①いくぞ、ダンジョン
「......やっとだ。いくぞ、ダンジョン。待ってろ魔力。」
俺は、目の前のゲートと呼ばれるモヤを見つめ、一歩踏み出した。
未知の力、魔力。ああなんと魅惑的な響き。
2時間後...
「GYURUAAAAAAAAAA!!」
「こわいこわい!しぬしぬしぬ!!」
背後から迫る叫び声に、俺は必死に足を動かしていた。
追いかけてくるのは、くすんだ緑色の生き物。身長は胸元ほど。尖った耳と鼻、血走った眼、叫び声を上げる口からはヨダレが飛び散っていた。
右手には棍棒を握りしめ、理性の欠片も感じられない。
「聞いてたより、はあ、はあ、怖すぎる!!」
初めて目の当たりにするゴブリンはキツい、汚い、危険、臭い、キモいの5Kだった。無事に逃げ切れたら、もう二度とゴブリンには挑まない。そう心に決めた。
◆◇◆
世界各地にダンジョンができて早3ヶ月。
日本では国主導で調査が行われ、民間の立入りは禁止された。
一方、規制の緩い他国では民間人が雪崩れ込み、大量の資源を獲得した。
大量の死傷者とともに。
他国で得られたダンジョンの情報、モンスターやアイテム、魔法、それらは世界を熱狂させた。
日本も例に漏れず、どこを見てもダンジョンの話で持ちきりであった。
人々のダンジョンへの熱は限界に達そうとしていた。
自国資源に乏しい日本としても、この動乱には乗るべきだという思惑はあったのだろう。
ダンジョン出現の3ヶ月後。2026年7月1日、ダンジョンは国民へと一斉開放されることになった。
◇◆◇
「こっち!こっちです!」
迷彩服の自衛官がこっちに向かって叫んでいる。
返事をする息がない俺は目だけで訴える。助けて、と。
「さあこい!」
なんとか自衛官の横を走り抜けると同時に、足がもつれて大きく転倒した。
獲物を前に立ち塞がる自衛官に対し、ゴブリンは走る勢いそのままに棍棒を振るった。
危ない、そう思ったが、自衛官はたやすく棍棒の軌道から身を逸らし、バランスの崩れたゴブリンの頭部に淡く光る木刀を叩きつけた。
地面に倒れ伏すゴブリンは、身体を黒いモヤに変えて消失した。その後には小さな石が残った。
「大丈夫ですか?」
自衛官の問いかけに、汗と土でまみれた顔で、息も絶え絶えに答えた。
「あ、ありがとうございます。本当に助かりました。怖かった。」
「ゴブリンって、聞くのと見るのでは大違いですよね。とりあえず水でも飲んで落ち着いてください。」
こくこくと頷くと、握りしめていたレンタル棍棒を地面に置いた。手が強く痺れていたが、背中のリュックから水を取り出し、一息に飲み切った。
生きてて良かった、そう思うとまた身体から汗が吹き出した。
最初にスライムを倒せたことで、レベルは上がっている。念願の魔力も知覚することができた。今日はもう帰ろう。そう思い顔を上げる。
自衛官は20代半ばだろうか、強者のオーラを感じる。レベルが気になる。
「ありがとうございました。ちなみにレベルってどれくらいですか?」
自衛官さんは白い歯を見せ、
「軍事機密です。では、あちらの人を助けてきますね。お気をつけて」
そう言って、ゴブリン相手に大声をあげている人の元へと走っていった。
「さわやか、足はや、ゴブリンも一撃か。なんかすごい魔力感じたなあ。憧れる。」
とりあえず、ゴブリンの臭いがする場所から離れよう。
スライムがいれば倒そうっと。ぷるぷるしてるだけだしな。
そうして、青年ー花村善ーは初めてのダンジョン探索を終えるのだった。
[花村 善]
32歳、男性。172cm、62kg。
メーカーの品質管理課に勤める会社員。
好奇心につられてダンジョンへ。




