90/102
これは三度目で、最後の世界だと信じている
エマがこの世界で笑うようになってから、
俺はふと、一週目と二週目を重ねてしまうことがある。
塔の書庫で本を抱える姿に、
孤児院の裏庭で木の枝を宝物のように抱えていたエマを思い出す。
魔力制御でつまずいて、
情けなさそうに笑う横顔に、
二週目の世界で、疲れた顔でもスマホの画面に笑おうとしていた彼女が重なる。
エマは、一週目のことを知らない。
俺と一緒に孤児院を抜け出した日も、
初めて手を繋いだ夕暮れも、
名前を呼び合いながら眠った夜も知らない。
それでいい、と今は思える。
彼女は「一度だけ死んで、二度目の人生をここで生きている」と信じている。
そのくらいに、世界の残酷さを薄めておいてもいい。
すべてを覚えている必要などない。
その代わりに――俺が全部覚えていればいい。




