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魂の記憶が、微かに溶ける音

夜。

塔の花畑を散歩していたエマが、ふと足を止めた。


「……ここ。なんか懐かしい感じがする」


淡い紫の花が、風にそよぎながら揺れている。

一週目、俺がエマのために作った花畑と、

三週目の今作り直した花畑は、まったく同じ配置だ。


エマは知らない。

だが――魂は知っている。


「リュカ、この花……昔にも見たような……」


「ああ。おまえは、一度見ている」


エマが驚いたように俺を見る。


「え、なにそれ。

 私、転生してからしかこの世界知らないはずなのに……?」


「魂は覚えているだけだ。記憶ではない」


「……そっか」


エマは膝をつき、そっと花びらに触れた。


「風の匂いも似てる……。

 なんだろ。胸がぎゅってするけど、嫌じゃない……」


魂が震える音がした。

一週目の記憶が、名前も形もないまま溶け出している。


俺はその背中にそっと手を伸ばした。


「エマ」


「なに?」


「思い出さなくていい。

 でも……感じるものがあるなら、それだけで十分だ」


エマは少し笑った。


「そうだね。

 なんか“ここにいた気がする”って思う。

 理由はわかんないけど……不思議と安心するんだよね」


胸が強く締めつけられる。


「当然だ。

 おまえは一度ここで……俺の隣で生きていた」


その言葉を口に出すことはしなかった。

エマに真実を押しつけるつもりはない。


彼女が「安心」と言った。

それだけで十分だった。


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