魂を遠くへ飛ばすという狂気
エマの身体から、ゆっくりと温度が消えていったあの夜を、俺は一生忘れないだろう。
腕の中で力がなくなっていく身体。
指先から滑り落ちていく温もり。
呼びかけても、もう返事はこなかった。
この世界には、エマの魂を戻すための器がもう残っていない。
どれほど蘇生の魔術を組み替えても、魂を呼び戻すための道が見つからなかった。
なら、どうするかは一つしかなかった。
この世界の外へ、エマの魂を逃がす。
ここではないどこかへ飛ばし、傷ついたこの世界の身体から切り離し、
いつかどこかで「もう一度」生きられるように。
エマの魂を抱きしめたまま、俺は塔の地下で禁忌の魔術陣を完成させた。
世界の理をねじ曲げるための式。
魔術師としては、完全に道を踏み外す禁断の術だ。
それでも迷いはなかった。
エマがいない世界の正しさなど、燃やしてしまえばいい。
世界を守るためにエマを失うくらいなら、世界の方を壊した方がましだ。
魂を包むように魔力を注ぎ込み、ゆっくりと言葉を落とす。
「エマ。もし遠くへ飛んでしまっても、必ず見つける。
どれだけ時間がかかっても、
何度世界を越えても……
俺が……俺が……必ず迎えに行く」
最後の陣が輝き、エマの魂は光の粉になって、
この世界の外へと弾かれていった。
あれが、一週目の終わりであり。
同時に、二週目の始まりだった。




