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魔力に目覚めた日と、変わりゆく日常
魔力に目覚めたのは、突然だった。
木に触れた瞬間、無数の光が弾け、
大人たちが慌てふためく光景は今でも忘れられない。
「リュカ、すごい……!」
エマは目を輝かせて僕を見つめていた。
恐れよりも喜びが勝つのが、エマらしかった。
塔の魔術師たちは僕を迎え入れようとした。
「才能がある」
「孤児だからこそ、育て甲斐がある」
けれど、僕は頷けなかった。
塔に入れば、
エマと過ごす時間は確実に少なくなる。
それが許せなかった。
だから僕は塔を断り、
代わりに塔の近くの森に小屋を建て、
毎日エマと暮らす道を選んだ。
「リュカ、塔に行かなくていいの?」
エマは心配そうに言ったけれど、
僕には答えが一つしかなかった。
「エマがいない場所で強くなっても、意味がない」
エマは頬をぽっと赤くし、
小さな声で「……ありがとう」と言った。
それだけで何もかも報われた。
魔術師として何を成せるかより、
エマの隣にいることの方が大切だった。
その価値観は、一度たりとも揺らいだことがない。




