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奪われた光と、世界が音を失った瞬間
あの日のことを思い出すのは、
今でも胸が裂けるほど苦しい。
研究で数日、塔に籠った。
危険な魔力実験が続く時は、
エマを巻き込みたくなくて距離を置いた。
それが間違いだった。
僕がエマから目を離したわずかな隙に――
“あの男”が、エマを狙った。
嫉妬だったのか、
僕への憎しみだったのか、
ただの歪んだ独占欲だったのか。
理由など要らなかった。
結果だけが、
世界を壊した。
「リュカ……ごめん……」
僕の腕の中で、
エマはゆっくりと息を引き取った。
その瞬間、
色も、音も、呼吸すらも消えた。
魔法の才能など、どうでもよかった。
この身体が今ほど役に立たないと感じたことはなかった。
僕は、ただ叫んだ。
エマを返せ。
神にも、世界にも、魔法にも。
届かなくていいから、ただ叫び続けた。
エマのいない世界に、
何の意味もなかったのだから。




