二週目のエマを、遠い夢のように見ていた
魂を飛ばす魔術は、一方通行だ。
俺自身はエマの飛んだ世界へは渡れない。
けれど、魂に刻んだ「印」だけは、細い糸のようにつながり続けていた。
時折、夢の中で、あるいは瞑想の最中に。
俺は“別世界のエマ”を断片的に見た。
蛍光灯の下、紙と光る板に囲まれた薄い部屋。
夜中、ただ一人で、明かりだけを相手に笑いもせず座っている姿。
見たこともない文字で、何かを必死に書いている手。
朝も夜もよくわからないまま、
疲れきった顔でベッドに倒れ込むエマ――。
あの世界で、エマは「四十歳」と呼ばれる年まで生きたらしい。
多くのものに耐え、諦めながら、
それでもどこかで「誰かに愛されたい」と願っていた。
その願いがぼんやりと、魂の奥から伝わってきた。
触れることも、声をかけることもできない。
ただ、遠くから見ているだけしかできない無力さが、
何よりも悔しかった。
そして――彼女はまた、突然奪われた。
眩しい光。耳を裂くような甲高い音。
巨大な鉄の塊が迫り、エマの世界が弾けるように終わった。
二度目の喪失だった。
一週目と同じように、何も守れないまま、
遠い世界の中でエマはひとり死んだ。
それでも、今度は魂が消えなかった。
別世界で成熟した魂は、
再びこちら側へ流れ戻ってくる準備を整えていた。




