹部に突っ込んだ。
物理的な衝撃にぶっ飛ぶいけもん。これ失敗してるな、そう察した俺は棍棒でスライムをぶっ叩いた。
うう、とお腹を抑えるいけもん。
「大丈夫か?怪我は?!」
「スラたん...」
うん、大丈夫そうだな。
失敗した要因は?
いけもんの魔力はスライムとの相性が悪かったとか。スライムという種族か、個体差なのか。
いや、俺がテイムしたスライムは生まれたてだった。魔力が馴染みやすかったとか、それこそ親と思ったとか?
「いけもん、出来立てのスライム探しにいこう」
「いやそんな料理みたいに言います?ここで見つけないと次いつ予約できるか分からないんで、頑張りましょう!!」
◇
「ああ、時間オーバーですね」
いけもんが残念そうに言う。探索時間の3時間が終了した。
出口のゲートをくぐる際に、見張りの自衛官へと軽く会釈する。
アイテムボックス内のスライムを外に持ち出す。そう思うと冷や汗が出た。
「良かった。何も起きんくて。」
「そうっすね、身体が爆発するとかスライムに乗っ取られるとかなくて良かったです」
え、こわ。
「とりあえず帰ったらこいつのこと色々研究してみる。」
「研究者モードっすね。ぼくはまたしばらく予約狙って頑張ります。」
「じゃあまた会社で、今日はありがとうお疲れさん。」
◇
帰宅。
玄関のドアを開けるとホッと一息。
もう朝だ。疲れた。
今日が土曜日で良かった。
先にシャワーを浴びよう。
◇
さてさて、
「アイテムボックス」
ぽよん。
透明なスライムが床の上に現れた。
バレーボールくらいのサイズ。ほんのり青く光っている。
「ほんまにおるかあ。」
俺はしゃがんでスライムを指でつついた。
ぷに。柔らかい。ぷるぷる。なんとなく……嬉しそう?
スライムはぽよんともう一度跳ねた。少し考える。
「チビちゃんって感じ。」
ぽよん。
「よし、チビな。」
こうして、俺の従属魔物の名前はチビになった。
まずは体重だけ測っとこうかな。
キッチン用のスケールを取り出して、チビを乗せる。
「770gか。」水よりは軽いかな。
「ご飯は何がお好み?」手に乗せて聞く。
まあ魔力ってのが定番かな。そう思い手のひらに魔力を集める。
すると、すーっとチビに向かって魔力が流れていくのを感じる。やっぱり魔力か。
おいしかったか?
ピョンピョン跳ねるチビ。嬉しそうな気持ちが伝わってくる。
「あ〜もうかわいい、めっちゃかわいい」
実験体として無茶苦茶にしてやるぜ〜とこっそり思っていた、そんな気持ちはもうどこにもなかった。
「とりあえずもう寝よ。どこ置いとくのがいいんやろな。」
少し考え、ベッドの横にタオルを敷いた。そこにチビを置く。ぽよん。
「逃げたらあかんで。」
チビはその場でぷるんと揺れるだけだった。
「うん、やっぱしまっとこ。アイテムボックス」
眠い。もう限界だ。俺はそのままベッドに倒れ込んだ。
「おやすみ、チビ。」胸が温かい気がした。
◇
「ふあぁ~」
よく寝た。時計を見るともう夕方だった。
「アイテムボックス。よっチビもねてた?」
手の上にチビを出す。
なんとなく違和感を感じて、キッチンスケールに乗せる。
「790gか、ちょっと太った?」
俺はチビを持ち上げてまじまじと見つめる。まあ赤ちゃんやもんな、成長期やねと適当に納得した。
「じゃあ、晩ご飯どうぞ」
スーッと魔力が流れ、ぽよん、チビが嬉しそうに跳ねる。魔力量的には1,2割しか吸われてなさそうだ。
一日20gのペースで増えたらすぐ1kg超えそうやな〜。
その時の俺はまだ知らなかった。
チビの成長(体重)は思っていたよりずっと、とんでもないスピードだということを。
[スライムゼリー]
ダンジョンで採れる薬草と煮込むことで治癒薬が作成できる。魔石を加えると効果が増す。




