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孤児院の裏庭で見つけた光
あの日のことを、いまだに鮮明に覚えている。
薄曇りの空の下、孤児院の裏庭の片隅で、
小さな影がうずくまって泣いていた。
エマだった。
理由も知らないのに、
何故かその背中を見た瞬間、胸の奥が痛くなった。
どうしてかはわからない。
けれど――あの時から、
エマは“守るべきもの”として僕の中に存在し始めた。
「どうしたの?」
そう声をかけたら、
エマは赤い目をして、涙のあとを頬につけながら笑った。
「……なんでもないよ」
なんでもないと言いながら、
その声はか細く震えていた。
その瞬間、僕は思ったのだ。
――誰かが放っておくなら、僕が守ればいい。
その日から僕とエマは、
まるで呼吸のように自然に寄り添って生きるようになった。
互いに名前を呼び合うたび、
胸の奥があたたかくなる。
孤児でもなんでもよかった。
“エマが隣にいる”という、それだけで世界は十分だった。




